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招待券と票券管理は表裏一体

招待券を出すに当たって最も重要なのは、各ステージごとの招待枚数を正確に把握し、有料のお客様を合わせた総合的な票券管理をすることです。招待券の種類は大別して、日ごろからお世話になっている方の招待、売れ行きが思わしくない場合の空席埋めの2通りがあります。前者の枚数は限られていると思いますが、後者の場合は客席を埋めたい気持ちが先走って、招待券を湯水のようにばらまいたり、一枚の招待状で多数を招待するケースが散見されます。そして予想以上に招待客が来場してしまい、ひどい場合は前売券を購入されたお客様が入場出来なかったり、当日券のために並んでいたお客様が開演ぎりぎりまで待たされた揚句に帰されたりします。このような扱いをされたら、誰もが二度とそのカンパニーは観なくないと思うでしょう。

こうした事例は私が小劇場にかかわり始めた当時もありましたし、現在も跡を絶ちません。招待券のばらまきに伴うトラブルは劇場規模に関係ありません。中劇場で動員に不安を感じてばらまくカンパニーもありましたし、定員90名の小劇場なのに8名まで有効の招待状を送っていたカンパニーもありました。本来なら事前にFAX等で観劇希望日時を確認し、前売・当日精算の状況と照らし合わせた上で最終的な来場日時を決定するものですが、前売券を日時指定にしていなかったり、招待客が当日いきなり来るようになっていたりで、気づいた段階では手の施しようがない状態になっているケースが多いようです。

カンパニーにすれば動員に不安を感じてばらまいた招待券ですから、当日券のお客様を帰すような盛況はうれしい誤算かも知れません。けれど、これがどんな悪評をもたらすことになるかは、お客様の立場で考えれば容易に想像つくと思います。また、こうした醜態は劇場側もしっかり見ています。どんなに作品が素晴らしくても、お客様をないがしろにするカンパニーには使わせないのが劇場の基本姿勢でしょう。劇場との信頼関係は、こうしたことで大きく左右されます。作品の評価以前に、制作面で問題のあるカンパニーは、決して希望する劇場を使うことが出来ないでしょう。演劇は作品がすべてと考える演劇人がまだ少なくないようですが、とんでもない間違いであることを自覚すべきです。

若いカンパニーにとっては、まず作品を観てもらわないことには前へ進めません。その意味で、招待券を戦略的にばらまくことが必要な場合もあるでしょう。また、旅公演先では集客のために招待券を出す基準が緩くなることもあると思います。いずれにせよ、招待券を多めに出すのなら、票券管理はより正確さを求められます。物理的にキャパシティが決まっている劇場で、票券管理をせずに招待券を出すのがどんなに無謀なことか、制作者は肝に命じる必要があります。

前売券を購入されたお客様が入場出来ないというのは、制作者として最低の行為です。そのようなカンパニーは、公演をする資格がないと私は思います。票券管理が出来ないのなら、招待券を出すべきではありません。残席数を正確に把握をしている制作者だけが、招待券を出すことが出来るのです。

お世話になっている方への招待券

これが本来の意味の招待ですが、考えられる相手先は次のとおりです。

  1. カンパニーの協力者
  2. 当該公演の協力者
  3. 宣伝依頼したマスコミ関係者
  4. 客演の所属カンパニー・事務所
  5. カンパニーのプロモーション先

このうち、2は御礼の意味を込めてこの公演限りの招待でいいのですが、ほかの方は一度招待券を出したら、その後も継続して出し続けたいものです。招待券を出したり出さなかったりすると、相手が困惑します。招待券を期待して、公演直前まで前売券を買わなかったために、座席位置が悪くなることも考えられます。「この方々に観ていただきたい」と考えて招待するのですから、公演規模や劇場の大小といったカンパニー側の都合で招待の基準を変えてはいけません。

招待基準を見直すのは、相手先の人事異動で演劇担当者が変わったり、何度招待しても来場されない場合などです。マスコミは人事異動が頻繁に行なわれますので、常に最新の担当者に送付するよう心掛けましょう。3回連続して来場されない方は、残念ながら縁がないものと判断して招待客名簿から削除すればいいと思います。

