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劇場費=劇場使用料ではない

劇場費というと、本体の劇場使用料だけを連想しがちですが、実際には付帯設備使用料を筆頭に様々な緒料金が加算されます。その内訳は小劇場と中劇場でかなり異なりますし、地域によっても差があります。

ここでは東京と関西を例にとり、劇場費を算出する一般的な考え方を整理します。劇場によって独自の料金体系がありますので、これがそのまま通用するわけではありませんが、劇場費の予備知識を深めることで、自信を持った料金交渉や旅公演の予算計画が立てられるのではないかと思います。

劇場費算出方法

東京・関西の一般的傾向をまとめた表です。劇場によっては全く違う場合もあります。あくまで目安としてお考えください。

  東京 関西
劇場使用料
曜日の考え方 平日料金と土日祝料金(中劇場以上は一律料金の場合も)
内容の考え方 仕込み・リハーサル料金と本番料金
時間の考え方 本番のステージ数でカウント
(1ステ料金、2ステ料金など)
使用時間帯でカウント
(午前、午後、夜間、全日など)
延長料金 規定時間外の使用に対して加算(早く入ることも延長になる)
(劇場によっては仕込み・バラシの延長に寛大な場合も)
付帯設備使用料
舞台機材費 オプション以外は劇場使用料に含む オプション以外は劇場使用料に含む
照明機材費 オプション以外は劇場使用料に含む 基本セット料金が加算
音響機材費 オプション以外は劇場使用料に含む 基本セット料金が加算
持込料
照明持込料 中劇場以上はkW数に応じて加算 なし
音響持込料 中劇場以上は規模に応じて加算 なし
電気料
電気料 実費を加算 劇場使用料に含む
人件費
管理人件費 劇場使用料に含む 加算
(仕込み・バラシは3名、本番のみ1名)

東京の小劇場は付帯設備使用料と管理人件費が劇場使用料に含まれていることが多いので、単純に劇場使用料だけで計算しても誤差は少ないと思われます。ただし、劇場使用料は曜日・内容・時間で細分化されていますので、この部分の算出が少々面倒です。これに対し関西は、すべて全日料金で計算する場合が多いので劇場使用料自体の計算は容易ですが、付帯設備使用料と管理人件費が加算されることに注意しなければなりません。東京の料金体系に慣れたカンパニーが関西で手打ち公演する場合は、特に気をつける必要があります。

管理人件費と持込料は必ず確認を

劇場探しの段階から料金表を確認することは言うまでもありませんが、特に曲者なのが管理人件費と持込料です。これらは非常に高額になるケースがあり、場合によっては劇場使用料を上回ることもあります。劇場使用料だけで考えていたら大変なことになりますので、詳細な規定を必ず確認しましょう。

管理人件費は、いわゆる小屋付きさんのギャランティです。小屋付きさんが劇場直属なら劇場使用料に含まれているはずですが、管理業務を外部委託している場合は、カンパニーがその会社に直接支払うことが多いようです。劇場使用料が安い公共ホールでも、管理業務が外注だと管理人件費が民間ホールとなんら変わりませんので、この点の確認や見積もりが重要です。

小屋付きさんは舞台・照明・音響の3パートに分かれていることが多く、仕込みとバラシには全員が立ち会います。このため常駐している小屋付きさんだけでなく、管理会社から増員が出ることになります。本番だけの日は小屋付きさんのみで対応しますが、特殊な装置がある場合などは、常時複数名の体制になることもあります。これは劇場と管理会社の方針ですので、交渉の余地はあまりありません。劇場使用料が高い劇場でも管理人件費が不要なら、結果的に安上がりな場合もありますので、料金比較をする場合はこの点まで考慮すべきでしょう。

持込料は、劇場備品を使わずにカンパニーが外部から機材を持ち込んだ場合にかかります。飲食店に酒を持ち込んだときにかかる持込料と趣旨は同じです。東京の中劇場以上で発生する場合が多いようですが、小劇場でも規定しているところがあります。照明は機材のキロワット数で計算、音響はセット料金が決まっていて、規模によって変わるようです。これも灯体やステージ数が多いと高額になりますので、注意が必要です。

制作者には持ち込む照明のキロワット数などわかりませんから、事前に照明スタッフに相談して、だいたいの目安をつかんでおくとよいでしょう。プロのスタッフが劇場の機材リストを見れば、プラン前でもおおよその数字は出してくれるはずです。

