演劇の創客について考える/(35)演劇の宣伝でいますぐ出来るのは、サイトやチラシに人物相関図を載せること

カテゴリー: 演劇の創客について考える | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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●長期連載です。2015年に掲載した(予告)から順にお読みいただけます。

新作が多い演劇の宣伝では、前売開始の時点では作品内容が不明なことが多く、作品が完成してから宣伝が始まる映画などに比べ、イメージ先行で購入のための情報が少なすぎるという批判をよく耳にします。これは全くそのとおりだと思います。

特にあらすじが全く書かれていないのは致命的で、これでは観るかどうかの判断が難しいでしょう。演劇を観続けているファンなら、「信頼出来るカンパニーだから」「そのスタッフ・キャストの魅力を知っているから」などの理由で選べるかも知れませんが、新しい観客を増やしたいとき、なにか出来ることはないかと考えました。

あらすじをサイトやチラシに載せる努力は続けるとして、それに加えて人物相関図を載せられないでしょうか。映画やドラマの公式サイトでは、人物相関図が掲載されているのは普通ですし、演劇でも当日パンフに人物相関図を載せている公演はあります。当日パンフに載せられるなら、事前に公開することも可能ではないでしょうか。

人物相関図は登場人物の人間関係を紹介したものですから、戯曲が完成していなくても設定がわかれば作成可能です。もちろん、ネタバレになるような設定は伏せればいい。登場人物は配役と同じ時期に決まるはずで、出演者が決定しているチラシ作成段階なら、そこで人物相関図も作成可能だと思うのですが、いかがでしょうか。劇団員中心のカンパニーなら配役が遅れる場合もあるかも知れませんが、客演中心のプロデュース公演ならオファーの段階で固まっていると思います。

人物相関図があると、最低限のあらすじでも作品の世界観がつかめます。人物相関図を見ているだけで、どんな物語が展開されるのか想像がふくらみます。俳優の顔写真をチラシに載せる場合も、コンポジットを並べた無味乾燥なレイアウトではなく、人物相関図の中に(可能なら衣裳・メークをして)入れたほうが、より作品に興味を持ってもらえるのではないでしょうか。

人物相関図を事前に公開するもう一つのメリットとして、実際に足を運ぶ観客の理解が進むことも大きいと思います。ネタバレになる設定は別ですが、演劇では当日パンフに配役表が載っていない公演も少なくなく、物語に没入するために登場人物を頭に入れておきたいと感じることがよくあります。人物相関図は小説など想像力が必要な他の表現でも提供されており、演劇だけが出し惜しみする理由はないと思います。

人物相関図を早期に公開している例としては、劇団印象-indian elephant-(本拠地・東京都)が新作でもSNSで積極的に紹介しています。2023年の『犬と独裁者』では、公演1か月半前に詳しい人物相関図を掲載しました。モデルとなった人物と俳優の写真が入っており、雰囲気がよく伝わります。

当日パンフとしての紹介では、アマヤドリ(本拠地・東京都)の小角まや画伯イラストによる人物相関図は毎公演の名物になっていますし、ニットキャップシアター(本拠地・京都市)は『チェーホフも鳥の名前』で人物相関図入りガイドブックを19年の初演時から配布し、22年の再演時は配信の参考になるようダウンロード可能にしました。この人物相関図はデザイナー・山口良太氏の力作で、俳優が複数役を演じる場合も色分けで一目でわかります。

演劇は観客の想像力に委ねる部分が大きい表現ですが、その想像力を広げるものと狭めるものがあると感じます。人物相関図は前者と言えるではないでしょうか。こうした情報がチラシに掲載されたり、サイトやSNSで早期に紹介されれば、あらすじ自体は限られていても、内容がわからないという宣伝の課題はかなり改善されると思うのです。

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