演劇の創客について考える/(27)上演中に気兼ねなく入退場出来る席を設ける

カテゴリー: 演劇の創客について考える | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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●分割掲載です。初めての方は(予告)から順にご覧ください。

私は、ネット上で演劇を観ない人の意見に務めて目を通すようにしています。ネガティブな声の中に、つくり手の側が改善すべきことが含まれていることがあるからです。そこで散見される内容に「小劇場は一度入ると途中退場が難しい」があり、これは確かに同意せざるを得ないと感じています。

つくり手や演劇ファンは、「だまされたと思って一度観てほしい。つまらなければ途中で帰ればいい」とよく言いますが、一度入場すると帰りたくても帰れないのが小劇場の実態ではないでしょうか。通路や座席前後の間隔が狭く、上演中に退場するのが困難なことを、普段演劇を観ない人も知っているのです。体調や持病の関係で、どうしても途中退場が必要な人もいると思いますが、小劇場はこの点が大きなハードルになっていると感じます。

最近のシネコンは通路に加えて座席前後の間隔も広く、上映中もあまり気兼ねなく退場・再入場が可能です。さらにネット上で座席位置まで指定出来る映画館がほとんどで、通路沿いを選ぶことも簡単です。私も「夫婦50割引」のおかげで家人と映画館によく行きますが、お互い上演中にトイレに立つことがめずらしくありません。こうした環境が小劇場でも確保されていれば、もっと気軽に来場してもらえるのではないでしょうか。

ライブの演劇は映画とは違い、毎ステージが一期一会ですから、そもそも上演中にトイレに立つことがマナー違反という意見もあるでしょう。しかし、体調や持病のリスクは誰にでも起こり得るわけで、退場しやすい席を用意して、やむを得ず退場することは許容範囲ではないでしょうか。また、「つまらなければ途中で帰ればいい」とアピールしているのなら、それを可能にするのもつくり手の務めではないでしょうか。

前説で「上演中にご気分が悪くなった方はスタッフまでお知らせください」もよく耳にしますが、導線のない奥まった位置に座った場合、どうやって知らせるのだろうと思います。自分からスタッフのところまで行く必要があるわけで、座席前後の間隔が狭い小劇場では、通路近くに座るしかないんじゃないかと感じます。

こうしたことを勘案すると、小劇場の通路沿いの座席を最初から「途中入退場可能席」という別券種にして、通常席とは分けて販売し、なんらかの事情で途中入退場の可能性が高い人は、この席に座るようにしたらどうでしょうか。自由席の場合はもちろん、演劇では指定席であっても座席位置まで指定出来ることが少ないので、通路沿いだけを別券種にする意味があると思います。

「途中入退場可能席」の存在は観客全員に周知して意図を理解していただきます。可能なら、シートや座布団の色を変えるといいでしょう。もちろん、いくら混雑しても通路に臨時席は置かず、動線はきちんと確保します。再入場の際は暗転などを避けるため、スタッフの指示に従うことを条件とします。

そこまでやらなくても、と思う方もいるかも知れませんが、途中で出られるというのはとても重要だと思います。演劇ファンの方も、演劇以外で「一度入ったら出にくい」と思い、入ること自体を躊躇したものが世の中に無数にあるでしょう。「小劇場は一度入ると途中退場が難しい」と考える人には、小劇場が同じように映っているのです。

これまでの小劇場の客席は、観客同士の善意や共同体意識で運営されてきた部分が大きいと思います。それはそれで盛り上がり、演劇ファンならではの心のつながりもあったわけですが、創客を考える場合は新しい考え方が必要になってくると思います。「上演中に気兼ねなく入退場出来る」は、これまでの演劇で見過ごされてきた部分ではないでしょうか。新しい観客にマナーを求めるだけでなく、観劇しやすい環境をきちんと提供することも大切だと思います。

本連載の「(3)人間の意識や行動パターンは変えられるか――万年筆の殿戦に学ぶべきこと」では、万年筆と演劇の共通点を挙げました。そのうちの「気軽に店舗に入れない。気軽に試し書き出来ない」がまさに今回の内容で、ショーケースに入った万年筆の試し書きを店員に頼むと、買わないといけないように思えるのと同様に、一度入った小劇場は途中で出られないと思われているのを変えたいのです。

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