4の所属カンパニーについては、どこまで招待にすべきか迷うかも知れませんが、主宰と制作者だけで充分だと思います。それ以上招待すると相手も気兼ねしますし、逆の立場になった場合に同じことの繰り返しになります。相手カンパニーの著名な役者が来場された場合も、お支払いいただくことは決して失礼ではありません。なお、過去の客演者については、その後もカンパニーの協力者扱いにして、毎公演招待してもいいでしょう。再度客演の機会がないとも限りませんし、いざというときはきっと力になってもらえると思います。

5は劇評や今後の活動にプラスになると思われる演劇評論家やマスコミ関係者、使いたい劇場のプロデューサーなどが対象です。住所録を入手したり、いただいた名刺を元に発送することになります。小劇場系の役者を積極的に起用する番組プロデューサーやディレクター、キャスティング事務所などに送ってみるのもいいでしょう。もちろん、相手は毎日多数のDMを受け取ったり、売り込みを受けているはずですから、目立つ工夫が必要です。

若いカンパニーが忘れがちな招待客として、プレイガイドの仕入担当者が挙げられます。前売の関係で公演情報をいちばん早く入手するのは仕入担当者ですし、その方が注目すれば、記事になるよう情報誌の編集者に進言してくれることも少なくありません。チケットを売るための宣伝方法を一緒に考えてくれることもあります。編集者やライターだけでなく、プレイガイドの仕入担当者にも太いパイプを築きましょう。

空席埋めの招待券

この招待券の目的は空席埋めですから、すべて当該公演のみの招待となります。継続する必要は特にありません。空席埋めですから、動員の薄い(売れ行きの悪い)回を指定して招待するのが一般的です。

  1. パブリシティに付随した読者チケットプレゼント
  2. 他カンパニーへの招待券
  3. 高校演劇部等への招待券
  4. その他

1は公演の案内記事を掲載してもらう代わりに、読者をペア5組などの形で招待するものです。こうした記事形式での宣伝をパブリシティと呼びますが、チケプレを付けないと掲載されない媒体がほとんどですので、やむを得ない招待券と言えるでしょう。

チケプレの応募先はその媒体の編集部宛になることもありますが、直接カンパニー宛になることも多いようです。どちらか選べるなら、カンパニー宛にしてもらいましょう。これは、届いた応募ハガキが貴重な演劇ファンのデータになるからです。作品にもよりますが、こうしたチケプレには相当数の応募があります。集客に不安がある場合、ペア5組と謳っていてもそれ以上に当選者を出せばよいのです。空席があるなら応募者全員を当選にしてもいいでしょう。応募してくる読者はそのカンパニーに興味を抱いたはずですから(最近はネットオークション出品が目的の輩もいますが)、住所を記録して次回からDMを出すことも効果的です。

2と3は動員に不安がある場合や、新しい観客層を開拓したい場合に用います。有料5名につき1名無料にしたり、無料ではなく半額にするなど、招待方法もバリエーションが考えられます。団体が相手ですので、招待を一定数出すことで全員を呼ぶような工夫を考えてください。例えば演劇部なら顧問の先生宛に送り、先生を招待することで部員を引率してきてもらうなどのプランがあるでしょう。

いずれの場合も当日まで来場人数がわからない状態は絶対に避け、事前にFAX等で予約を入れてもらうか、充分な空席が確保されている日時限定にすることが重要です。「この招待状ご持参の方全員ご招待」のような人数無制限の招待は、予想を超える来場があった場合に取り返しがつきませんし、集客力がないことを自ら広めることになり逆効果です。充分に注意して、妥当な招待人数を決定しましょう。通常は1団体につき2~5名ではないでしょうか。

現実には、様々な理由でチケットの売れ行きが非常に悪く、このままでは客席がガラガラになってしまうという状況を避けるため、付き合いのある他カンパニーを全員招待する行為もないではありません。いわゆる「動員がかかる」という状態です。制作者としては、ガラガラの客席は役者の士気にかかわるし、お客様に「人気のないカンパニー」と思われてしまうことを恐れるからです。しかし、商業演劇ならいざしらず、小劇場の場合はガラガラの客席を見せつけることが重要な場合もあるのではないでしょうか。そもそも、ガラガラなのは制作者だけの責任ではありません。手売りの力が及ばなかったカンパニー全員の責任ですし、観客に評価されない作品をつくっている作・演出の責任でもあります。そうした現実から目をそらし、招待だけで客席の大部分を埋める行為がいいとは私は思えないのです。現実を直視し、なぜガラガラになったかの分析を全員ですることが、カンパニーの将来を築いていくことではないかと私は考えます。

