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2010年秋にも法律制定の動きが本格化すると言われている劇場法(仮称)を考える資料として、現在までの議論をまとめておく。なお、社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)が提案している正式名称は、「社会の活力と創造的な発展をつくりだす実演芸術の創造、公演、普及を促進する拠点を整備する法律」である。

劇場法(仮称)のベースとなっているのは、芸団協が01年12月施行の文化芸術振興基本法を受けて02年5月に発足させた「劇場活性化プロジェクト」で、全国の公立文化施設を対象とした調査研究である。同プロジェクトは同法第25条に規定された「劇場・音楽堂の充実を図るための支援」、同法第7条に基づき定められた「文化芸術の振興に関する基本方針」で謳われた「法的基盤の整備」を具体化することを目指している。

文化芸術振興基本法(2001年12月7日公布・施行)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H13/H13HO148.html

文化芸術の振興に関する基本的な方針(第1次基本方針)(2002年12月10日閣議決定)
http://www.bunka.go.jp/bunka_gyousei/housin/kihon_housin_1ji.html

※「文化芸術の振興に関する基本方針」は07年に見直しが行なわれ、「法的基盤の整備」に加え、各地域の劇場・音楽堂等に対し、「アートマネジメント担当者、舞台技術者等の配置等の支援」「活動が適切かつ安全に行われるよう、環境の整備を図る」ことが明記された。

文化芸術の振興に関する基本的な方針(第2次基本方針)(2007年2月9日閣議決定)
http://www.bunka.go.jp/bunka_gyousei/housin/kihon_housin_2ji.html

同プロジェクトでは、まず劇場事業法(仮称)の必要性が提案され、劇場の役割と課題を検討する中で劇場法(仮称)の提言がまとめられた。平行して舞台技術者の技能・研修・資格制度についても研究され、「劇場等演出空間の運用及び安全に関するガイドライン」が設けられた。

芸団協サイトではこれらの流れを時系列でまとめ、各時点での成果物もダウンロード出来るようにしている。わかりやすい構成となっており、全文の通読を推奨する。

芸団協サイト/セミナー On The Net
「『劇場』整備の課題~劇場法(仮称)の検討・制定を(基本法後、2002年~)」
http://www.geidankyo.or.jp/12kaden/04pro/seminar/shinkoukadai3.html

全国の公立文化施設が加盟する社団法人全国公立文化施設協会(全国公文協)では、06年3月に「公立文化施設の活性化についての提言 指定管理者制度の導入を契機として」をまとめ、公立文化施設の方向性やモデル案を示した。

全国公文協サイト「指定管理者制度」
http://www.zenkoubun.jp/siteikanri/index.html#kasseika

この提言について、芸団協は09年3月に発表した「社会の活力と創造的な発展をつくりだす劇場法(仮称)の提言」(既出の芸団協サイトからダウンロード可)の中で、芸団協案と詳細に比較検討している。

劇場の役割について芸団協は下記4カテゴリーに分類、全国公文協も集会施設を除く他の3カテゴリーに分類し、それぞれの役割に応じた専門人材の配置が必要だとしている。

  • 舞台芸術の作品創造を中心とした施設
  • 公演提供、鑑賞機能を中心とした劇場
  • 地域住民、市民サービスを中心とした施設
  • 集会施設

これらを踏まえ芸団協では、公立文化施設の中から拠点となる公共的な責務を担う「劇場・音楽堂」を整備し、中央政府と地方政府が重層的・複合的に劇場を支えているヨーロッパ諸国とも比較し、連携する実演芸術団体への支援のあり方の見直しも図るべきと提言した。

芸団協サイト
「社会の活力と創造的な発展をつくりだす劇場法(仮称)の提言」(劇場法(仮称)部分抜粋版)
http://www.geidankyo.or.jp/06gei/s-forum/gekijoteigen09.pdf

セミナーやインタビューの場で、ここよりさらに踏み込んだ発言をしているのが内閣官房参与の平田オリザ氏で、朝日新聞大阪本社版3月19日付夕刊で今村修記者は次のように記した。

 内閣官房参与に就任した劇作家・演出家の平田オリザも、劇場法制定に向けて積極的に動いている。ただ、その構想は芸団協案より一歩踏み込んでいる。

 (1)「劇場」を「作る劇場」と「見る劇場」とに分け、作る劇場で作った作品は、作る劇場相互間や見る劇場などで巡演する(2)劇団などに直接支援されている公的助成を劇場にシフトしていく。劇団は、劇場と提携することで間接的に助成を受ける形になる――といった説明だ。

