作り手の育成を主眼とした試演会企画であるC.T.T.が、さらに新たな地域の広がりを見せています。
その作品上演と意見交換会が四国・松山で開催されます。C.T.T.については、以前もfringeブログでふれましたので、詳細は避けますが、東日本の震災がなおも予断を許さぬなか行われるこの企画に新たな意義を見いだしています。
有川浩氏『シアター!2』はなぜロングランに消極的なのか
制作者の視点から小劇場界の構造的欠陥を描いた有川浩氏『シアター!』(メディアワークス文庫)。その続編『シアター!2』(2011年1月発行)を読んだ。
1巻が主宰の兄から見た制作談義中心だったのに対し、今回は劇団員それぞれの群像劇となっている。カンパニーにエピソードは尽きないわけで、この辺はいくらでも転がっていく感じだが、売れるグッズとはなにか、カンパニーという組織の不思議さ、身内客だけで回っている客席など、小劇場界へのダメ出しは変わらず随所に散りばめられている。エンタテインメントを否定する中劇場の嫌味な支配人も登場し、これは誰をモデルにしたのだろうと勘ぐってしまう。1巻に続き、興味深い内容だ。
「CoRich舞台芸術まつり!2011春」応募〆切の2/14(月)朝10時まであと一週間!
全国の舞台芸術団体がインターネット経由で無料で参加できる「CoRich舞台芸術まつり!」が今年で5回目を迎えました。⇒現在の応募状況
2011年3月1日から5月31日までに上演される全国の公演が対象です。グランプリ受賞団体には2011年内に実施される次回公演の資金として、100万円が支援されます(過去の受賞者⇒1、2、3、4)。準グランプリ、俳優賞にも副賞があります。
★今年から東京都以外の地域について、劇場客席数制限が300席以下から500席以下へと拡大されました。各地域の劇場環境の違いを考慮した参加条件の緩和です。
都道府県ごとの応募数の割合を鑑みて第一次(ネット)審査通過の10団体が選出されます。例えば東京都以外からの応募が多ければ、それだけ東京都以外の団体が選ばれる可能性が高まることになります。応募〆切は2011年2/14(月)朝10時。どうぞ参加してください!
※初回から継続して審査員をつとめさせていただいております。毎年書いてきたfringe blogの記事(⇒1、2、3、4)に応募時の重要事項およびコツは網羅されています。応募方法は今年も例年と同じですので、過去記事をどうぞ参考にしてください。
これまでの記事のまとめの意味も含めて、下記にポイントを箇条書きにしてみました。詳細は公式サイトの概要でお確かめください。
2010年に最も注目したポストパフォーマンストーク
小劇場のポストパフォーマンストークと言えば、演出家や周辺の演劇人によるものが圧倒的に多いが、時間堂が2010年3月に上演した『月並みなはなし』には驚かされた。JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)の後援で、同機構の月・惑星探査プログラムグループに所属する松本甲太郎氏をゲストに招いたのだ。
この公演は第7回杉並演劇祭参加作品として座・高円寺2を使用したもので、オープン間もない同劇場を無料で7日間借りられる絶好のチャンスだった。チラシには、その杉並演劇祭やイープラスのロゴと並んで、JAXAの青いロゴが印刷されている。月への移民者を選考する物語なので、確かにJAXAと関連はあるのだが、社会派ではないエンタテインメント作品である。よくJAXAにアプローチしたなというのが率直な感想だ。
アーツカウンシル検討委員は、特定地域の偏向が過ぎる
日本芸術文化振興会は日本版アーツカウンシルを導入するため、「文化芸術活動への助成に係る審査・評価に関する調査研究会」を立ち上げました。
(会の正式名称が長すぎるため、ブログタイトルでは会の趣旨を要約しましたが、正式名称は「文化芸術活動への助成に係る審査・評価に関する調査研究会」)
