4月末発行予定のAICT(国際演劇評論家協会)日本センター『シアターアーツ』(晩成書房)64号に掲載される「2019AICT会員アンケート」に参加させていただいた。
日本劇団協議会機関誌『join』96号特集「私が選ぶベストワン2019」とは異なる視点があり、それを考えるのが楽しい。2019年は多忙で観劇本数が減ったが、その分厳選して足を運んだのでハズレは少なく、満足度の高い年だったと思う。
■ベスト舞台(5作品まで、順位あり)
(1) DULL-COLORED POP「福島三部作・一挙上演」(作・演出=谷賢一)
(2) 世田谷パブリックシアター+KERA・MAP『キネマと恋人』(台本・演出=ケラリーノ・サンドロヴィッチ)
(3) iaku『あつい胸さわぎ』(作・演出=横山拓也)
(4) MONO『はなにら』(作・演出=土田英生)
(5) NODA・MAP『Q:A Night At The Kabuki』(作・演出=野田秀樹)
■ベストアーティスト(3名まで)
○谷賢一(劇作家・演出家/DULL-COLORED POP)
○ケラリーノ・サンドロヴィッチ(劇作家・演出家/ナイロン100℃、KERA・MAP)
○横山拓也(劇作家・演出家/iaku)
■実験的・先駆的作品
パンチェッタ『Ten』(脚本・演出=一宮周平)
■実験的・先駆的作品アーティスト
松本哲也(劇作家・演出家・俳優/小松台東)
■優秀新人アーティスト
綾門優季(劇作家/青年団リンク キュイ )
■コメント
DULL-COLORED POP「福島三部作・一挙上演」は構想段階から注目してきたが、同時代に生きる証となる作品だった。「代表作は次回作」はアーティストが自分を鼓舞させるための言葉だが、「この作品を世に出すために生まれてきた」と思えるものが残せる人はどれだけいるだろう。自らの出自に動かされ、福島と原発の関係性を丹念に描いたこの三部作は、まさに書くべくして書かれた作品だった。
若手演出家コンクール最優秀賞・観客賞をW受賞したパンチェッタ『Ten』は、シュールなスケッチが重層的な意味を持ち、人間賛歌の物語へと昇華する圧倒的な世界観に感動。作品によって波があるが、久々にコメディの「絶対音感」を持った才能と邂逅した気分だ。
主演女優が降板したオフィスコットーネプロデュース『さなぎの教室』で、代役した松本哲也の存在感は特筆に値する。性差を超えて演出家自身が演じるという判断は、まさに実験的・先鋭的だったと思う。
■年間の観劇本数
約50本
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優秀新人アーティストおける新人の定義は選者に委ねられ、「活躍が目立った」ことが対象となっている。作品だけでなく、その企画力と行動力、演劇界の慣習に対して歯に衣着せぬ発言を続けている綾門優季氏を選んだ。
パンチェッタは「シアタートラム ネクスト・ジェネレーション vol.13」(第6回世田谷区芸術アワード“飛翔”受賞)に選出され、2020年11月のシアタートラム公演が決定した。選評によると応募作『un』はこれまでのような短編オムニバスではなく、長編の物語になっているという。ハイフン(-)プロデュースに提供した同名の作品をリクリエーションしたものだろうか。一宮周平氏の新境地に期待したい。