●長期連載です。2015年に掲載した(予告)から順にお読みいただけます。
映画・ドラマのクレジットで流れる「××考証」「××監修」「××指導」に憧れる人は多いと思います。その分野の専門家でないと出来ないこともありますが、自分が得意としていることなら、有識者としてアドバイス出来ることも多いでしょう。方言指導や自分が普段している仕事の所作などは、その代表ではないでしょうか。
これに対し、演劇で「××考証」「××監修」「××指導」のクレジットが入った作品は、芸事やスタッフワークに関することはあっても、それ以外ではほとんど見かけない気がします。医学・医療の監修、手話や方言の指導は散見しますが、もっとあってもよいのではないでしょうか。「ドラマトゥルク」「文芸協力」「演出助手」が調べて助言することはあると思いますが、演劇でも外部の専門家や有識者の方に、「考証」「監修」「指導」を積極的に依頼してもよいのではないでしょうか。
劇作家や演出家がちゃんと取材をしていると言われそうですが、映画・ドラマのように、もっと多くの人をクリエイション自体に巻き込んだらよいと思うのです。例えば、オーセンティックバーを舞台にした作品なら、「オーセンティックバー考証」「カクテル監修」「バーテンダー指導」などが考えられます。もちろん予算の問題がありますので、仕事ではなくプロボノとして協力をお願いします。その代わり、当日パンフではなく、本チラシの段階から正式にクレジットすることが重要だと思います。
プロボノなので、すべての方が受けていただけるわけではないと思います。けれど、最初に書いたとおり、「××考証」「××監修」「××指導」に憧れる人は多いはずです。小劇場演劇でも、きちんと本チラシに名前が印刷されて、作品として世の中に出ていくものであれば、協力していただける方はいると思います。うまく行けば、その方が所属している企業や団体なども興味を示し、組織ぐるみで応援していただけるかも知れません。そこから協賛につながるかも知れません。
演劇を観ていて、設定があり得ないとか、この年にまだこれは登場していないはず、と感じることはよくあります。フィクションと言ってしまえばそれまでですが、あまりにも実態や史実から離れてしまうと空々しく感じて、作品世界に入っていけません。その世界に詳しい方に、事前に戯曲を読んでもらったり、通し稽古を見てもらえばいいのにと何度思ったことでしょう。
こうした「××考証」「××監修」「××指導」は、対象がニッチなほどよいと思います。ニッチだからこそ、劇作家や演出家が調べても限界があり、専門家や有識者の方の助言を受けたいわけです。ニッチだからこそ、作品で扱うからには適当な描写ではなく、正確な姿を描きたいわけです。こう説明すれば、心を動かされる専門家や有識者の方は少ないくないと思います。神は細部に宿ります。表現に厚みを持たせるためなら、職人肌の方ほど協力していただけるのではないでしょうか。
ニッチなものを描けば、広報宣伝のターゲットも広がります。専門家や有識者の方が「××考証」「××監修」「××指導」するのであれば、そのこと自体をアピール出来ますし、ニッチな専門誌・業界誌にもリリース出来ます。専門家や有識者の方なら、どこに情報を出せば関心のある人が集まっているか、教えてくれるはずです。そこから普段は演劇を観ない人が、ニッチなものがどう描かれているかを観るために足を運んでくれるかも知れません。演劇は表現であると同時に、メディアでもあるのです。
印象に残る小劇場系の「考証」「監修」「指導」クレジットをご紹介します(肩書は当時のもの)。
- てがみ座『ありふれた惑星』(2009年)
囲碁監修:高橋三美(ヒカ碁倶楽部) - 劇団衛星『劇団衛星のコックピットE16-17』(2011年)
ロボット考証:谷口忠大(立命館大学情報理工学部 知能情報学科 准教授) - Nana Produce『モナリザの左目』(2012年)
法律監修:平岩利文(ネクスト法律事務所) - 劇団6番シード『傭兵ども!砂漠を走れ! ‐サバンナ&オアシス‐』(2012年)
軍事監修:細川雅人 - テトラクロマット『風は垂てに吹く』(2016年)
グライダー指導監修:エアクラフト・オリンポス - サラダボール『食と演劇 うどんとか』(2016年)
料理監修:三好うどん - 劇団ベイビーベイビーベイベー『LIMIT』(2018年)
犯罪心理学監修:杉山崇 - TEAM花時。『青春モール~惰縁の結び方~』(2019年)
ラグビー指導:藤原新太 - TEAM花時。『ぽぴぃ。あたし…母のラグビーボール。’20』(2020年)
ラグビー指導:藤原新太 - 劇団森『東京令和心中◉ビニ傘地獄篇』(2023年)
アングラ考証:久佐山れヱと、小島淳之介
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