新刊『都市の舞台俳優たち―アーバニズムの下位文化理論の検証に向かって―』が検証、東京は小劇場の観劇人口が多いのではなく、チケットノルマを抱えた俳優15,000名が互いに観合っているだけ

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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5月の新刊。小劇場演劇のチケットノルマに注目し、12年半に及ぶフィールドワークを行なった田村公人著『都市の舞台俳優たち―アーバニズムの下位文化理論の検証に向かって―』が話題になっている。

東京都練馬区を本拠地とするカンパニーを1999年8月から追い続けたもので、厳しいチケットノルマに強い関心を抱いた田村氏が、その状況が変わるかメンバーが退団するまでを目途に調査を続けたところ、2012年3月までの期間を要したというもの。

99年時点で旗揚げ10年近くのカンパニーだが(12年3月時点でも活動継続中)、ノルマは当初1公演70枚と厳しく(のちに50枚)、「公演開催の可否に関する審査が厳しく行われる小劇場」でコンスタントに公演を重ね、調査終了までこの状況が続いたという。田村氏は、このカンパニーが中劇場に進出すればノルマは撤廃されると予測していたが、*1 中劇場へは進出せず、「審査の比較的甘い小劇場」へも移らず、一貫して同規模の公演を重ねてきた。

本文150ページ中、劇団員とその家族へのインタビュー及び論考が108ページを占め、いかにしてノルマをさばくか、実家通いの有無や結婚はどう影響するか、人間関係はどうなるのかなど、本人による赤裸々な実態が語られている。調査当初は質問が「あまりに露骨である」として拒否されたほどだ。版元によると、「自分と同じで身につまされる」との反響が広がっているという。

本書は、冒頭でこう論破している。

 概して、現代劇の小劇場公演が東京以外の地域で深刻な集客難に苛まれる傾向に関心を寄せる論考の多くは、「見る側」に自らの役回りを特化するという意味での「観劇人口」の多寡に、東京と「地方」の違いを見出してきたきらいがある。しかし東京が日本の他地域には見出しがたい特徴を有するのは、自ら客となって支える舞台俳優人口が桁外れに多いという事実に他ならず、一見「熱心なファン」と観察者の目に映ずる客の中に、いずれかの劇団に所属し公演への参加を続ける舞台俳優が相当の割合で含まれている点には注意を喚起したい。

田村公人著『都市の舞台俳優たち―アーバニズムの下位文化理論の検証に向かって―』(ハーベスト社、2015年)(pp.16~17)

つまり、東京に小劇場ファンという客層があるのではなく、単に多数いる小劇場俳優がノルマのために互いを観合っているに過ぎず、田村氏の推計で15,000名になる東京圏の小劇場俳優*2 が、観客としてぐるぐる回っているだけということだ。俳優自らが集客した観客が、「客席全体の九割、あるいはそれ以上を占めている」としている。

小劇場の客層が中劇場以上と異なるのは事実だし、動員が伸びないカンパニーの実態も本書に近いだろう。これまで仮説として語られていたものを、実際に外部の社会学者が丹念な取材で検証したものとして興味深い。いつも思うのだが、演劇の創造環境に関する研究は、演劇学者ではなく社会学者の手によるものが多い。上演されてこその演劇のはずだが、演劇学者は舞台上の出来事以外に関心がないのだろうか。だとしたら、演劇の未来をデザインしていくのは演劇学者ではなく、社会学者だと私は思う。

最後に、登場するカンパニー名、個人名ともすべて仮名だが、これほど詳細に書かれると想像がついてしまう。関係者が目にした場合に気になる記述もあった。その辺は大丈夫なのだろうか。

(参考)
チケットノルマは自転車の補助輪のようなものだ。乗れるようになるまでは必要だが、乗れた瞬間から不要になる。自転車に乗りたければ、勇気を出して補助輪を取るしかない

  1. 田村氏の調査では、同様のノルマを課していた5カンパニーすべてが中劇場進出を機に撤廃している。 []
  2. ぴあ総研『エンタテインメント白書2006』(ぴあ、2006年)現代演劇の俳優就業者数とエリア別開催比率から。 []