この記事は2019年1月に掲載されたものです。
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私が選ぶベストワン2018

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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日本劇団協議会機関誌『join』の「私が選ぶベストワン2018」に参加させていただいた。2月末発行予定の93号に掲載されるそうだ。

当然ながら、私が知り得る限られた範囲からの選択である。全国には、まだまだ素晴らしい作品が埋もれているかも知れない。

舞台 『百年の秘密』ナイロン100℃
主演俳優 犬山イヌコ 『百年の秘密』ナイロン100℃
助演俳優 山田百次 ホエイ全作品、『消す』小松台東
演出家 坂手洋二 『九月、東京の路上で』燐光群
スタッフ 上田大樹
(分野:映像)
『百年の秘密』ナイロン100℃
団体 DULL-COLORED POP 「福島三部作」に挑む姿そのものが小劇場演劇。
戯曲 『サマータイムマシン・ワンスモア』 上田誠
ノンジャンル 『ねこはしる』KAKUTA

『百年の秘密』は圧倒的完成度だった。「次元が違う」「レベルが違う」という表現があるが、この作品のためにあると思った。ウェルメイドという言葉を安売りしてはいけないと自戒した。再演ならではの成果とも言えるが、だからこそ日本に再演文化を定着させるべきだ。私にとってナイロン100℃は2年連続のベストワンで、いま最も脂が乗っているように見える。『睾丸』は物足りない部分もあったが、KERA・MAP『修道女たち』は観応えがあった。

今回から、俳優は女優・男優1名ずつから主演俳優・助演俳優1名ずつになった。主演は舞台と同じく『百年の秘密』の犬山イヌコ氏。普段から上手い人だが、これは完璧だった。助演は複数の作品で存在感を見せつけた山田百次氏。重たい作品への出演が目立ったが、それを成立させるだけの実力がある。特に『郷愁の丘ロマントピア』は印象的だった。

演出は、ドキュメンタリー演劇の新しい形を見せた『九月、東京の路上で』の坂手洋二氏を選んだ。反響が大きく、すでに2019年3月の再演が決定している。

スタッフも『百年の秘密』映像を担当した上田大樹氏とした。プロジェクションマッピングを積極的に取り入れているナイロン100℃だが、その完成形と感じた。演劇界では著名な存在だが、今年はNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺」のタイトルバックで、お茶の間にも存在が知れ渡っていくだろう。

「福島三部作」に挑むDULL-COLORED POPは、日々の活動そのものが演劇であることを体現している。公演だけが演劇ではないことを実感させてくれる存在。劇団という言葉がこれほどふさわしい小劇場系カンパニーは稀有だと思う。16年に続いての団体ベストワン。今年はいよいよ7~9月に「福島三部作」の連続上演で、関西公演も行なうとのこと。

戯曲はかなり迷ったが、01年初演『サマータイムマシン・ブルース』 の続編を17年後に描くこと自体に加え、時空を超えて辻褄を合わせたことが驚きで、その技量と熱量に対して。当然『サマータイムマシン・ブルース』とセットで上演しないと執筆の意味がなく、カンパニーの20周年ツアーとして一連の企画を実現した劇団員全員による成果だろう。ヨーロッパ企画も本当に劇団だと思う。

ノンジャンルは、KAKUTAが穂の国とよはし芸術劇場PLAT、水戸芸術館ACM劇場と実現した『ねこはしる』を挙げた。「朗読の夜」という名物企画の原点で、04年の初演、06年のプラネタリウム公演(東急まちだスターホール)を忘れなかった観客たちのアンコールで16年に再々演され、それが公共ホールと一緒に新たな作品に育っていく。これ自体が奇跡のようなストーリー。改めて再演の大切さを思う。

(参考)
私が選ぶ2005年ベストワン
私が選ぶ2006年ベストワン
私が選ぶ2007年ベストワン
私が選ぶベストワン2010
私が選ぶベストワン2016
私が選ぶベストワン2017