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MONO『ぶた草の庭』

旗揚げ26年目のMONO(本拠地・京都市)が2015年2月~3月に4都市ツアーした第42回公演『ぶた草の庭』は、カンパニーと共に高齢化していく観客というベテラン共通の課題に対し、積極的な対応を行なった公演として刮目に値する。

代表の土田英生氏は、高齢化による観客の偏りについて、記者懇談会の場で次のように述べている。

元々、自分たちの年齢と共に観客も高齢化していることに危惧を感じていました。
MONOの作品は普遍性を大事にしていますから、年齢を問わず色んな方に観てほしいと思っているんですが、偏ってきている気がしたんです。

あるとき、学生劇団の子に「俺らのことどう思ってる?」って聞いたんですね。そうしたら「もう縁のない人という感じ」と言われて。
彼らにとっては「ヨーロッパ企画」が京都では一番上の世代という意識だったんです。MONOはまだその上なんでしょ、みたいな。これはまずいと思いましたね。
で、俳優たちの年齢もあると思ったんです。若い俳優が出ていると、それだけで若いお客さんは「自分たちも観ていい芝居だ」と思えるんじゃないかと。

「私流俳優育成講座“土田英生・20代の俳優100人と出会う”」

土田氏は14年7月~10月に、全国5か所(東京、広島、北九州、伊丹、長久手)で全19コマの「私流俳優育成講座“土田英生・20代の俳優100人と出会う”」を開催している。1か所につき20名の若い俳優を育成し、今後の土田作品でキャスティング出来る人材を求めたのだ。受講料も1コマ1,000円と安価に抑えられた。今回の若手出演者のうち3名は、この講座参加者から選ばれた。

意外だが、MONOが公演特設サイトをつくるのは今回が初めて。節目の周年や公演回数でないにも関わらず、若い観客にMONOを紹介するため、非常に手の込んだつくりとなっている。スマートデバイス対応のレスポンシブデザインなのはもちろん、特設サイト内を自由に行き来させるインターフェイスに工夫を凝らし、「MONO的、若者へのススメ」「MONOの取り扱い説明書」「ときどきあるご質問」など、初心に返ったコンテンツを散りばめている。Web製作は間屋口克氏。

「MONO的、若者へのススメ」では、俳優育成講座の動画ダイジェストを公開すると共に、土田氏が観客の偏りについて直接訴えている。

MONOの平均年齢は40代半ばですから、去年の『のぞき穴、哀愁』という公演には20歳代のキャストに3人に出演してもらいました。MONOとしても世界が広がった気がします。別に20代にこだわっている訳ではないのですが(どんな世代にも観てもらいたいですから)、意志を持って出会って行かないと世界が狭くなってしまう危惧を感じています。
そうした思いから、昨年は私は20代の俳優に向けて100人と出会うという『俳優育成講座』を全国で開きました。
今回の新作『ぶた草の庭』にも俳優講座に参加したてくれた3人の20代俳優に出演してもらっています。決してアンサンブルなどではなく、作品世界を共に創り上げてもらうつもりです。
若い人たちに見やすい値段でという考えから、MONOでは「U-25チケット」を設けています。どんどん出会いたい。まずは劇場でお会いしましょう。

若者向けの割引を設けるカンパニーは多いが、代表自らその意義を改めて語るのはめずらしいのでないか。割引料金を設定するのは、単に若い世代の負担を考えてだけのことではない。若い世代と出会わないと、カンパニー自身の「世界が狭くなってしまう」からなのだ。

「MONOの取り扱い説明書」では、MONOにとっては後進となる中川晴樹氏(ヨーロッパ企画)、横山拓也氏(iaku)、川口大樹氏(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)の「MONOの見方」を掲載し、若い観客に訴求力のある世代の力を借りている。推薦文は自分たちより知名度のある書き手に求めるのがセオリーだが、今回は敢えて後進に依頼したのだ。SNSも従来から活用しているFacebookに加え、Instagramを使った稽古場日誌「ぶた草日誌」を更新し続けた。Twitterでは、30日間連続でメンバーに対するQ&Aを掲載した。

土田氏は記者懇談会の場で、小劇場演劇の観客の特性について触れている。

これは個人的な愚痴になるんですが(笑)、小劇場と呼ばれる世界では、どうしても新しいところに目がいきますよね。
常に若手が取り上げられる。新しい表現というものは、常に既存の表現に対してカウンターカルチャー的な存在として出てくる。
更にまたそれを否定した新しいものが出てきて……なんていうか、その繰り返しです。
そのことに対して異論があるわけではないです。僕自身、ある時期そうやって取り上げていただきましたから(笑)。

ただ、今だってそれで終わるつもりはさらさらない。 MONOが再び、今の若い子たちの表現に対するカウンターになりたいという思いも強くある。 気持ちはメンバーと共有できている気がします。

小劇場演劇では、観客は自分の思いを重ね合わることが出来るアーティストを求め、互いに人生を歩んでいく。それこそが小劇場演劇の存在そのものと言えるが、逆に若い観客は常に自分たちだけのアーティストを探し続ける。現在若手に人気のカンパニーでも、表現手法が固定化すればカンパニーと共に観客は高齢化していく。ライブアーティストの宿命とも言えるこの現象に、MONOは真っ向から挑戦しようとしているのだ。

MONOの今回の挑戦をまとめたい。

  1. 若い観客を欲していることを、自ら明確にアピールし続けた。
  2. 20代の俳優を探す講座を全国5か所で開催し、100名と出会った。
  3. 講座で出会った人材を、本公演に積極的にキャスティングした。
  4. 初めて公演特設サイトを開設し、初心に返ったコンテンツを散りばめた。
  5. 後進の演劇人からコメントをもらい、若い観客に訴求した。
  6. 各種SNSを使い分けた積極的な情報発信を継続した。
  7. 前売2,000円の「U-25チケット」を継続し、その意義を語った。

MONOのようなベテランカンパニーでは、メンバーが他の仕事で多忙になり、本公演の間隔が空いてしまう。それがますます〈長老感〉を醸し出してしまうのだが、逆にファンにとっては、久しぶりの本公演は〈祭り〉のような楽しみに満ちあふれている(MONO自身の発信ぶりを見ても、それがよく伝わる)。今回の公演は、その楽しみを固定ファンだけのものにせず、前年の俳優育成講座という準備段階から若者を巻き込み、新しい客層を取り込もうとした一気通貫のプロモーションに昇華させた。本公演の間隔が空いているベテランカンパニーにぜひ参考にしてほしい事例だ。