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これは2006年7月4日に芸能花伝舎(東京・西新宿)で行なわれた「制作者あつまれ!」第7回(主催/社団法人日本芸能実演家団体協議会+ネビュラエクストラサポート)のため、事前にメールで質問を集め、回答集として当日配布したものです。質問は読みやすくするため手を入れ、質問者の氏名や集団名が特定出来ないようにしています。興味ある質問だけを読むのではなく、一つの物語として全編に目を通していただければと思います。

若い制作者とのQ&A(神戸編)
若い制作者とのQ&A(仙台編)


Q いまの時代に最も効率のよいDMや広告の展開方法、新規顧客開拓方法はどういったものだと思われますか。

A 予算が潤沢にあるなら、現在でもマスメディアの優位性は揺らぎないものがありますが、そうは行かない芸術団体にとっては、ネットによるクチコミの創出が最も効果的ではないでしょうか。

Q もしこれから旗揚げ公演の制作をするとしたら、どういったスケジュールを組まれますか。大雑把な質問で申し訳ありません。

A 1年前から稽古場を押さえ、演出家にワークショップをさせます。その間に俳優の個性を見極めながら戯曲を書かせ、改稿を重ねて半年前に完成させます。稽古場でリーディング公演をして劇場の制作者に観てもらい、旗揚げ公演の劇場を決めます。キャンセル枠などを使えば、半年以内の劇場確保は可能でしょう。半年かけてじわじわと情報発信し、旗揚げ公演へ持っていきます。

Q チケット料金の設定について。これは私の目から見てなのですが、小劇場ではキャパによっておおよそチケット料金が決まっているように思います。商業演劇でもそのようなことがあると思います。実際、皆さん公演収支に影響はないのでしょうか。このままでは劇団員全員が演劇を仕事として生活を出来るまで何年かかるのだろうと日々考えます。かと言ってチケット代を上げてお客様が入らないのでは本末転倒です。出演費も十分に払えていない中、俳優にノルマを課すことは出来ないと考えます。皆さんがどのようにお考えかをお聞かせいただきたいと思っております。

A 私は、小劇場は俳優の演技を至近距離で楽しめるたいへん贅沢な空間だと思っています。劇場のイスさえよくなれば、中劇場・大劇場以上にチケット代は高額でよいと思います。例えば、ビッグなミュージシャンがライブハウスで1万円のシークレットライブをやるような感覚です。小劇場のイスがよくなり、食事も楽しめる施設も併設すれば、劇場に対する固定概念はかなり変わると思います。シネマコンプレックスが映画館を甦らせたように、ハード面の改善を切望していますし、行政の助成金はこうした劇場設備に使われるべきだと感じます。

Q 海外公演をするには、まずどこにアプローチすべきか。

A 国際交流基金でしょう。

Q ビジネスラインに乗せるための、最低ラインのキャパはどのくらいだと思われますか?

A 客単価が高ければ少ないキャパでも成立しますので、個人的には最低ラインという考えはありません。富裕層100名を集めた入場料50万円のイベントがあってもよいと思います。ビジネスライクに考えますと、企業として社員プロデューサーを1名抱えるとしたら、プロデュース料として3,000万円は計上したいところでしょう(企業コストは人件費×3倍と言われますので)。プロデュース料が売上金の10%とすると、3億円が必要になります。チケット代4,000円と仮定すると有料動員75,000名が必要で、これを年間稼働日300日で割ると1日250名。理論上はこの程度の数でビジネスとして成立するのではないでしょうか。

(注)ビジネスの例は、企業が参入するにはこれくらいの数字が必要という意味で書きました。だからこそ小劇場演劇に大企業は参入しないのです。最新の状況を踏まえた[ナレッジ]の「演劇で収益を出すことは可能か」もお読みください。

Q 小劇場で公演を行なっているカンパニー(俳優)がメディア(テレビ、映画等)への出演を望む場合、どういう方向性で宣伝活動をしていったらいいのか、効果的な方法があればぜひお聞きしたいです。

A その俳優からオーラが漂っているのなら別ですが、そうでない限りは押しの強いマネージャーを置いて営業をかけるのが現実的ではないかと思います。やはり実力より人脈だと思うことが多々あります。無名の俳優は映画に強いキャスティング事務所などから攻めるのがよいのではないでしょうか。

Q 財団、助成金関係の申請をする際、カンパニーの方向性や芝居スタイルで適した財団を選んで申請するべきか、財団関係の助成金の現状をお聞きしたいです。

A 可能性がある助成金は全部出したほうがよいと思います。選んでいる場合ではないでしょう。書式は似たようなものですから、一つ作成すればかなり流用出来るはずです。

Q プロデューサーに不可欠な資質とはなんだとお考えですか(こういう能力を持っている方が伸びているなど)。

A 多くのプロデューサーと同じ答えですが、戯曲を読む力だと思います。

Q 集客力をつけるカンパニーに不可欠な資質とはなんだとお考えですか。私は、集客という点では真摯な作品づくりの姿勢だと考えていましたが、それに加えて必要ななにかがあるのではないかと感じています。

