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この本は売れているので、ご存知の方も多いだろう。社団法人日本オーケストラ連盟正会員の中で、本拠地の人口が最も少ない山形交響楽団(山響)の音楽監督、飯森範親氏の改革を描いたものだ。飯森氏は映画『おくりびと』出演や『のだめカンタービレ』指揮演技指導でも知られている。
音楽家と言えば、演劇人以上にアーティスト志向が強いイメージがあるが、飯森氏は「音楽家は、サービス業です」と公言し、「だって、どんなに完璧な演奏をしたって、ホールにお客さまがいなかったら意味ないでしょう?」と語る。こうしたポリシーを掲げる指揮者はほとんどいないようだ。そうした思いから生まれる付帯イベント、アウトリーチの数々は、もちろんそのまま演劇にも応用出来るだろう。
飯森氏が掲げた改革案の中で、どうしても無理だと思われたのが、オペラ上演とCDの大量リリースだった。だが、前者は新たな合唱団編成で現実に近づき、後者も山響自身が原盤権を持つレーベル「YSO live」を創設することで、2006年から7枚をリリースしている。計画がスタートした04年当時、クラシックのプライベートレーベルを持つ日本のオーケストラはなく、世界でもベルリン・フィルハーモニー管弦楽団やロンドン交響楽団ぐらいだったという。
このCDリリースは山響の転機となった。全国紙が報じ、評論家も山形に足を運ぶようになり、クラシックファンを山形に行きたいと思わせた。東京一極集中の演劇界で、地域のカンパニーが勇気をもらえる事例ではないだろうか。そもそも、山形市という3大都市圏や政令指定都市以外でプロオーケストラが成立していること自体が素晴らしい。不可能だと思われることを成し遂げることで、周囲の環境が変わっていくのだ。
CX系「トリビアの泉」を見ていた人なら、No.675「クラシック音楽には楽譜に『指揮者が倒れる』という指示が書かれた曲がある」を記憶しているだろう。マウリツィオ・カーゲル作曲「フィナーレ」という曲のことだが、これを実演・収録したのも飯森氏と山響で、飯森氏が日本で初演したのだという。どんな形であれ、メディアに露出してクラシックに興味を持つ人を増やしていく。それを実践する飯森氏こそ、クラシックの伝道師ではないだろうか。
オーケストラをカンパニー、指揮者を演出家に置き換えて読んでほしい一冊である。
オクタヴィアレコード (2006-06-28)
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