多忙で2年見送っていた日本劇団協議会機関誌『join』71号特集「私が選ぶベストワン2010」に参加させていただいた。3月31日発行予定。
当然ながら、私が知り得る限られた範囲からの選択である。全国には、まだまだ素晴らしい作品が埋もれているかも知れない。
舞台 | 『葬送の教室』風琴工房 | |
女優 | 「かもめ中学校女子バレー部」を演じた全員 ※俳優の集合体で記憶を追体験させる作品のため |
『ハロースクール、バイバイ』マームとジプシー |
男優 | 佐藤誓 | 『葬送の教室』風琴工房 |
演出家 | 藤田貴大 | 『ハロースクール、バイバイ』マームとジプシー |
スタッフ | 樺澤良 | 東京芸術劇場「水天宮ピット」(東京舞台芸術活動支援センター)の制度設計 |
団体 | フェスティバル/トーキョー実行委員会 | 新しい表現を提供し続けようとする強い意志 |
戯曲 | 『葬送の教室』 | 詩森ろば |
ノンジャンル | くじら企画による大竹野正典追悼三夜連続公演 |
演出家は文句なしに藤田貴大氏。「マームとジプシー『ハロースクール、バイバイ』は、記憶という行為そのものを舞台化した前例のない演出手法だ」に書いたとおり、演出を超えた脳内体験だ。
舞台を『葬送の教室』『ハロースクール、バイバイ』どちらにするかは迷った。後者の演出は画期的だが、日航機墜落事故に現在の視点から真正面で取り組んだ前者の成果は、表現者が社会とどう向き合うかを教えてくれるものだった。後者は演劇好きな人に薦めたいが、前者は演劇を観たことがない全国の人に観てもらいたい。その違いだ。
『葬送の教室』は、国際交流基金「Performing Arts Network Japan」12月の「今月の戯曲」で紹介されている。詳細はこちらが詳しい。
社会派と呼ばれる風琴工房だが、近年は水俣病を扱った『hg』(2008年)のように、単純な勧善懲悪では描けない人間の深層心理に迫る骨太な会話劇を送り出している。事件の悲劇を直接描くのではなく、その前後の過程を加害者側の視点も含めて考察しているのが特筆される。緻密な取材に加え、個人と組織の関係性に対する作者の見識が伝わる作品群だと思う。こうした作品群が東京で動員1,000名程度というのは非常に残念であり、本来は万単位の観客に届けなければならない作品だと思う。ぜひ再演を検討していただきたい。
『葬送の教室』は昨年度の文化庁芸術祭賞に参加していたが、期待に反して選に漏れた。日航機墜落事故を扱ったことが、その要因でないことを願いたい。私としては、芸術祭賞を受賞してハクを付け、それで全国の公共ホールから買いが入ればいいと思っていた。それぐらい価値ある作品である。これを読んでいる公共ホール関係者がいたら、数館組んでのツアー買い取りを真剣に検討していただきたい。クオリティは私が保証する。
スタッフで入れた樺澤良氏は直接の舞台作品ではないが、稽古場施設という演劇にとって最も重要な創造環境整備であり、制作者としてこれ以上のミッションはないかも知れない。制作者の仕事として、堂々と名前を挙げたい。東京都の稽古場施設については、2004年に生活文化局が築地市場内に練習場を提供したときから、廃校を転用した本格的施設の構想があった。美術重視が目立つ東京都の文化政策の下で、舞台芸術をいかに育てるか奔走した都職員の労力や、異動が多い行政の中で後任者へきちんと引き継がれたバトンの重みも噛み締めたい。
ノンジャンルのくじら企画は、09年に水難事故で亡くなった大竹野正典氏の作品を、オリジナルどおりのキャスティングと演出で再演したもの。故人の妻である後藤小寿枝氏が監修し、追悼企画としてこれ以上ない舞台となった。
(2011年1月24日追記)
『葬送の教室』は、第14回鶴屋南北戯曲賞にノミネートされた。現役演劇記者7名が選んだ4作品のうちの1本である。