カンパニーを法人化して「演劇だけで食えるようにする」にはどれだけ稼いで動員すればいいのか、具体的にシミュレーションしてみた

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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今春、王子小劇場を退職され、北区の施設に移られた玉山悟氏のTwitterに触発され、久しぶりに小劇場演劇の予算を考えてみたい。今回は公演単位ではなく、団体としての年間予算だ。

「演劇だけで食えるようにする」には、どれだけ稼げばいいのか。次のような小劇場系カンパニーで計算してみたい。あくまで机上でのシミュレーションで、消費税は考慮していない。

  • 法人化している
  • 役員・社員は8名(主宰1名、俳優5名、制作者2名)
  • 稽古場を兼ねた事務所を賃借

《支出の部》

俳優を雇用/所属どちらにするかは大きなポイントだが、ここでは年間を通して食えること、福利厚生もきちんと提供することを目指したいので、雇用して給与を支払うことにする。俳優のマネジメントも行なうため、制作者は最低2名必要だろう。

これを踏まえた年間の人件費だが、国税庁「平成25年分民間給与実態統計調査」によると、2013年の30代前半の平均年収は384万円なので、この金額で試算したい。

非課税の通勤手当は含まれていないので、平均で往復1,000円、月20日勤務で2万円とする。福利厚生費(法定福利費+法定外福利費)は、「人事解決.com」の内訳で計算すると、年間54万円になる。法定福利費は社会保険の会社負担分、法定外福利費は健康診断や慶弔見舞の費用だ。退職金制度は設けない。年間の総額人件費は次のとおり。

(384万円+(2万円×12か月)+54万円)×8名=3,696万円

人件費以外の販売費及び一般管理費(販管費)では、事務所の賃借料と水道光熱費で月額30万円とする。東京で物件を検索したところ、これだけあれば駅から徒歩圏内で稽古場併設の事務所を維持出来るようだ。その他、日常業務に不可欠な費用を月額20万円とする。複数の企画を平行して走らせ、俳優のマネジメントもしようとすると、これぐらいは必要だろう。年間の販管費(総額人件費除く)は次のとおり。

(30万円+20万円)×12か月=600万円

売上原価に相当する費用は公演予算で相殺されるので、収入の部で考えたい。人件費を含む販管費の合計は次のとおり。

3.696万円+600万円=4,296万円

《収入の部》

カンパニーの収入としては、次のものが考えられる。

  1. 公演収入
  2. 物販収入
  3. 外部活動収入・戯曲の上演料
  4. 制作業務の受託
  5. 稽古場賃貸収入
  6. 演劇講座・ワークショップ収入

助成金を前提に予算を組むことは出来ないので、助成金は含めない。3~4は主宰・俳優を含めて給与を支払っているので、外部収入は全額法人に入れてもらう。5~6は稽古場があるので、それを活用した事業収入だ。

3~4は、劇団員8名が各自の領域で年間平均60万円は稼いでほしい。主宰は外部への執筆や演出、戯曲の上演料などで稼ぐ。俳優は客演やマスコミ出演で稼ぐ。制作者は公演の閑散期に、他団体の制作業務を受託して稼ぐ。俳優は個人差が大きいと思うが、平均60万円は無理な設定ではないと思う。

5は年間の1/3を外部にレンタル出来るのではないか。料金は1日5,000円で試算する。6は月額1万円・定員10名で2クラス開講したい。公演などで通年は困難と思われるため、10か月で試算する。

3~6の年間収入は次のとおり。

(60万円×8名)+(5,000円×120日)+(1万円×10名×2クラス×10か月)=740万円

販管費の合計4,296万円から740万円を引くと3,556万円になり、これを1~2で稼ぐ必要がある。このため、どのくらい公演を打てば3,556万円稼げるかをシミュレーションする。それを逆算すれば、必要な動員数が割り出せる。

小劇場公演の1ステあたりのランニングコストは、「続・小劇場は寿司屋でトロだけを出すようなもの」に書いた。これは劇団員の人件費も含めているので、演出料、出演料、制作人件費の7万円を引くと298,000円、約30万円になる。キャパ180名で有料動員80%とすると、1ステ144名になる。料金は平均3,800円とする。

中劇場公演は舞台美術の規模で大きく変わるが、ランニングコストは小劇場の2倍まではいかない。1ステ55万円あれば足りるはずだ。キャパ400名で有料動員80%とすると、1ステ320名になる。料金は平均4,800円とする。

以上の条件で、3,556万円の利益確保に必要なステージ数は次のとおり。

小劇場公演:3,556万円÷(3,800円×144名-30万円)=約144ステ
中劇場公演:3,556万円÷(4,800円×320名-55万円)=約36ステ

これはランニングコストだけの計算結果なので、イニシャルコスト分のステージ数を加える必要がある。しかし、小劇場公演はすでに144ステに達し、1週間9ステとして16週間劇場に詰めることになり、1か月以上のロングランを年3回成功させなければならない。非現実的なので小劇場公演での試算は中止する。

中劇場公演は36ステなので、年3回分のイニシャルコストを加える。各種プラン料、製作費、運搬費など300万円×3回=900万円とすると、必要なステージ数は次のとおり。

中劇場公演:(3,556万円+900万円)÷(4,800円×320名-55万円)=約45ステ

年間45ステということは、2週間公演を年3回の計算だ。1公演の有料動員は320名×15ステ=4,800名を目指す。ただし、2週間公演であっても年3回はハードルがかなり高いと思う。ここは料金を値上げして年2回公演にするのが現実的ではないだろうか。年間45ステから30ステに減らすので、年2回分のイニシャルコスト600万円を加えて再計算すると、料金は次のとおり。

中劇場公演:(3,556万円+600万円)÷(6,000円×320名-55万円)=約30ステ

物販収入は、観客の1/3に700円の有料パンフを購入してもらうことを目指す。原価率30%とすると利益は次のとおり。

(4,800名÷3×700円×0.7)×年2回=約157万円

《まとめ》

机上だけのシミュレーションだが、劇団員8名のカンパニーを法人化して、全員に30代前半の平均民間給与と福利厚生を実現するには、中劇場で有料動員4,800名の公演を年2回成功させる力が必要という結果になった。料金は公演以外の収入を控えめにすると、どうしても6,000円になる。決して容易ではないが、絶対に不可能とか、途方もない数字というわけではないと思う。

損益計算は下記のとおりである。

売上高            6,724万円
 公演収入          5,760万円(6,000円×320名×30ステ)
 物販収入            224万円(700円×1,600部×2回)
 外部活動収入・戯曲の上演料   480万円
 稽古場賃貸収入          60万円
 講座・ワークショップ収入    200万円
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売上原価           2,317万円
 公演費用          2,250万円(55万円×30ステ+600万円)
 物販費用             67万円(700円×1,600部×2回×0.3)
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売上総利益          4,407万円
販売費及び一般管理費     4,296万円
営業利益             111万円

年2回の公演と週2クラスの講座・ワークショップだけでは、俳優がなにもしない時間が多い。どれだけ外部活動をマネジメント出来るか、俳優による収益事業を生み出せるかがポイントになるだろう。コストがほとんどかからない稽古場でのアトリエ公演も企画したい(興行場法を満たさない場合は月4回まで)。助成金が獲得出来れば、チケット料金の値下げも可能になる。