この記事は2017年1月に掲載されたものです。
状況が変わったり、リンク先が変わっている可能性があります。



私が選ぶベストワン2016

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

Pocket

久しぶりに日本劇団協議会機関誌『join』88号特集「私が選ぶベストワン2016」に参加させていただいた。今回から発行時期が早まり、例年の3月末から2月末になるそうだ。

当然ながら、私が知り得る限られた範囲からの選択である。全国には、まだまだ素晴らしい作品が埋もれているかも知れない。

舞台 『ロクな死にかた』アマヤドリ
女優 異儀田夏葉 『明るい家族、楽しいプロレス!』小松台東
男優 西尾友樹 『治天ノ君』劇団チョコレートケーキ
演出家 広田淳一 『ロクな死にかた』アマヤドリ
スタッフ 岡田太郎(音楽) 悪い芝居各作品、『月の剥がれる』アマヤドリ、『ゆっくり回る菊池』僕たちが好きだった川村紗也
団体 DULL-COROLED POP 小劇場カンパニーとはなにかを具現化した活動休止公演『演劇』。
戯曲 『ロクな死にかた』 広田淳一
ノンジャンル 『江崎ヒロがいなくなった』東京都立駒場高等学校演劇部

2016年は演劇で『ロクな死にかた』、映画で『この世界の片隅に』という、いずれも私のオールタイムベストテンを書き換える作品と出会えた収穫の年だった。

前者は入れ子構造の群像劇に観客自身も組み込まれ、後者は登場人物と同じ視点で戦時中に生きるという、作品と観客の関係性を揺さぶる共通点があった。こういう体験をしたいがために、私は劇場や映画館へ足を運んでいるのだ。私が『ロクな死にかた』を「現代演劇の一つの到達点、演劇史に残る作品」とツイートしたのもそのためである。

『ロクな死にかた』は全会場・全バージョンを観たが、中でもスタジオ空洞版を真のベストワンに挙げたい。この作品は、東京での劇場公演(シアター風姿花伝)前に、アトリエであるスタジオ空洞で長期のプレビュー公演を行なった。作品自体がスタジオ空洞の動線でつくられていることに加え、この限られた空間から生み出される爆発的な躍動感が忘れられない。この会場のみ母親役を演じた主宰の広田淳一氏にも、俳優が演じるのとは異なる説得力を感じた。

女優はコメディから選んだ。私は俳優への最高の褒め言葉は「その役を演じるために生まれてきた」だと思うが、それとは別に「その人がいるから作品が成立する」場合があると感じる。その俳優の醸し出す雰囲気が作品全体を包み込んでいるような心境になり、『明るい家族、楽しいプロレス!』の異儀田夏葉氏はまさにその境地だった。プロデュース公演の場合、その俳優をキャスティングしたこと自体が評価されるべきであり、小松台東主宰の松本哲也氏の眼力を忘れてはならない。いま東京の小劇場界で最もキャスティングが光る団体の一つだろう。

『治天ノ君』『演劇』は、ほかの年ならベストワンに選んでもおかしくない作品だった。16年は『ロクな死にかた』という異次元の作品があったので、このような結果となった。DULL-COROLED POPの場合、作品以前にカンパニーとしての生き様に惹かれる部分が強く、「私が選ぶベストワン」には団体という分野があるので、ここに入れることにした。「情熱大陸賞」「言語化を諦めるな!賞」と思ってほしい。

スタッフは領域が広すぎて悩ましいのだが、印象に残った作品で最も目についた人物ということで、総合的に岡田太郎氏を選んだ。小劇場界を代表する劇伴の提供者として知られているが、16年はその実力を堪能させてもらった。

『江崎ヒロがいなくなった』は、国立劇場での全国高等学校総合文化祭優秀校東京公演への特別出演。地区と全国の大会が年度をまたがる高校演劇で、主要キャストを2年間据え置いた究極のメタ演劇。保存することが出来ない演劇の宿命と魅力を再認識した。

(参考)
私が選ぶ2005年ベストワン
私が選ぶ2006年ベストワン
私が選ぶ2007年ベストワン
私が選ぶベストワン2010