演劇の創客について考える/(32)作品の紹介だけでなく、劇場がある暮らしを伝えてほしい

カテゴリー: 演劇の創客について考える | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

Pocket

●長期連載です。2015年に掲載した(予告)から順にお読みいただけます。

最近、「ああ、これだ」と思ったツイートがこれです。長野県上田市のミニシアター・上田映劇が、新しく移り住む学生に向けたメッセージです。上田市は信州大学上田キャンパス、長野大学、上田女子短期大学があり、学生人口も多いと思います。

劇場からの発信は、どうしてもそこで上演する作品の紹介になりがちですが、ときには上田映劇のように、劇場がそこにあることの意味、演劇がある暮らしを伝えてもらえたらと思います。コンテンツで劇場に行こうと思うのではなく、劇場に興味を持ってもらい、そこで上演される年間ラインナップを知って、興味のある作品に足を運ぶ――。演劇に全く興味のない人が興味を抱く順番は、そうではないかと思います。

いまなにを上演しているかではなく、ここでどんなことが行なわれるのかを知ることが重要で、詳しい日時が未定でもまずは年間ラインナップを公開し、それを眺めることからではないかと思います。演劇の場合、映画と違って年間ラインナップを早めに公開出来ることが強みになるはずです。

直近のオススメ作品を紹介することは、「集客」のためには有効でも、「創客」のためにはあまり意味がなく、まずは劇場が身近にある生活を紹介していくことからじゃないか、と強く思うのです。年間ラインナップを眺め、琴線に触れる作品が数本あれば、まずは年数本から始めてみる。誰もが月に何本も観るコアな演劇ファンになる必要はないのです。

いまの演劇のオススメは、コアな演劇ファンだけを対象としており、年数本を観るような人をターゲットにしたものは皆無だと思います。演劇関係者やコアな演劇ファンは、どうしても演劇がある生活を中心に考えてしまいますが、「創客」のためには、演劇はたくさんある趣味の一つで、その選択肢を増やすだけでいいと思います。劇場に通うことがすべてじゃない。けれど、劇場がある暮らしが選択肢の一つになればいいなと思います。

上田映劇は「うえだ子どもシネマクラブ」により、全国初の映画館登校(学校長の判断で映画館に行くことが出席と認められる)が実現した場所です。子供たちに名作を届ける「週末こども映画館」、上映中に発声可能な「応援上映」も頻繁に実施。上映後に映画の感想を語り合う「オープンダイアログ」は、上田市の小劇場・犀の角とのコラボ企画から始まりました。

オリジナルの「映劇手帳」販売と、それに捺す作品ごとの「映劇はんこ」は全国の映画ファンでも話題になっています。衣料品も含む映画館自身のオリジナルグッズの種類は、たぶん日本一ではないでしょうか。私が演劇制作のバイブルに挙げる『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』で紹介された映画館、グリーン・ハウスを思い出します。

前の記事 演劇の創客について考える/(31)SNSやブログへ転載出来る舞台写真を提供する
次の記事 演劇の創客について考える/(33)演劇のクリエイションに「××考証」「××監修」「××指導」でプロボノを巻き込み、その業界から創客を図れないか