日本劇団協議会機関誌『join』の「私が選ぶベストワン2018」に参加させていただいた。2月末発行予定の93号に掲載されるそうだ。
当然ながら、私が知り得る限られた範囲からの選択である。全国には、まだまだ素晴らしい作品が埋もれているかも知れない。
舞台 | 『百年の秘密』ナイロン100℃ | |
主演俳優 | 犬山イヌコ | 『百年の秘密』ナイロン100℃ |
助演俳優 | 山田百次 | ホエイ全作品、『消す』小松台東 |
演出家 | 坂手洋二 | 『九月、東京の路上で』燐光群 |
スタッフ | 上田大樹 (分野:映像) |
『百年の秘密』ナイロン100℃ |
団体 | DULL-COLORED POP | 「福島三部作」に挑む姿そのものが小劇場演劇。 |
戯曲 | 『サマータイムマシン・ワンスモア』 | 上田誠 |
ノンジャンル | 『ねこはしる』KAKUTA |
『百年の秘密』は圧倒的完成度だった。「次元が違う」「レベルが違う」という表現があるが、この作品のためにあると思った。ウェルメイドという言葉を安売りしてはいけないと自戒した。再演ならではの成果とも言えるが、だからこそ日本に再演文化を定着させるべきだ。私にとってナイロン100℃は2年連続のベストワンで、いま最も脂が乗っているように見える。『睾丸』は物足りない部分もあったが、KERA・MAP『修道女たち』は観応えがあった。
今回から、俳優は女優・男優1名ずつから主演俳優・助演俳優1名ずつになった。主演は舞台と同じく『百年の秘密』の犬山イヌコ氏。普段から上手い人だが、これは完璧だった。助演は複数の作品で存在感を見せつけた山田百次氏。重たい作品への出演が目立ったが、それを成立させるだけの実力がある。特に『郷愁の丘ロマントピア』は印象的だった。
演出は、ドキュメンタリー演劇の新しい形を見せた『九月、東京の路上で』の坂手洋二氏を選んだ。反響が大きく、すでに2019年3月の再演が決定している。
燐光群『九月、東京の路上で』。燐光群全作品でベスト3に入ると思う。素舞台で時間を行き来する構成は、傑作『最後の一人までが全体である』に近いテイスト。劇中で原作を輪読する設定が、他シーンの長台詞にも活かされ、ドキュメンタリー演劇の単調さ、高齢化劇団の課題をも克服した。巧みな演出だ。
— fringe (@fringejp) 2018年7月29日
燐光群『九月、東京の路上で』。関東大震災直後の東京を追体験させながら、ここがオリンピックにふさわしい場所なのかと問い掛ける、まさに坂手洋二氏以外描けない作品。鬼気迫る。原作の舞台を旅するメタ演劇にすることで、メリハリとバランスが非常によい。社会派と報告劇の集大成ではないか。必見。
— fringe (@fringejp) 2018年7月29日
スタッフも『百年の秘密』映像を担当した上田大樹氏とした。プロジェクションマッピングを積極的に取り入れているナイロン100℃だが、その完成形と感じた。演劇界では著名な存在だが、今年はNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺」のタイトルバックで、お茶の間にも存在が知れ渡っていくだろう。
「福島三部作」に挑むDULL-COLORED POPは、日々の活動そのものが演劇であることを体現している。公演だけが演劇ではないことを実感させてくれる存在。劇団という言葉がこれほどふさわしい小劇場系カンパニーは稀有だと思う。16年に続いての団体ベストワン。今年はいよいよ7~9月に「福島三部作」の連続上演で、関西公演も行なうとのこと。
戯曲はかなり迷ったが、01年初演『サマータイムマシン・ブルース』 の続編を17年後に描くこと自体に加え、時空を超えて辻褄を合わせたことが驚きで、その技量と熱量に対して。当然『サマータイムマシン・ブルース』とセットで上演しないと執筆の意味がなく、カンパニーの20周年ツアーとして一連の企画を実現した劇団員全員による成果だろう。ヨーロッパ企画も本当に劇団だと思う。
ノンジャンルは、KAKUTAが穂の国とよはし芸術劇場PLAT、水戸芸術館ACM劇場と実現した『ねこはしる』を挙げた。「朗読の夜」という名物企画の原点で、04年の初演、06年のプラネタリウム公演(東急まちだスターホール)を忘れなかった観客たちのアンコールで16年に再々演され、それが公共ホールと一緒に新たな作品に育っていく。これ自体が奇跡のようなストーリー。改めて再演の大切さを思う。
穂の国とよはし芸術劇場PLATの最近の企画では、水戸芸術館ACM劇場と組んだKAKUTA『ねこはしる』のリクリエイションを特筆したい。リーディング公演の概念を変えた「朗読の夜」シリーズ人気作を松本も含めてツアー。遊◎機械/ 全自動シアター『ア・ラ・カルト』と青山円形劇場の幸せな関係を連想した。
— fringe (@fringejp) 2018年12月21日
(参考)
私が選ぶ2005年ベストワン
私が選ぶ2006年ベストワン
私が選ぶ2007年ベストワン
私が選ぶベストワン2010
私が選ぶベストワン2016
私が選ぶベストワン2017