「作る劇場」「見る劇場」以外の公立文化施設については、この記事では「交流施設」と呼んでいるが、他の記事では「集会施設」としているものもある。

記事では「劇団への助成を早急になくすのは無用の混乱を生む」(西川信廣氏)、「劇場法の必要性は分かるが、平田案では劇場を通して劇団が管理されるようで不気味。歌舞伎にしてもアングラにしても、管理に対抗して出てきたのではなかったか」(流山児祥氏)のコメントも紹介。「助成のすべてを劇場に移すのか、劇団などへの直接支援も一部残すのか、民間ホールへの影響は……。課題や疑問点も多い」とした。

この記事に対し、劇団態変(本拠地・大阪市)の金満里芸術監督は3月23日付の個人ブログで、「危機的な状況である」と強く疑問を呈している。

金満里の庭「演劇に政治が介入していいのか」
http://kimmanri.exblog.jp/13178906

社団法人日本劇団協議会では、09年12月21日に平田氏を招いた「今後の文化行政の展開について」で劇場法(仮称)構想の説明を受け、2月23日に意見交換会を実施した。同協議会理事である東京演劇アンサンブル(本拠地・東京都練馬区)共同代表の志賀澤子氏は、現在文化庁から公演助成を受けている立場から、劇場法(仮称)への懸念をニュースサイトに3月11日付で寄稿している。

日刊ベリタ/文化
「今法案化が進められている劇場法への懸念 文化統制につながる危険を演劇人が指摘」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201004022200405

こうした意見に対し、平田氏は青年団サイトに「新年度にあたって 文化政策をめぐる私の見解」を4月1日掲載。3月19日付大阪朝日記事に対し、「多くの誤解と混乱が起こっているようで、たいへん遺憾に感じています」として、次のように説明している。

  • 劇場法(仮)と劇場への支援は別の枠組みで、劇団への助成は現状維持しながら劇場への助成を増やしていくのが道筋。劇場法(仮)の対象は公共ホールであり、民間劇場の活動を縛るものではない。
  • 劇団は継続性が保証しづらく、劇団への助成が現在以上に大きく伸びる余地は少ないが、劇場への支援が増えれば助成額全体のパイが増えることになる。
  • 公共ホールを天下りや出向役人から芸術家とプロデューサーに取り戻すのが劇場法(仮)の大きな目的であり、政治の芸術への介入ではなくその逆である。

青年団サイト/主宰からの定期便「新年度にあたって 文化政策をめぐる私の見解」
http://www.seinendan.org/jpn/oriza/msg/

これ以外に平田氏の劇場法(仮称)構想について、ネットで読める記事としては下記がある。

asahi.com「鳩山政権の文化・芸術政策は、どうなるのか?」
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200911020075.html

まいまいクラブ「劇場法で『ソフトの地産地消』を=高橋豊(専門編集委員)」
https://my-mai.mainichi.co.jp/mymai/modules/weblog_eye103/details.php?blog_id=919

劇場法(仮称)の議論は演劇界が先行しており、音楽界からは焦りの声も聞こえる。

やくぺん先生うわの空「拠点劇場の数は…」
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2010-02-06
※記事中でリンク切れになっている毎日新聞記事は、上記「まいまいクラブ」と同一内容。

大澤寅雄氏(株式会社ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室、NPO法人アートNPOリンク)は、個人ブログで劇場法(仮称)について様々な視点からのポイントを整理している。これは3月27日に開催された栗東芸術文化会館さきらアーツマネジメント講座「『劇場法(仮称)』について考える」でまとめられたもの。

講座では参加者から、「劇場法(仮称)が、芸術家、アーツマネジメント関係者、舞台技術者、自治体にとって大きな影響があることは分かったけれども、観客にとって、市民にとってどんな意味があるのかはよく分からない」との指摘があり、大澤氏は「観客にとって、市民にとって、何がどう変化するのかというイメージを、より明確にした議論が必要」としている。

TORAO.doc「劇場法(仮称)について、考えたこと」
http://toraodoc.blogspot.com/2010/04/blog-post_01.html

TORAO.doc「さきらで劇場法(仮称)について考えた」
http://toraodoc.blogspot.com/2010/03/blog-post_29.html

(この項続く)

次の記事 劇場法(仮称)に関する議論まとめ(2010年5月16日現在)