私が選ぶベストワン2019

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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日本劇団協議会機関誌『join』の「私が選ぶベストワン2019」に参加させていただいた。2月末発行予定の96号に掲載されるそうだ。

当然ながら、私が知り得る限られた範囲からの選択である。全国には、まだまだ素晴らしい作品が埋もれているかも知れない――と例年なら書くところだが、今回は少し違う。舞台はDULL-COLORED POP「福島三部作・一挙上演」がベストワンと明言したい。

作品のクオリティだけを問えば、甲乙つけがたい作品も多いだろう。しかし、作・演出の谷賢一氏が自らの出自に動かされ、福島と原発の関係性を丹念に描いたこの三部作は、書くべくして書かれた作品で、彼はこの作品を世に出すために生まれてきたと言ってもよい。これが圧倒的なベストワンの所以である。

福島と原発という創作意欲を掻き立てるテーマがあるからだと言う人もいるかも知れないが、それは違う。劇作家なら誰にでも、その人にしか書けない人生を懸けて取り組むべきテーマがある。たとえ地味な内容でも、それを見つけて徹底的に探求し、「この作品のために生まれてきた」と言えるものが送り出せたのなら、同じ賞賛に値するだろう。現実は締切に追われ、自分が本当になにを書くべきかを見つけられない劇作家が多いのではないだろうか。谷賢一氏の場合、それが「福島三部作」であり、劇場が決まる前から徹底的な取材を重ねた結果なのだ。

そして、そこまでの作品が出来たのなら、ロングランやツアー公演をすべきである。本拠地だけの上演では、その作品が埋もれてしまう。「福島三部作」は、福島はいわき芸術文化交流館アリオス主催だが、東京と大阪は合同会社DULL-COLORED POPの手打ちだ。特に東京は中劇場を3週間以上借り切っての公演で、観るべき人に届けることが出来たと思う。人生を懸けた作品が出来たときには、人生を懸けて公演し、人生を懸けて集客すべきである。だから今回は「全国には、まだまだ素晴らしい作品が埋もれているかも知れない」とは書かない。それは、埋もれさせている側にもまだ出来ることがあるはずだから。

舞台 「福島三部作・一挙上演」DULL-COLORED POP
主演俳優 緒川たまき 『キネマと恋人』世田谷パブリックシアター+KERA・MAP
助演俳優 百花亜希 DULL-COLORED POP全作品
演出家 谷賢一 「福島三部作・一挙上演」『マクベス』DULL-COLORED POP
スタッフ 小野寺修二
(分野:振付)
『キネマと恋人』世田谷パブリックシアター+KERA・MAP、『ドクター・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~』KAAT
団体 Theatre Ort 久しぶりの大人向け作品を堪能、永遠の秘密結社であってほしい。
戯曲 『あつい胸さわぎ』 横山拓也
ノンジャンル くじら企画と各上演団体による大竹野正典没後10年記念公演

戯曲は「福島三部作」にすべきか非常に悩んだが、 戯曲自体のテクニックの神髄に触れた思いがあり、『あつい胸さわぎ』を選んだ。ありふれたエピソードの積み重ねなのに、どうしてこれほど胸に迫るのか。生活に寄り添いながら丁寧に感情の起伏を紡いでいく戯曲は、手練れとしか言いようがない。こうした体験が出来るのも、また演劇の醍醐味だと思う。残念なのは劇場キャパが小さすぎること。東京での劇場の選び方が評価より1年遅れているように感じる。iakuの成長を数年先まで予測し、才能を信じて公演を企画していただきたい。

ベストワンには届かなかったが、若手演出家コンクール2018で最優秀賞と観客賞をW受賞したパンチェッタ『Ten』は素晴らしかった。シュールなスケッチが重層的な意味を持ち、人間賛歌の物語へと昇華する圧倒的な世界観に感動した。その後のせんがわ劇場演劇コンクールW受賞公演『Plant』『図』は物足りなかったが、コメディに必要な「絶対音感」は身に着いているので、出演者を厳選して物語を育てれば、日本を代表するコメディ集団になると思う。

同じく、天災で集まった疑似家族を描いたMONO『はなにら』も忘れ難い。若手の加入で描けた親子という新境地に加え、ドラマとコメディのバランスが絶妙で、彼らの全作品でベスト3に入ると思う。法人名(有限会社キューカンバー)の元となった『きゅうりの花』 を連想させる題名は、土田英生氏の誕生花(3月26日)でもある。結成30周年にふさわしい傑作だった。

ノンジャンルは字数の制約でこの表現にしたが、くじら企画と共に大竹野正典没後10年記念公演を推進しているオフィスコットーネを忘れてはならない。『夜が掴む』『山の声』に加え、オリジナル作品『埒もなく汚れもなく』『さなぎの教室』を上演し、特に『埒もなく汚れもなく』『山の声』で待望の関西公演を果たした意義は大きい。

(参考)
私が選ぶ2005年ベストワン
私が選ぶ2006年ベストワン
私が選ぶ2007年ベストワン
私が選ぶベストワン2010
私が選ぶベストワン2016
私が選ぶベストワン2017
私が選ぶベストワン2018