私は劇場・音楽堂法への移行も賛成ですし、将来的に道州ごとに設置されるアーツカウンシルに一定の権限を与えるという分権的な方針にも賛成です。この研究会の設置を評価します。
しかし、どうにも違和感を拭えないのは首都圏の委員があまりにも多いことです。11人の委員中、首都圏の委員が10人を占めているようです。(正確な拠点地域は詳細に調べれば誤差がでるかもしれません)
私が知る限り、個々の委員が優れた見識の持ち主であることはわかります。ひとりひとりに瑕疵があるわけではない。しかしながら11名そろった名簿を見ると、これはひどい状況と言わざるを得ません。
身内客・常連客との関係性
「創り手と観衆との距離が縮まったが為に死んだ批評性」に関連して、身内客・常連客に対する私自身の考えを改めて紹介しておきたい。
まず、ナレッジ「身内客から一般客へ移行するためのロードマップ」で書いているように、身内客そのものは重要な存在である。カンパニーの初期はどうしても劇団員の手売りに頼らざるを得ないわけで、その意味で旗揚げを支えてくれた恩人と言っていい。重要なことは、観客が増えるに従って一般客が疎外感を抱かないよう、その存在感を薄くしていくことである。これは身内客をないがしろにするわけではなく、接遇のテクニックを使って、それぞれのサービスレベルをきちんと両立させるのだ。
「創り手と観衆との距離が縮まったが為に死んだ批評性」
Twitter上で1月22日~23日にかけ、新宿シアター・ミラクル支配人の星英一氏と、観客のK_OSANAI氏のあいだで、たいへん興味深い意見交換があった。私の書いた「いまの東京の小劇場界を盛り上がっていると感じている人は、大きな勘違いをしていると思う」にも通じるところが多いと感じるので、Togetterでまとめさせていただいた。
原点回帰
fringeは、2011年2月22日に開設10周年を迎える。
この10年間、小劇場演劇に対する創造環境整備は格段に進んだと思う。各地の劇場やサービスオーガニゼーションにより、研修・上演・交流の企画が大幅に増え、助成制度や稽古場施設も年ごとに充実してきた。カンパニー自身の意識も高まり、地域から全国へ目を向け、新たな観客を求めて積極的な旅公演を行なうようになった。こうした動きに、fringeもオンライン/オフラインの双方で貢献出来たと考えている。
その一方で10年前、いや20年前からほとんど進化していないことがある。それは首都圏以外の公演日数の短さだ。京阪神を含む地域の劇場では、未だ週末のみの公演が圧倒的で、これが観劇人口を始めとした演劇マーケットを改善出来ない要因となっている。週末だけの公演が〈負のスパイラル〉を生み出しているのだ。それ以前に、演劇というライブの表現に携わる者として、短い公演しか出来ないことを悔しがらねばならないだろう。
私が選ぶベストワン2010
多忙で2年見送っていた日本劇団協議会機関誌『join』71号特集「私が選ぶベストワン2010」に参加させていただいた。3月31日発行予定。
当然ながら、私が知り得る限られた範囲からの選択である。全国には、まだまだ素晴らしい作品が埋もれているかも知れない。
マームとジプシー『ハロースクール、バイバイ』は、記憶という行為そのものを舞台化した前例のない演出手法だ
終演後、いま観たばかりの作品を戯曲で確認したいと思うことが、私の場合は3年に一度くらいある。手元に残しておきたい珠玉の台詞、どうやって稽古したのかわからない絶妙な演出に出会ったときなど、その場で戯曲を確かめたくなる。フェスティバル/トーキョー10(F/T10)公募プログラムで11月24日に拝見したマームとジプシー『ハロースクール、バイバイ』は、まさにそんな作品だった(残念ながら物販はなかった)。
舞台は海が近い「かもめ中学校女子バレーボール部」。これまでの作品が14歳を描いていたように、ここでも14歳の中学2年生たちが描かれる。試合時間に見立てた90分の上演中に、転校生を中心とした部員たちの身近なエピソードや練習風景が、短いシーンのカットバックで綴られる。実際のバレーボールは使用せず、演技だけの「エアーバレーボール」で表現した。