演劇の創客について考える/(14)「日本一の文化祭」都立国立高校「国高祭」のクラス演劇が教えてくれること

カテゴリー: 演劇の創客について考える | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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●分割掲載です。初めての方は(予告)から順にご覧ください。

高校の文化祭シーズンですが、全国にはクラス演劇の競演で有名なところがあります。東京だと都立青山高校「外苑祭」、都立日比谷高校「星陵祭」、東京学芸大学附属高校「辛夷祭」などが有名ですが、中でも3年各クラスによる演劇で「日本一の文化祭」と言われるのが、都立国立高校「国高祭」です。

NAVERまとめ「日本一の文化祭!『国高祭』とは」

今年の開催は日経電子版で大きく取り上げられました。あまりの人気で新たに導入された、Web抽選システムも紹介されています。

日本経済新聞電子版「1万人集客 都立国立高校『日本一の文化祭』を拝見」

上演時間は80分。各教室で2日間7ステが一般公開されます。キャパ75名なので合計525名。人気クラスは競争率約5倍で、2,625名の集客力がある計算です。大楽の8ステ目は保護者・生徒対象の特別公演で、これを合わせると集客力は2,700名になります。

都立国立高校は3年間クラス替えがありません。このため団結力が非常に強く、クラス演劇の準備は2年生の秋から始められます。この点はカンパニーと似ています。クラス名は4桁の数字で表わし、1年1組なら「1100」。クラス替えがないので「2100」「3100」になります。

まず驚くのは、クラスごとにサイト、ブログ、SNSの各種アカウントを持っていること。国高祭の紹介も、学校サイトにシンプルな「3年クラス演劇インフォ」はありますが、演目の詳細は各クラスのサイトにアクセスします。今年上演した69期は次のとおり。

もちろん、LINEも駆使しています。サイトは無料サービスの利用が多いですが、3300は独自ドメインまで取得しています。カラーの公演パンフは当たり前、揃いのポロシャツをつくり、オリジナル主題歌を作詞作曲します。

Twitterを見るとわかりますが、教室の原形をとどめない舞台美術が圧巻の「内装」、廊下がアート作品と化す「外装」、上演作の巨大ポスターを貼る「下駄箱装飾」、大学の立て看を凌駕する「校外看板」など、すべてが高校生のレベルを超越しています。最優秀作品に与えられる「アカデミー賞」のほか、「外装賞」「宣伝賞」があり、それらを競い合っていることもクオリティを高めているのでしょう。

作品は国高祭だけで上演するのではありません。8月に入ると卒業生向けの「OBOG見せ」、在校生向けの「校内見せ」、さらにクラス単位の「公開通し練」があり、計8ステ600名程度のプレビューを行なっています。これらが作品をブラッシュアップすると同時に、SNSを通じて評判を広げる効果を生んでいます。

こうして概観すると、能力のある生徒がキャストだけに集中せず、各自の得意分野でスタッフワークに専念していることが、国高祭の最大の強みだと感じます。考え得るすべての手段を実行し、そのナレッジが蓄積されて後輩に引き継がれるのも大きいです。引継資料の実物が、62期3200のサイトで公開されています。

演劇は総合芸術です。本来はあらゆる領域で関わったり、盛り上げることが出来るはずですが、演劇界では演劇人自らが壁をつくり、限られた人脈の中で可能性を閉じている気がしてなりません。私は演劇自体が〈メディア〉だと思っています。せっかく、どんなことでも出来るメディアがあるのに、周囲の人を巻き込んでいかないのはもったいないことだと思います。

国高祭の「外装賞」「宣伝賞」は、教室(劇場)外のことで、演劇では制作者の領域です。国高祭では、キャストよりもこうした外の領域を担当するスタッフの数が多く、それが素晴らしい結果を生み出しています。劇場と観客をつなぐ領域に、狭義の制作者だけではない様々な専門家が関わることが、創客のためには必要だと感じます。

国高祭の来場客の半数近くは地元中学生で(ブログ「文化祭見学記」)、偏差値の高い進学校でありながら、推薦入学の面接では「ほぼ全員が志望動機に3年次に演劇をしたいことを挙げる」(日経電子版)そうです。クラス演劇が、いかにインパクトを与えているかの証でしょう。演劇の持つ可能性、メディアとしての価値を考えさせられます。

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