4の具体例ですが、ポスターを街中に貼る場合、掲出場所提供の御礼として招待券を出すなどが考えられます。2枚ずつ出すと相当な数になりますが、集客を兼ねての〈お試し観劇〉的な意味合いで使われるケースです。

招待券ではなく招待状に

これまで招待券という表記で説明してきましたが、招待券は原則として招待状という形で発送すべきです。チケットに招待印を押したものを送ったのでは、いつ来場されるかわかりませんから、票券管理がなにも出来ません。招待状に来場希望日時を書いていただき、それをFAX等で返送していただくことを基本とすべきです。キャパシティが少ない劇場では、希望日時が集中した場合に備えて第2希望、第3希望まで書いていただくことも必要です。第1希望が取れなかった場合のみ電話連絡する方法が一般的ですが、FAXの送信ミスを防ぐため全員に電話連絡しているカンパニーもあります。

当日は持参された招待状と引き換えに招待券をお渡しします。面倒と思うかも知れませんが、日時指定で票券管理をするにはこの方法しかありません。招待状にすると氏名欄があるため、本人以外の代理出席を抑制する効果もあります。さらに強調したいなら、「ご招待はご本人様に限らせていただきます」の一文を明記するとよいでしょう。

招待状で来場日時を確認している場合でも、相手の都合が悪くなってキャンセルになる場合があります。このとき劇場に連絡を入れていただかないと、受付では空席を維持し続けることになります。電話予約では指定された時間までに来場しないと自動的にキャンセルになるのが一般的ですが、招待はこちらが招いている立場上、なかなかキャンセルにしにくいものです。その結果、立ち見が出ているのに招待席が空いているという見苦しい状態になることもあります。これを避けるため、招待状にはキャンセルの場合は必ず連絡を入れていただくよう明記しましょう。これを無視する招待客は次回から招待しないなど、毅然とした態度で臨むべきです。

全席自由における座席確保の問題

指定席の場合は表面化しませんが、全席自由の場合は招待客の座席確保が大きな問題となります。全席自由では入場順に好きな席に座りますので、来場が遅れるとよい席がなくなることが予想されます。招待客は開演直前に来場することが多いので、予め座席を確保しておかないとご案内出来ないことになってしまいます。

しかし、だからといって客席の少ない小劇場で、イスにずらりと「御招待」「関係者席」などの貼り紙をすると、一般のお客様に反感を持たれてしまいます。イスと桟敷が用意されている場合、多くのお客様がイスを希望されると思いますが、その大部分が「関係者席」になっているような光景も見かけます。一般のお客様にしてみれば、きちんと料金を支払っているのに待遇に差をつけられている感じが否めません。難しい問題だと思いますが、劇場の状況に応じて最適な解決策を制作者が考えていかなければなりません。

全席自由の場合、特に座席を確保しないカンパニーも少なくありません。開場時間に遅れれば、それに応じて座席も悪くなります。考えてみれば桟敷での観劇も小劇場の趣なのですから、お身体の具合でイスを希望される方以外は、特別扱いしないことも筋が通っていると思います。

招待客にも様々な考え方があり、座席を用意しておくのが当然という態度の方もいれば、特別扱いされることを嫌う方もいます。カンパニーにしてみれば招待客の評価を落としたくないために、「座席を用意されて悪く思う方はいないだろう」という無難な考えに向かいがちですが、開演間際に来場して立ち見になった招待客が、そのカンパニーを高く評価したという逸話も耳にします。その招待客は有名な劇場のプロデューサーですが、遅れて来場したのだから立ち見が当然と語ったそうです。客席の状況を見極めながら、その瞬間に最適な判断をすることの大切さを教えてくれるエピソードだと思います。