この記事は2006年8月に掲載されたものです。
状況が変わったり、リンク先が変わっている可能性があります。
若い制作者とのQ&A(仙台編)
これは2005年2月5日~6日にせんだい演劇工房10-BOX(仙台市)で行なわれた「演劇道場黒帯コース」(主催/仙台市+財団法人仙台市市民文化事業団)のため、事前にメールで質問を集め、回答集として当日配布したものです。質問は読みやすくするため手を入れ、質問者の氏名や集団名が特定出来ないようにしています。興味ある質問だけを読むのではなく、一つの物語として全編に目を通していただければと思います。
若い制作者とのQ&A(神戸編)
若い制作者とのQ&A(東京編)
Q 劇団員の知り合いのお客様以外を集める方法、効果的な宣伝活動は。
A 自分たちの集団がどの段階にいるのかを、客観的に分析することがスタートです。旗揚げ直後で無名の場合は、周囲の知人をしっかり取り込むことが重要で、ここで遠慮して漏れがないように努めます。その中には知人ということを差し引いて客観的に評価してくださる方もいるはずですから、そうした方々を通じて客層が広がるようにします。中堅で実力を備えているのに客層が広がらない場合は、対象を絞った招待券を駆使して、初見の観客を獲得します。外部の方の推薦やメディアへの露出で相乗効果も狙います。作品内容に連動した招待や宣伝を心がけ、公演があるというだけでなく、物語の中身が街の話題になるようにしたいものです。
Q チラシの印刷枚数はどのように計算したらよいでしょうか。
A 上演地の観劇人口や公演規模によって異なりますが、しっかり宣伝したいと思うなら、その街で同じ傾向の作品が上演されている劇場に、3か月前からチラシが折り込まれているのが理想でしょう。例えば小劇場公演が月に10本ある街で、動員数が平均300名だとすると、10本×300名×3か月=9,000枚が折込枚数になります。これに大学やショップへの置きチラシ、劇団員の個人配布分、DM同封分などを合計したものが印刷枚数になります。枚数が増えると印刷単価は安くなりますので、あとで足りなくなって増刷するくらいなら、最初から余裕を持った枚数にしておくべきでしょう。3か月前にチラシが出来ない場合は、その間を仮チラシにします。
Q 抽象的ですが、よい制作者、悪い制作者とは。
A 制作者にいちばん求められる資質は「責任感」だと思います。作品が出来る前から劇場を押さえ、チケットを売っていく舞台芸術では、この気持ちが強くなければ初日を迎えることは出来ないでしょう。反対に責任感のない制作者には、お金を預けるのさえ不安になりませんか。周囲が「責任感」を認めれば、それは「信頼感」に変わり、「あの人がいればなんとかなる」「あの人に任せれば大丈夫」という評価につながっていくでしょう。ただし、優秀な制作者ほど「責任感」が強すぎて燃え尽き症候群に陥り、辞めていくことも多いので要注意です。
Q 完全黒字への道のりは。
A 黒字とは収入と支出の関係を指す言葉です。禅問答のようになってしまいますが、「完全黒字」を文字どおり解釈するなら、「収入>支出」にすればいいだけの話です。集客が見込めないなら、支出を極端に切り詰めれば、黒字にすることは可能でしょう。最初は劇場費のかからない大学施設や公民館で上演し、照明は部屋の蛍光灯、音響はラジカセにすれば、赤字にはならないでしょう。全員にギャラを発生させることを「完全黒字」と呼んでいるのなら、これは収入を増やすしかありません。エンタテインメント系なら入場料収入と物販収入で増やしていくわけですが、観客を選ぶアーティスティック系の場合は助成金や協賛金の獲得が重要になるでしょう。
(注)[ナレッジ]の「演劇で収益を出すことは可能か」も参考にしてください。
Q マスメディアへの宣伝戦略は。
A 相手の立場になって考えましょう。あなたがマスメディア側の人間だったら、どんな話題をニュースしたいと思うかです。公演が多数行なわれ、資料も見飽きているときに、どんなアプローチの仕方をされると新鮮に思えるでしょうか。その想像力があれば簡単です。
Q BBS宣伝の利益、不利益は。
A 同じ文章をコピー&ペーストするだけでは、不利益のほうが多いと思います。その掲示板に合った内容に少しずつ書き換え、公演案内以外の話題も導入部に加えましょう。掲示板の主宰者や読者が「これなら許せる」と思える書き込みにしましょう。どの掲示板も書き込みに際しての注意書きを表示しているはずですから、必ず熟読してください。宣伝禁止のところで宣伝すると、宣伝どころか観客を失うことになるでしょう。
Q 公演時期によっての客入りは。
A 昔は2月8月、ゴールデンウィークなどが入りが悪いと言われたものですが、いまはそうした傾向は薄れ、内容がよければどの時期でもお客様は入るようです。ただしクリスマスから年末、人事異動や決算期に当たる3月後半~4月前半はまだ集客に苦しむようです。正月は初芝居ということで、よく入ります。秋は公演シーズンですが、他公演と重なることで観客の奪い合いになるというデメリットはあります。