延長料金は早く入るときもかかる

延長料金というと、退出時間が延びた場合しか思い浮かべないかも知れませんが、逆に規定の時間より早く小屋入りすることも延長になります。関西の場合はこの辺を大目に見てくれるところが多いようですが、東京は厳密な劇場が少なくありません。ただ、どの劇場もそれなりに考慮された使用時間になっていますので、事前に演出や舞台監督に充分に伝えて、カンパニーの都合だけで行動しないように注意すべきではないかと思います。

例えば本多劇場グループ(東京)の小劇場では、仕込み・リハーサル日は9:00~22:00、本番日は11:00~22:00が規定です。朝は10時からという劇場が少なくない中、仕込み・リハーサル日が9時からというのは好意的だと思います。時間をフルに使いたい日を9時入りにする代わりに、それ以外は11時入りというのは、理にかなった料金体系ではないでしょうか。こうした規定を知っていながら作品づくりが間に合わず、本番初日に朝9時から入りたいというのはカンパニーの責任ですから、2時間分の延長料金を支払うことになっても仕方ないのではないでしょうか。

延長料金は、単純に劇場使用料を時間数で割った金額とは限りません。劇場によっては通常の料金を安く抑える代わりに、延長料金は割高に設定しているところもあります。例えばザ・スズナリ(東京)は、1時間あたりの延長料金が1日の劇場使用料の25%です。つまり2時間延長すると、それだけで劇場使用料が1.5倍になる計算です。初日の準備が間に合わず、スズナリでどうしても入り時間を早めなければならなかったとき、私はこのことをメンバーに伝え、遅刻者には罰金を課しました。

劇場によっては、仕込み・バラシの延長に対して非常に寛大なところもあります。商業演劇を扱う中劇場では、徹夜仕込みやバラシもめずらしくありませんので、特に延長料を設けていないケースがあります。小劇場でも、オーナーの方針でバラシだけは時間無制限というところがあります。だからといって必要以上に時間をかけていたのでは、劇場側のブラックリストに載るでしょう。装置の規模などにより、最大限の努力をしても時間がかかる場合に許されることなのです。

支払方法とキャンセル料の確認

劇場費では支払方法の確認もたいへん重要です。前金と残金の割合、その支払期限と支払方法は、必ず契約書として取り交わしましょう。契約時には関係ないと思っていても、念のためキャンセル料の詳細も確認しましょう。

キャンセルの場合、違約金がどのタイミングでいくら発生するかも重要ですが、権利を保有したまま又貸しが許されるのかも大切なポイントです。カンパニー側が代わりの借主を見つければ違約金を免れる劇場もあるでしょうし、又貸しは一切許さないことを契約に盛り込んでいる場合もあります。これに反して又貸しすると契約違反となって金銭では済まない問題になりますので、制作者は安易な行動を慎んでください。

提携公演の考え方

関西では、カンパニーと劇場が提携した公演が盛んです。単なる名義だけでなく、劇場費の減免や宣伝面での協力が得られる場合が多いようです。提携公演になる条件は劇場によって異なりますが、公演期間が長期に及ぶ場合の割引的なもの、他地域からの旅公演を支援するもの、劇場側が応援したいと考える企画に対するものの3種類に大別出来ると思います。劇場によっては提携公演以外に協力公演という枠を設け、付帯設備使用料のみを減免するところもあります。

東京では、料金体系に演劇専用料金が設定されている劇場があります。これは興行的に苦しい演劇公演を支援するため、他のイベントより割安な劇場使用料を定めているものです。本多劇場(東京)や紀伊國屋ホール(東京)などの演劇と関係の深い中劇場や、カンパニーを顧客にしたい新設ホールなどに見られる制度です。東京の傾向としては、提携公演にするより、初めから演劇向けの料金制度を設けるほうが一般的のようです。

こうした背景には、東京のカンパニーがあまりに多すぎることが挙げられます。東京はカンパニー数が多いため、希望する劇場を契約すること自体が非常に困難です。劇場を選ぶ時点で高い競争率となります。従って、劇場側のセレクトにより、その劇場で公演出来ること自体が提携公演と同じ意味を持ちます。わざわざ提携公演とは銘打ちませんが、ステイタスのある有名劇場での公演はすべて提携公演だと言えるわけです。そのため、その劇場で公演する場合はすべて演劇専用料金を適用してもらえるわけです。

これに対し、関西はカンパニー数が限られています。特定の時期を除けば、早期に申し込んで劇場が取れないことはまずないでしょう。劇場契約の段階でのセレクトはないわけで、劇場側にしてみれば単なる貸館業務に過ぎません。このため、劇場として特に育てていきたいカンパニーに限って、提携公演という制度を設けてセレクトを行なっているのです。