A カンパニーの公演に求められるものは、観客がその集団と一緒に歩んでいく、同時代を生きていくという感覚を抱けるかどうかではないでしょうか。これは演劇というナマの表現だからこそ可能なものであり、集団の作風を問わずアピール出来るものだと思います。

Q プロデュースと劇団制の良し悪し、これらの将来は。

A 若手は俳優養成の面からもカンパニー制を取るべきです。プロデュースが多すぎる現在の演劇シーンは異常です。今後、淘汰が進むと思います。

Q 今後、小劇場界はどのような方向で発展していくと思われますか。

A 大きな構造改革がない限り、単なるマスメディアへの人材供給源で終わる歴史を繰り返す気がしてなりません。その構造改革を皆さんと語りたいと思います。

Q 今日集まっている制作者が協力し合えそうなことや、難しそうだけど、こんな協力態勢をとったら有効だなと思われることはありますか。

A まずは相互批判をもっとすべきではないでしょうか。しがらみは多いと思いますが、評価出来ない相手と協力することは難しいでしょう。その勇気を持ってほしいと思います。本当に評価出来る相手を見つけたら、次は制作業務の共同化へ進めると思います。

Q 面白い配役の組み方は。「文学座+青年団」企画のような「○○+○○」をするとしたら、○○にはなにをお考えになりますか?

A 坂手洋二氏が自転車キンクリートSTOREに出演(ラティガンまつり『セパレート・テーブルズ』)したように、俳優経験のある劇作家・演出家をもう一度舞台に立たせるのは面白いでしょうね。合同企画は、部外者が言っても仕方ないので……。

Q 動員が600人で頭打ちになりつつあります。身内客400人、一般客200人程度です。動員の増加はクチコミや地道な宣伝中心なのですが、この規模でもマスコミへのアプローチは有効でしょうか。どちらかと言うと王道のわかりやすいコメディなので、劇評などの対象にはなりにくいのではと考えているのですが…。

A 作品のクオリティはどうなんでしょう。マスコミに頼らずとも、本当に面白ければもっと動員は伸びるはずです。

Q 500人から客足を伸ばすには?

A 本当に面白ければ放っておいても伸びるはずです。本当に面白いと思うのなら、管理をきちんとした上で大量招待をしたらどうでしょう。

Q プレスとどう関係をつくっていけばいいか。

A 良質の作品をつくっている集団の制作者が社会人としてのマナーを持って接すれば、容易に関係は構築出来ると思います。

Q 現代の演劇の機能はなんだと思われますか。

A 人間のコミュニケーション能力を高めるための重要な手段だと思います。

Q その機能を果たすために出来ることはなんでしょうか。

A 教育の現場にもっと活かしてもらうことでしょう。そのためには、演劇人の積極的なアウトリーチ活動が必要だと思います。

Q 制作の分業体制について、理想的な役割分担とは。例:営業・宣伝、票券管理、会計

A 公演規模や人材にもよりますので、理想というものはないでしょう。制作者が公演資金を流用しようと思えばいくらでも出来ますので、プロデューサーと経理担当者は別にして、内部牽制を図るべきでしょう。

Q 後藤ひろひと氏との出会い、遊気舎の制作となったきっかけなど教えてください。

A 観客として観たのが最初です。爆笑しながら観ましたが、客席がガラガラで、大げさでなく桟敷に寝そべりながら観ました。あまりにガラガラなので、世の中に紹介したいと思ったのがきっかけです。

Q 複合ジャンルの公演(音楽・ダンス・芝居)の効果的な告知・集客策について、参考になる事例やアイデアがあれば教えていただきたいと思います。

A 異ジャンルがコラボレーションすることで、本当に相乗効果が生まれているかの検証がまず必要だと思います。ジャンルが単なるパーツ扱いされている公演も少なくないと思いますので。新しい表現は文章での説明が難しいので、デモ映像などを公開するのがわかりやすいと思います。

Q fringeに寄せられる制作者の悩みでいちばん多いものはどんな内容ですか。

A 過去の質問掲示板をご覧になっていればご存知だと思いますが、内容は多岐に渡り、特にどれが多いということはありません。

Q fringeに寄せられた質問で印象に残っているものと、その理由をお聞かせください。

A 質問掲示板は私だけが答えるものではなく、読者全員で意見交換していくものなので、こういうことはあまり考えません。

Q 制作の人から質問されることもあるかと思いますが、いままで聞かれた質問の中で答えに困ったものはありますか。それに対してどのように対応されましたか。

A 個別の質問はお断わりし、すべて質問掲示板に書くか、演劇経営MLに入会した上で質問していただくようお願いしています。fringeの目的はナレッジマネジメントで、個人の悩み相談室ではありませんので。

(注)現在、「質問掲示板」はリニューアルして「fringe forum」の一部になっています。過去の質問は掲載終了しました。「演劇経営ML」は「演劇制作SNS」に移行しました。

(この項続く)

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