この記事は2011年2月に掲載されたものです。
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2010年に最も注目したポストパフォーマンストーク

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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時間堂『月並みなはなし』

小劇場のポストパフォーマンストークと言えば、演出家や周辺の演劇人によるものが圧倒的に多いが、時間堂が2010年3月に上演した『月並みなはなし』には驚かされた。JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)の後援で、同機構の月・惑星探査プログラムグループに所属する松本甲太郎氏をゲストに招いたのだ。

この公演は第7回杉並演劇祭参加作品として座・高円寺2を使用したもので、オープン間もない同劇場を無料で7日間借りられる絶好のチャンスだった。チラシには、その杉並演劇祭やイープラスのロゴと並んで、JAXAの青いロゴが印刷されている。月への移民者を選考する物語なので、確かにJAXAと関連はあるのだが、社会派ではないエンタテインメント作品である。よくJAXAにアプローチしたなというのが率直な感想だ。

JAXAサイト「職員/宇宙飛行士の講演」を見ると、有料企画への講師派遣は制限されている。ただし、「収支報告書等で利益が出ない料金設定であることをご提示いただければ、お受けできる場合がございます」とあるので、この辺も説明を重ねたのだろう。

これまで、作品の取材過程で先方の信頼を得て、異分野からの後援やポストパフォーマンストークが実現したケースはあるが、『月並みなはなし』のような再演作品での実現はめずらしい。ポストパフォーマンストークが付帯イベントの定番となって久しいが、演出家が演出意図を語るのは、小説にあとがきが付いているようなものだ。出来れば異分野から思いがけないゲストを招き、その人の話を聞きたいがために動員が増えるような試みをしてほしい。時間堂の人選は、まさにそんな企画だったと思う。

JAXAと言えば、09年3月8日に放送されたNHKスペシャル「宇宙飛行士はこうして生まれた~密着・最終選抜試験~」をご覧になった方も多いだろう。JAXAが10年ぶりに実施した選抜試験を初めて密着取材したもので、大きな反響を呼んだ。10年6月に発行された『ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験』(光文社新書)でその取材過程が明らかにされたが、放送後のJAXAには他のマスコミから、「NHKだけ、特別扱いは不公平だ」「試験の密着取材ができると教えてくれれば、うちの社も申し出た」と苦情が殺到したという。

なにを腑抜けたことを言っているのか、ジャーナリストとして恥ずかしくないのかと思う。これは絶対無理だと思われた取材を、NHKの記者が半年近くかけて交渉した熱意の賜物である。宇宙開発の意義が薄らいでいる現代で、伝えなければならない宇宙飛行士の本質があるはずという記者の思いが、JAXA幹部の心を動かしたのだ。選抜試験自体ももちろん興味深いが、他人が無理だと思っていることに粘り強く挑戦した取材チームに私は感動した。そしてそれは、このポストパフォーマンストークを仕掛けた時間堂の姿に重なって見えた。

この公演で時間堂は5回もの無料ワークインプログレスを開催し、その最終回ではUstreamによるライブ配信も実施した。早期購入の観客には、1名分の価格でペアチケットになる「Buy1 Get1 キャンペーン」(演劇公演でこの名称を使ったのは日本初では)も行なった。1ステージにつき20枚発行したので、5ステージで合計100名を招待したに等しい。その他各種割引や託児サービスなど、いま考え得るすべての集客方法を実践した。初めて中劇場に挑戦するカンパニーとして、演劇制作の教科書に載るような公演だったと思う。

10年に行なわれたポストパフォーマンストークで唸ったものとしては、鳥の演劇祭3のSCOT『お國と五平―別冊 谷崎潤一郎』も挙げておく。「スペシャルトーク・体を巡って、演出家と医者が語り合う」で、全国に知られる野の花診療所の徳永進医師が鈴木忠志氏と語り合ったのだ。鳥取ならではの企画だと思う。いま呼ぶべき人をきちんとわかっている感性が、鳥の劇場を鳥の劇場たらしめているのだと思った。

(参考)
ケーススタディ「演劇分野におけるUstreamの活用事例まとめ――どこまでコンテンツを見せるか、可能性の模索が続く」

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