Q 制作するにあたっての心構え、大事なこと、見せ方は。してはいけないこと、つくる工程などは。
A 「よい制作者、悪い制作者とは」と同じ回答になると思います。工程についてはワークショップの中で説明したいと思います。
(注)実際のワークショップでは、「制作者の役割」に掲載した資料を使って工程を説明しました。
Q 公演の1か月前くらいにマスコミに向けた公開ゲネをやりたいと思っているのですが、上演団体側からはだいたい「1か月前に作品を仕上げてしまうのは現実的ではない」と言われ、なかなか実現までこぎ着けられません。どのような方法なら、現実的な公開ゲネが行なえるでしょうか。公開ゲネを行なうよりも、ロングランしたほうが効果的でしょうか。
A ワークインプログレスの考え方を導入したらいかがでしょうか。これは稽古段階の作品を公開し、その反応を見ながら作品を練り直していく制作過程です。この流れでトライアウト(試演会)を上演し、ブラッシュアップして本番を迎えることもあります。公演1か月前ならゲネではなく、トライアウトとして一般観客も招き、低料金で上演することが上演団体側にもきっと収穫になるでしょう。
Q 公演料金設定と集客数のベストバランスの見つけ方は。
A 予算組みに際して、最低これだけは必要という金額があると思います。キャパシティでそれを割ればチケット単価が導かれますので、料金の最低額はこれで決まるはずです。小劇場と言えど、普通に劇場を借りて上演する場合は節約にも限界がありますので、ここでそれなりの金額になってしまうと思います。この金額を達成するために満席にするというのが、考え方の基本でしょう。毎回満員が難しい場合、定員オーバーが絶対に許されない劇場などは、ステージ数をもう少し増やし、有料動員率80%ぐらいで考えていきます。これで劇場費・スタッフ人件費が増えますので、再計算して調整します。
Q 公演終了後、広報宣伝効果の測定方法は。
A アンケートで「この公演をなにで知りましたか」を尋ねるのが一般的です。ただし、アンケートは全員が書くわけではありませんし、どの媒体が最も効果的かなど、突っ込んだ質問を短時間でするのは難しい面があります。最適なのは観客に別途集まってもらい、時間をかけてグループインタビューをすることです。今回来場しなかったのなら、どこに魅力を感じなかったかも率直に語ってもらいます。次回の宣伝戦略の参考になるでしょう。
Q 当日精算券は仙台独特のシステムと聞く。他地域では行なわれないのか。
A 全国で行なわれています。
Q 1公演の集客が1,000名以下の規模のカンパニーで、制作が独立スタッフとして機能し、会場選定や日時・料金設定、制作戦略プランまで決定出来ているところはどのくらいあるのか。
A まだ少数派なのは事実ですが、専任制作者がこうした役割を担っているカンパニーは、集客が1,000名規模に達するまでの時間も早いと思います。従って、専任制作者がいるのに小規模なところは、ますます限られてきます。専任制作者は小劇場界ではレアケースかも知れませんが、逆に私は制作者なしで公演をやろうという演劇人の気が知れません。演出家や舞台監督不在の公演が考えられないように、本来は制作者なしの公演も考えられないはずです。
Q 高校生以下料金の設定はいかにすべきか。
A 個人的には大学生も含めて学生料金を設定し、若い観客が出来るだけ表現に触れられる環境を設けてほしいと思います。採算が合うのなら、いくらでも安くしてあげてください。
Q 高校演劇コンクールの地区大会の集客法は。
A 一般の演劇ファンにも足を運ばせたいと思うのなら、生徒自身によるオリジナル戯曲が並んでいることが大前提です。百歩譲って顧問の戯曲であること。小劇場系の人気作品が55分にテキストレジーされているものが並んでいると、演劇ファンは引いてしまうでしょう。だったら、まだ古典に挑戦してほしい。オリジナル作品が揃えば、短い時間で上演を繰り返すショーケース的な面白さを訴求すればいいと思います。
Q ティーンエイジャー等、ヤングアダルト層を公共の催しに呼び込むには(図書館のイベントとかこの講座とか)。
A 硬派の催しに若い世代を呼ぶのは苦労するものですが、大切なのは主催者側が本音をさらけ出すことでしょう。単に予算消化のイベントをやっているのではなく、そこで主催者がなにを伝えたいのか、それが参加者にとってどんなメリットがあるのかを、お役所言葉ではなく企画担当者自身の言葉で語ることです。
Q 主宰、劇作家、演出を兼ねております。以前から芸術面を担う部分と興行面を担う部分は運営が違うと思っておりまして、カンパニー内でスタッフを育成していければと考えております。この場合、スタッフを兼任する劇団員になにか待遇の差をつけるべきなのでしょうか。
