Pocket

12月30日発行の社団法人日本劇団協議会機関誌『Join』39号が、第2特集で「どうなる!?関西劇場事情」と題した検証座談会を掲載した。18ページに及ぶもので、関西の劇場閉鎖問題を取り上げたものでは、fringeが知る限り最もボリュームがある。

出席者は松原利巳(近鉄劇場プロデューサー)、山中元(株式会社スタッフユニオン代表取締役、神戸アートビレッジセンター企画委員長)、内藤裕敬(南河内万歳一座座長)、志賀玲子(アイホールプロデューサー、びわ湖ホール夏のフェスティバル2003プロデューサー)、大楽亮(兵庫県立ピッコロシアター館長補佐兼劇団部長)の各氏。司会は産経新聞大阪本社文化部の亀岡典子記者。

既出の内容も少なくないが、注目すべき発言として、文学座制作部長を経て約3年前からピッコロシアターに移った大楽氏が次のように語っている。「関西は意外に、小劇場的なものと商業演劇的なものとの、中間的なものが発達していない気がします。(中略)(新劇団が)力を持たないと、社会性みたいなものが少し見えにくい気がしますね、演劇的成果うんぬんは抜きにして」。これに対して内藤氏は、「新劇の活動は関東と関西じゃ著しく違うから、同列で比較できないですね」と語っているが、東京にいて実感するのは、本公演以外に新劇系ユニットが小劇場を積極的に利用していることだ。新劇系が小劇場を利用する――つまり小劇場が若手だけの場ではなく、大人の芝居の場にもなっていることを、関西は刺激として受け止める必要があるのではないだろうか。

大楽氏は、旗揚げ間もない若手に扇町ミュージアムスクエア(OMS)での上演を勧めると、「とてもとても」と言われたと紹介している。OMSは「3年ぐらい劇団が持続できたらそのときに考えるという、一つの目標なんですね」という。しかし、OMSは稼働率100%ではなく、ここで旗揚げ公演したカンパニーも実際に複数ある。東京の若手が有名劇場へ物怖じせず利用申し込みしている現状と比較すると(もちろん借りられない場合も多いが)、関西の若手はおとなしすぎるのではないだろうか。

内藤氏は「大阪のど真ん中に小劇場を取り戻す会」の幹事でもあるが、個人的には劇場がなくなることを「ある意味でちょうどいいんじゃないの」と考えているという。「劇場がなくなっても演劇はやめない」という意思表示が必要になり、「なくなっちゃったからちょっとダメだって思ってしまう連中と色分けされる」「演劇をする覚悟が見えてくる」と語っている。これに対しスタッフサイドの松原氏と山中氏は、つくり手として内藤氏の闘い方はわかるとしながらも、社会に不可欠なものとして劇場の在り方を考える時期だと語っている。

出席者の共通の認識として、つくり手の側は既存の空間を転用するなど、自分たちで空間を確保していく努力をしてほしいが、それとは別に制作者や行政の力で大阪に小劇場+中劇場は必要だというトーンになっている。各出席者とも立場や役割によって違いがあるのは当然ということを理解しており、その意味で各自の主張がよくわかる座談会となっている。今後、劇場が街の中心部に出来るとは限らないが、志賀氏が「関西の人って、腰が重いというか移動したがらない」と指摘しているとおり、関西の観客は本当に動かなさすぎである。東京に劇場が多いのは事実だが、それは京阪神全体くらいの距離感の中に点在しているのであって、東京から見ればアイホールなど関西の「ど真ん中」だと改めて強調しておきたい。

大楽氏は小劇場系カンパニーにピッコロシアター中ホールを使ってもらいたいと語っているが、fringeでは神戸アートビレッジセンターのフル稼働と共に、立地と設備から吹田メイシアター(大阪府・吹田市文化会館)も推薦する。小ホールはもちろん、中ホールは近鉄小劇場に代わるものとして来阪カンパニーにも利用してほしい。小劇場系の自主企画やプロデュース公演を長年手掛け、大阪府内で最も演劇制作を理解していると思われる公共ホールだからだ。市外からの予約や長期利用に対して特別の配慮が行なわれるよう、吹田市文化振興事業団に期待したい。