この記事は2013年4月に掲載されたものです。
状況が変わったり、リンク先が変わっている可能性があります。



「劇場法の指針(案)」パブコメへの回答|地域間格差の国政府の責務に前進が見られない

カテゴリー: さくてき博多一本締め | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 高崎大志 です。

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「劇場、音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針(案)」のパブコメへの回答として、「劇場,音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針案に関する意見募集の結果について」 が先日文化庁サイトで公開されていました。

多くの意見提出に、回答している担当部局の労に頭がさがる思いです。

私の方からは、地域間格差の緩和に関するところに意見を提出しており、そのうちの一つには回答がありました。

私からは以下のように意見を出しておりました


>実演芸術に関する活動を行う団体の活動拠点が大都市圏に
>集中しており、地方においては、多彩な実演芸術に触れる機会が
>相対的に少ない状況が固定化している現状も改善していかなけ
>ればならない。

今回の指針案では、この部分を実現するための掘り下げがなされていないように思えます。

>1.国の取組に関する事項

>⑦ 国民がその居住する地域にかかわらず等しく、実演芸術を鑑賞し、
>これに参加し、又はこれを創造することができるよう、2.④に基づき地方
>公共団体が講ずる施策、民間事業者が行う劇場、音楽堂等の事業及び
>実演芸術団体等が劇場、音楽堂等において行う実演芸術に関する活動
>への支援その他の必要な施策を講ずること。

この部分は、法律第12条の規定から前進が見られません。
この部分に手を付けずに他の部分に手を付けるということは、相対的に、地域間格差が拡がっていくことになります。

法律でも指針でも前文に扱われており重要な項目と考えられているかと思います。

特に地方においては今後の人口減少の影響を受け表現者の数が減っていきます。今後5年間で有意義な対策が打てなければ、格差の解消に資することのできる地域の表現者は枯渇し、格差は固定化して脱する状況は失われるものと思います。

これに対する回答は以下のとおりです。

グラフ

第2−5イは、設置者または運営者の取り組みに関する事項であって、特に地域間格差緩和に対して国の責務を定めたものではなく、劇場等の一般的な指針について定めたものでしょう。
これをもって、意見への回答とされると肩すかしな印象です。

学校の五科目で例えると、私は「英語が特に弱いのでなんとかしてほしい」といっているのですが「五科目全般的に授業数を増やすと書いております」と言われているようなものです。

残念な内容の回答です。

地域間格差緩和の国政府の責務を定めた部分は

⑦ 国民がその居住する地域にかかわらず等しく、実演芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造することができるよう、2.④に基づき地方公共団体が講ずる施策、民間事業者が行う劇場、音楽堂等の事業及び実演芸術団体等が劇場、音楽堂等において行う実演芸術に関する活動への支援その他の必要な施策を講ずること。

であり、この部分に正面から取り組んで、掘り下げていただきたかったところです。

指針案は文言の修正の範囲のことしかできない動かしがたい諸状況があったのだろうと推察します。今後の事業も含め、参考とさせていただきます。の一節を善意的に捉え今後に期待したいと思います。

また、蛇足ながら、以下の意見も提出しておりました。

1.国の取組に関する事項

国政府が、法律や指針についての地方公共団体の取り組み状況を把握する必要が
あるように思います。

具体的には年1回の照会を行い取り組み状況を把握します。

拘束力を持ちにくい法律と指針案になっていると思いますが、このままいくと今後は地方公共団体がこの法律や指針を参照することもなくなるようにも思えます。

地方公共団体が法令の実現に取り組むことを少しでも担保するためにも、定期的に法令を参照するようにするためにも、毎年の取り組み状況の照会を行う必要があると思います。
照会の文言によっては、地方公共団体の政策を善導できるように思います。

「国は地方公共団体の取り組み状況を把握するよう努める」といった文言を加えることが良いと思います。

これは我ながらナイスアイディアだと思えたのですが、残念ながらこちらはスルーされたようです。


「劇場法の指針(案)」パブコメへの回答|地域間格差の国政府の責務に前進が見られない」への5件のフィードバック

  1. 赤松洋子

    fringeさま、高崎さま、はじめまして。
    大学院で劇場法が実効性を持つための課題について研究しております社会人院生です。研究資料としていつも閲覧させていただいており、ありがとうございます。

    1カ所、気がついたのでご連絡します。
    パブコメ回答は「〜ヒアリングの〜」ところではなく、
    「劇場,音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針案に関する意見募集の結果について」のところかと存じます。

    昨日、説明会が行われた模様ですが、情報確認が遅れ、出席できませんでした。マメにチェックしなければいけない、と反省しております。

    今後とも情報の共有をどうぞよろしくお願いします。

  2. 高崎大志

    赤松様

    いつもご覧いただけているとのこと、励みになります。

    ご指摘ありがとうございます。
    修正いたしました。

  3. 赤松洋子

    高崎様

    恐れ入ります。『地方自治職員研修 639号』の記事も拝読いたしました。大変、参考になりました。

  4. 高崎大志

    赤松様

    あちらは地域演劇プロデューサーの立場から地方公務員向けに劇場法について解説するということで寄稿したので、制作者やアートマネージャー関係ではあまりお知らせしてなかったところです。

    しかしながら、そちらもご覧いただいていたとはおそれいります。

    近頃では、一部の例外はあるが、地方自治体は一般論としては自分の頭で考えて自分の足で歩く能力をもっていないのではないか、と考え始めています。
    なので、せっかくの劇場法もうまく活かせないのではないか、というやや悲観的な立場になりつつあります。

    もう少し考えがまとまれば、どこかで書きたいと思います。

  5. 赤松洋子

    高崎様

    私の居住しております北関東の県内においても、自治体によって取り組みの差が大きいです。
    >せっかくの劇場法もうまく活かせないのではないか、

    まさに私も同感で、少しでも何とかならないかと、研究として取り組んでいるところです。

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