A スタッフワークを兼ねる場合に発生する必要経費は支払うべきでしょう。スタッフになると材料の買い出しや搬入・搬出のための交通費などが役者以上にかかるはずですから、これらは補填します。あくまで劇団員なので、外部スタッフのようにスタッフワークそのものに対するギャラは必要ありませんが、自宅作業も多くなると思います。それらに対するちょっとした気遣いがあるといいのではないでしょうか。私の場合、「活動費」という名称で少額ですが自由に使えるお金を衣裳チーフ、大道具チーフなどに渡し、徹夜で衣裳を縫う際の暖房費や茶菓子代の足しにしてもらったり、タタキの際の弁当代にしてもらいました。全額はまかなえなくても、そうした気持ちがあれば劇団員間の不公平感はかなり緩和されます。
Q 近年、かなり近い確率で発生すると言われている宮城県沖地震。本番間近で地震が起き、劇場使用不可能等で上演中止になった場合、前売りを買った方も被災されている確率が高いことが考えられますが、適切なチケット払い戻し方法はどのように行なえばよろしいでしょうか。上演中に地震が発生した場合、中止か続行かは震度、建物の状況に応じて変わるものと思いますが、判断は劇場側に委ねるのでしょうか。中止と判断した場合、チケットの払い戻し方法はどのように行なえばよろしいのでしょうか。
A 払い戻しは、手売りの場合は直接カンパニーで、プレイガイドの場合はプレイガイド経由が一般的です。もちろん地震の場合はそれどころではないと思いますので、払戻期間は通常より長く設ける必要があるでしょう。上演中の地震は状況によりますが、劇場側の判断を仰ぐことは必要です。上演中の中止は払い戻しが必要ですが、その場にそれだけの現金はないと思います。連絡先を書いていただいて後日手続きするか、次回招待券を進呈することでご容赦いただくなど、臨機応変に対応することが求められるでしょう。
Q 作品の中でよく身体を動かします。なにかあってからではと、前回の公演から本番期間中だけ有効の傷害保険に加入することにいたしました。アクシデントは稽古中にも考えられますが、経済的なことを考えるとそれほどの余裕がありません。他のカンパニーで、保険についての取り組み方で好例がありましたらお教えいただきたいと思います。本番の保険加入の範囲は俳優だけでよいのでしょうか。スタッフへの事故ケガの保障は、カンパニーとしてどこまで負えばいいのでしょうか。
A 小劇場クラスでも小屋入り期間中は傷害保険に入る例が増えています。一般の傷害保険で設計してもらうと保険料がかかりますので、全員が加入するのは負担だと思います。よく使われるのが財団法人スポーツ安全協会のスポーツ安全保険で、最低限の保障として利用するといいでしょう。保険料が払える集団なら、年間を通して加入し、公演のたびに被保険者を変更出来るグループ傷害保険も注目されています(AIU保険のスーパー任意労災など)。ネビュラエクストラサポートが傷害保険の具体例をNext Onlineで紹介されていますので、ぜひご覧ください*1 。傷害保険は様々な商品があり、どこの代理店でも相談に乗ってくれるはずです。外部スタッフであっても、公演に関連した事故は主催者の責任が問われます。安全管理の連絡調整に務め、危険な公演の場合は保険条項を契約に含めるべきでしょう。
Q 公演企画、公演準備、公演中、公演終了後、それぞれの時期に一番気をつけていることはなんですか(所属カンパニーの公演という前提です)。
A 制作者としては、どの段階を通じてもお客様と関係者の安全が最もプライオリティが高いです。平凡な答えですが、一番と言われるとそうなります。
Q カンパニーのWebサイトをつくる場合、注意したほうがよいことがありましたら教えてください。いままで見てきたカンパニーのWebサイトで良いと思ったことや、見苦しいと思ったことなどがありましたら教えてください。
A 非常に限られた身内客向けにつくられているものを見かけますが、これはやめてください。インターネットは世界中からアクセスされるものです。サイトはまだ見ぬ新たな観客との出会いの場であり、初めて訪れた方に興味を抱かせることを考えてください。そして大切なのが更新すること。いくら最初に凝ったものをつくっても、更新しなければすぐ陳腐化します。掲示板が荒れていたり、メールの質問に回答がないのも残念です。管理出来ないなら掲示板は設置しない、回答出来ないならメールアドレスを載せないというのも一つの見識です。
Q 仙台における演劇の入客は少ないように思うのですが、ほかの同規模の都市と比べたときにどうでしょうか。もし少ないとすれば、その原因はどういったところにあるとお考えですか。
A 仙台の動員数のデータが手元にありませんので、これはワークショップの場でお話ししていきましょう。
