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札幌演劇シーズン

札幌市で2012年から夏冬の各1か月開催を続けている「札幌演劇シーズン」。現在開催中の「2015-夏」で、実験演劇集団 風蝕異人街(本拠地・札幌市)が、8日間9ステージを公演期間前に前売完売した。

実験演劇集団 風蝕異人街『青森県のせむし男』

実験演劇集団 風蝕異人街『青森県のせむし男』(扇谷記念スタジオ・シアターZOO(facebook)より)

同カンパニーは札幌を代表するアングラ演劇の雄で、東京や海外で寺山修司作品の上演を重ねている。地元アトリエ公演は即日完売する人気だが、札幌演劇シーズンには初参加となる。今回は『青森県のせむし男』(作/寺山修司)を、8月1日~8日にシアターZOO(札幌・中島公園)で上演するが、公演期間前に当日券の数枚を除いて全ステージ完売した。

動員は約800名となり、7月1日現在の札幌市人口195万人と東京23区人口923万人から考えると、東京では約3,800名に相当する。実力を備えたカンパニーが演劇祭に登場することで、一気に注目を集めた形だ。劇場側も当初チラシ折り込みを650部と発表していたが、急遽800部に変更した。俳優を客演させるカンパニー主宰からも驚きの声が上がっている。

札幌演劇シーズンは、北海道演劇財団とNPO法人コンカリーニョが中心となった「演劇による創造都市札幌実現プロジェクト」の一環としてスタートした。現在は夏冬の計2か月開催だが、将来的には各3か月計6か月のレパートリー公演を行ない、演劇を街に定着させることを目指している。

開催期間が延びない点について、「2015-夏」公式サイトでは「札幌演劇シーズンが考えていること。」の欄を設け、米国オレゴン州アシュランドで毎年9か月開催されている「オレゴン・シェイクスピア・フェスティバル(OSF)」を目標にしているとした。この人口2万人の町では、OSFを主催するNPO団体に俳優70名を含む専従スタッフ600名が雇用され、継続して質の高い舞台が楽しめる環境が提供され、そのことで多くの人々が集まる好循環が生まれているとしている。

日本で演劇フェスティバルの年2回開催が継続しているのはめずらしく、観劇初心者を巻き込む関連企画も毎回積極的に試みられている。札幌演劇シーズンとは別に、札幌では11月を中心に「さっぽろアートステージ」の一環として開催される「札幌劇場祭」が05年から定着しており、現在は市内9劇場を巡る「TGR(Theater Go Round)」の略称で親しまれている。札幌では年3回・計3か月のフェスティバルが行なわれているわけで、都市の規模から考えると、演劇が日常の光景になりつつあると言えるだろう。

過去の公演日程を見るとわかるが、札幌演劇シーズンは1週間以上の公演を原則としており、上演団体が公演を切れ目なくリレーしていく。公演が全休となる日はなく、必ずどこかの劇場で公演が行なわれている。演劇祭のスケジュールを組む場合、旅行者などを想定して週末に複数会場をハシゴ出来る日程を組むことが多いが、それとは逆の発想で、地元の観客が毎日思い立ったときに観劇出来るようにしているのだ。創客を考えた素晴らしいポリシーだと思う。週末だけに公演が集中する地域の観客には、感動的に思えるスケジュールではないだろうか。

(札幌演劇シーズン各回の公演スケジュール)
2012-夏、2013-冬、2013-夏、2014-冬、2014-夏、2015-冬(クリックで拡大)

「札幌演劇シーズン2012-夏」公演スケジュール

「札幌演劇シーズン2013-冬」公演スケジュール

「札幌演劇シーズン2013-夏」公演スケジュール

「札幌演劇シーズン2014-冬」公演スケジュール

「札幌演劇シーズン2014-夏」公演スケジュール

「札幌演劇シーズン2015-冬」公演スケジュール

(引用元ページ:2012-夏2013-冬2013-夏2014-冬2014-夏2015-冬

劇場法施行以来、演劇に対する支援は公共ホール中心に語られることが多いが、「演劇による創造都市札幌実現プロジェクト」では「民間の活動を公的に支える仕組みこそ、演劇創造における最も先駆的なシステム」と位置づけ、札幌演劇シーズンも公共ホールは使用しない。日本では、公共ホールに人材を集める欧米の劇場システムを先進事例とする考えが根強いが、日本の演劇文化を支えてきたのは民間劇場という経緯を考えると、日本は独自の支援方法を確立すべきではないだろうか。

札幌は地元の劇団イナダ組やTEAM NACSが動員1万人を達成していることから、観劇人口のポテンシャルは元々高いと考えられる。前述の人口比だと、札幌の動員1万人は東京の4.7万人に相当する。公共ホール発の企画が主流になっている他地域と比較して、民間の存在感が大きいのも事実だと感じる。日本にふさわしい演劇への公的支援を確立するのは、本当に札幌かも知れない。

札幌演劇シーズン実行委員会事務局では、初年度の「2012-夏」「2013-冬」について、「平成24年度事業報告書」を公式サイトで公開している。上演作品、広報宣伝、報道実績などの詳細に加え、入場実績、券種別販売実績と使用数、収支報告、アンケート集計結果も公表されているので、制作者は必ずダウンロードしてほしい。