カテゴリー別アーカイブ: フリンジのリフジン

有川浩氏『シアター!2』はなぜロングランに消極的なのか

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制作者の視点から小劇場界の構造的欠陥を描いた有川浩氏『シアター!』(メディアワークス文庫)。その続編『シアター!2』(2011年1月発行)を読んだ。

1巻が主宰の兄から見た制作談義中心だったのに対し、今回は劇団員それぞれの群像劇となっている。カンパニーにエピソードは尽きないわけで、この辺はいくらでも転がっていく感じだが、売れるグッズとはなにか、カンパニーという組織の不思議さ、身内客だけで回っている客席など、小劇場界へのダメ出しは変わらず随所に散りばめられている。エンタテインメントを否定する中劇場の嫌味な支配人も登場し、これは誰をモデルにしたのだろうと勘ぐってしまう。1巻に続き、興味深い内容だ。

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2010年に最も注目したポストパフォーマンストーク

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時間堂『月並みなはなし』

小劇場のポストパフォーマンストークと言えば、演出家や周辺の演劇人によるものが圧倒的に多いが、時間堂が2010年3月に上演した『月並みなはなし』には驚かされた。JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)の後援で、同機構の月・惑星探査プログラムグループに所属する松本甲太郎氏をゲストに招いたのだ。

この公演は第7回杉並演劇祭参加作品として座・高円寺2を使用したもので、オープン間もない同劇場を無料で7日間借りられる絶好のチャンスだった。チラシには、その杉並演劇祭やイープラスのロゴと並んで、JAXAの青いロゴが印刷されている。月への移民者を選考する物語なので、確かにJAXAと関連はあるのだが、社会派ではないエンタテインメント作品である。よくJAXAにアプローチしたなというのが率直な感想だ。

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身内客・常連客との関係性

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「創り手と観衆との距離が縮まったが為に死んだ批評性」に関連して、身内客・常連客に対する私自身の考えを改めて紹介しておきたい。

まず、ナレッジ「身内客から一般客へ移行するためのロードマップ」で書いているように、身内客そのものは重要な存在である。カンパニーの初期はどうしても劇団員の手売りに頼らざるを得ないわけで、その意味で旗揚げを支えてくれた恩人と言っていい。重要なことは、観客が増えるに従って一般客が疎外感を抱かないよう、その存在感を薄くしていくことである。これは身内客をないがしろにするわけではなく、接遇のテクニックを使って、それぞれのサービスレベルをきちんと両立させるのだ。

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「創り手と観衆との距離が縮まったが為に死んだ批評性」

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Twitter上で1月22日~23日にかけ、新宿シアター・ミラクル支配人の星英一氏と、観客のK_OSANAI氏のあいだで、たいへん興味深い意見交換があった。私の書いた「いまの東京の小劇場界を盛り上がっていると感じている人は、大きな勘違いをしていると思う」にも通じるところが多いと感じるので、Togetterでまとめさせていただいた。

Togetter – 「演劇コミュニティを巡る星英一氏とK_OSANAI氏の意見交換」

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原点回帰

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fringeは、2011年2月22日に開設10周年を迎える。

この10年間、小劇場演劇に対する創造環境整備は格段に進んだと思う。各地の劇場やサービスオーガニゼーションにより、研修・上演・交流の企画が大幅に増え、助成制度や稽古場施設も年ごとに充実してきた。カンパニー自身の意識も高まり、地域から全国へ目を向け、新たな観客を求めて積極的な旅公演を行なうようになった。こうした動きに、fringeもオンライン/オフラインの双方で貢献出来たと考えている。

その一方で10年前、いや20年前からほとんど進化していないことがある。それは首都圏以外の公演日数の短さだ。京阪神を含む地域の劇場では、未だ週末のみの公演が圧倒的で、これが観劇人口を始めとした演劇マーケットを改善出来ない要因となっている。週末だけの公演が〈負のスパイラル〉を生み出しているのだ。それ以前に、演劇というライブの表現に携わる者として、短い公演しか出来ないことを悔しがらねばならないだろう。

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私が選ぶベストワン2010

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多忙で2年見送っていた日本劇団協議会機関誌『join』71号特集「私が選ぶベストワン2010」に参加させていただいた。3月31日発行予定。

当然ながら、私が知り得る限られた範囲からの選択である。全国には、まだまだ素晴らしい作品が埋もれているかも知れない。

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マームとジプシー『ハロースクール、バイバイ』は、記憶という行為そのものを舞台化した前例のない演出手法だ

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マームとジプシー『ハロースクール、バイバイ』

終演後、いま観たばかりの作品を戯曲で確認したいと思うことが、私の場合は3年に一度くらいある。手元に残しておきたい珠玉の台詞、どうやって稽古したのかわからない絶妙な演出に出会ったときなど、その場で戯曲を確かめたくなる。フェスティバル/トーキョー10(F/T10)公募プログラムで11月24日に拝見したマームとジプシー『ハロースクール、バイバイ』は、まさにそんな作品だった(残念ながら物販はなかった)。

舞台は海が近い「かもめ中学校女子バレーボール部」。これまでの作品が14歳を描いていたように、ここでも14歳の中学2年生たちが描かれる。試合時間に見立てた90分の上演中に、転校生を中心とした部員たちの身近なエピソードや練習風景が、短いシーンのカットバックで綴られる。実際のバレーボールは使用せず、演技だけの「エアーバレーボール」で表現した。

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岸田戯曲賞最終候補作品発表の越年

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例年12月下旬の岸田國士戯曲賞最終候補作品発表が、今回は越年となった。「候補作が上演台本中心となったいま、白水社は岸田戯曲賞の推薦・選考時期をずらすべきではないか」という声が届いたのだとしたら、うれしい。

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『ドラマトゥルク 舞台芸術を進化/深化させる者』

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慶応義塾大学准教授でドラマトゥルクの平田栄一朗氏が、11月25日に『ドラマトゥルク 舞台芸術を進化/深化させる者』(三元社)を上梓した。長島確氏にドラマトゥルクと名乗ることを勧めた、あの平田氏である。

ドイツ演劇研究を専門とする平田氏が、長期取材を踏まえてドイツ演劇界におけるドラマトゥルクの全体像をまとめたもので、こうした体系的な書は日本初ではないかと思われる。制作分野と密接な関わりのあるドラマトゥルク(ドラマターグ)への知見を得るため、制作者もぜひ目を通しておきたい。

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『「マエストロ、それは、ムリですよ…」~飯森範親と山形交響楽団の挑戦~』

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「マエストロ、それは、ムリですよ・・・」 -飯森範親と山形交響楽団の挑戦-
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この本は売れているので、ご存知の方も多いだろう。社団法人日本オーケストラ連盟正会員の中で、本拠地の人口が最も少ない山形交響楽団(山響)の音楽監督、飯森範親氏の改革を描いたものだ。飯森氏は映画『おくりびと』出演や『のだめカンタービレ』指揮演技指導でも知られている。

音楽家と言えば、演劇人以上にアーティスト志向が強いイメージがあるが、飯森氏は「音楽家は、サービス業です」と公言し、「だって、どんなに完璧な演奏をしたって、ホールにお客さまがいなかったら意味ないでしょう?」と語る。こうしたポリシーを掲げる指揮者はほとんどいないようだ。そうした思いから生まれる付帯イベント、アウトリーチの数々は、もちろんそのまま演劇にも応用出来るだろう。

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