Q 今後、ほかの都市での公演も展開していこうと思っているのですが、その上でどうしても必要になることは、どういったことでしょうか。そのためにいまからやれることはありますか。
A 現地に協力してくれる受け入れカンパニーをつくっておくことが不可欠です。現地の演劇事情や劇場の慣習などに精通し、宣伝、仕込み・バラシ、当日運営を手伝ってくれるところがないと公演は打てません。
Q 所属しているカンパニーの入客があまりに少ないせいで、「演劇はゆっくりと世界を変えていく」というようなビジョンを抱きにくいのですが、仙台で成功出来るような話はなにかありますでしょうか。正直、物語に飢えてしまって、気持ち的にしんどい思いがしています。
A 仙台に根ざしながら全国に影響を与えていくような姿も、決して夢ではないと思います。政令指定都市以外に本拠を置きながら、注目を集めているカンパニーもありますよね。青森の弘前劇場*2 、山口のPOP THEATRE Я*3 、宮崎のこふく劇場など、参考となる事例が近年増えています。作品が素晴らしければ、他地域で先に知名度を上げ、仙台に人気の逆輸入をすればいい。世界を変えていく集団が仙台にいまないとすれば、それは逆にチャンスだと思ってください。例えば、せんだいメディアテークは建築界や美術界で全国的に知られている施設です。同様にメディア芸術を掲げる山口情報芸術センターと2か所で映像を絡めた公演をすれば、全国紙が取り上げると思います。自分たちの身近にあるものの可能性に気づきましょう。地元の食材が「どっちの料理ショー」の特選素材に取り上げられてから見直すようではいけません。
Q 公演のチラシを制作するにあたり、作品のイメージをどのように伝えるか。制作にあたって交渉の注意点は。
A これは特集「京・チラシアートワーク指南」を読んでください。すべて書いてあると思います。
Q カンパニーに専任制作者がいないために俳優と制作を兼ねているが、作業の負担が大きいのでカンパニー内での業務分担を考えている。具体的にはどのような分担が出来るか。専任制作者の募集方法、探し方はあるだろうか。業務分担がうまくいけば、専任がいなくてもいいのだろうか。いままでも専任はなく、その時々の制作担当が俳優と兼ねつつ割合一人でやってきていたが、それらの先輩が辞め、自分が担当するには制作業務負担は大きく感じ、いままでの担当はよく兼任してやっていたと尊敬するが、一人では抱えきれない。
A 専任制作者がいる場合でも、人手を必要とする作業は多々ありますので、一人ですべてをやるのは不可能です。チラシ折り込みやDM発送、稽古場手配などは劇団員で分担し、制作者はそれをディレクションする側に回りましょう。分担がうまく行けば、傍目には問題ないように見えますが、カンパニーとして次のステップへ進もうと思うのなら専任制作者は必要です。作品に対して客観的立場で、主宰(演出家)と話せる人間はほかにいないはずです。制作者はその集団の作品を愛し、それを育てようと考える人の中から出てきてもらうのが理想です。観客に対して誠意をもって募集をかけるべきです。演劇人は、制作者がいかに魅力的な役割かを紹介するのが非常に下手だと思います。芸術や広告に興味を持っている人は多いはずなので、その魅力をうまく伝えてください。
Q マスメディアに公演を取り上げてもらおうとすると、なかなか難しい。なにか「売り」になるものが前提にはなるでしょうが、コツがあればご教授願います。
A 「売り」とはユニークなことです。上演会場、開演時間、料金、題材など、いくらでもユニークな仕掛けは出来るはずで、公演や宣伝の企画をする人間にとって最も重要なセンスです。具体例はワークショップの中でご紹介していきます。
Q アマチュア劇団の制作者に希望したいこと(こうなってほしいというメッセージ)、してほしくないことがありましたら教えてください。
A 公演と銘打って上演しているのなら、それは表現ですので自己満足に陥ってほしくありません。収入を得ないことと、表現を追及することは両立すべきことだと思います。どんな公演でも、表現として観客の心に刻まれることを目指してほしいと思います。
Q ポイントカードの発行など、リピーターになってもらうためのサービスをしたいのですが、どんな人を対象にするか(来た人全員には難しい)、いつポイントを渡すか(ハンコを押すなど)が決められずにいます。よい方法や案、いままでにあったものがありましたら教えてください。
A ポイントカードを採用しているカンパニーでは、劇団扱いで購入した方に受付で押印するパターンが多いと思います。ポイントカードを発行せずに公演の半券を集めてもらい、枚数がたまったらノベルティと交換する方法もあります。こうした特典を用意するには、前提として今後の公演が長期的に保証されている必要があります。長期スケジュールを早めに公開することが重要でしょう。