演劇の創客について考える/(17)閉ざされている劇場は、仮囲いで内部が全く見えない建築現場と同じだと思う

カテゴリー: 演劇の創客について考える | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

Pocket

●分割掲載です。初めての方は(予告)から順にご覧ください。

本連載の「(4)創客に必要なのは劇団や演劇人のガイドブックではなく劇場のガイドブック」では、映画作品ではなく映画館自体のガイドブックとして、『東京映画館 映画とコーヒーのある1日』(キネマ旬報社、2015年)を紹介しました。その美術館版と言えるのが『仕事帰りの寄り道美術館』(自由国民社、2014年)です。

仕事帰りの寄り道美術館
自由国民社
売り上げランキング: 176,051

帯の惹句は、そのまま劇場にも当てはまる内容だと思います。

ゆったりリラックス。
心豊かな夜の時間の過ごし方
提案します。

ひとりでもふたりでも、
仕事帰りにアートのある空間に
寄り道しませんか。
少しだけ “背伸び” もできる、
お気に入りの場所が
みつかるかもしれません。

『仕事帰りの寄り道美術館』(自由国民社、2014年)帯より

この本も常設展・企画展ではなく、美術館自体の魅力を伝える内容です。建築に加え、併設されたミュージアムショップ、レストランやカフェ、イベントや利用ガイドにページを割き、作品を〈鑑賞する〉という堅苦しい雰囲気は微塵もなく、仕事帰りに買い物や食事を楽しむ感覚で、美術館にふらりと立ち寄ることを提案しています。街のアートスペースも登場します。

美術館と言えば閉館時間が早いイメージがありますが、ここでは首都圏で少なくとも週1日は19時まで開館しているところを取り上げています。美術館側も週末の仕事帰りを狙って、金曜を20時まで開館する傾向があるようです。

美術館の魅力であるオリジナルグッズは、劇場でも同じことが出来るはずです。劇場ロゴを入れた各種グッズを、チケットカウンターや事務所で扱う程度なら、初期投資もわずかで済みます。劇場自身がもっと積極的に商品企画したらいいのではないでしょうか。人気劇場がポストカード、缶バッジ、クリアファイル、手ぬぐいなどつくれば、欲しい人は多いのではないでしょうか。「観劇三昧」にも置いたらいいと思います。

美術館は展示だからふらりと立ち寄れるが、公演がある劇場はそうはいかないと考える演劇関係者が、まだまだ多いと思います。確かにロビースペースが限られ、物理的に公演時しか開館出来ない劇場が多いのが現実です。けれど、扉を閉ざしていても道行く人々に舞台芸術の魅力を伝える方法は、工夫すればあるのではないでしょうか。

公演時以外は扉を閉ざしている劇場は、例えるなら仮囲いで隠された建築現場だと思います。以前は内部が全く見えない殺風景な仮囲いが多く、工事期間中はその一角だけ街が失われた印象でした。現在は仮囲いにアートや緑化を施したり、透明パネルを使って内部を見せるようになってきました。見通しの確保や防犯が本来の目的ですが、現場を地域に公開することは、確実にイメージアップにつながっていると思います。

同じように、劇場だって内部をもっと見せてもいいのではありませんか。例えば、こんなアイデアがあります。

  • 作品のポスターだけでなく、宣伝写真・舞台写真の特大パネルを掲示する。

  • 三方客席や四方客席など、特殊な舞台を組んだときの特大パネルを掲示する。一般の人々が持つ劇場=プロセニアムの常識を覆す。

  • ショーウインドウを設け、舞台美術の模型やデザイン画を展示する。屋台崩しなどがない限り、舞台美術の公開はネタバレにならないはず。

  • ショーウインドウを設け、灯体の実物を使い方の解説と舞台写真を添えて展示する。演劇関係者には常識でも、一般の人々にとっては面白い。

  • 劇場内のモニター画像を見られるディスプレイを置き、ゲネプロ・本番以外は全部見られるようにする。

最後は夢を壊すとの反対意見があると思いますが、仕込み風景は活気があって部外者にも魅力的です。私も劇場の横を通って搬入に出合ったときは、そのまま劇場内を見学したい衝動にかられます。自分の知らない世界を覗いてみたい人は多いと思います。あなたも機会があれば築地市場を見学してみたいでしょう。それと同じです。

劇場には「場の力がある」とよく言われます。演劇関係者や観客にとっては疑うことのない言葉だと思いますが、劇場に足を踏み入れたことがない人の立場で考えると、いつも扉が閉ざされている劇場にどんな力があるのかと思うでしょう。そもそも扉が閉ざされていると、何気なく覗くことさえ出来ないわけで、自分とはなんの接点もないわけです。

本連載の「(3)人間の意識や行動パターンは変えられるか――万年筆の殿戦に学ぶべきこと」で万年筆と演劇の共通点として挙げた、

  1. 気軽に店舗に入れない。気軽に試し書き出来ない。

ですが、閉ざされた劇場は文房具店のショーケースに陳列された高級万年筆と同じで、試し書きすると買わなければいけない=劇場内に入るにはチケットを買わないといけません。これを打破するため、万年筆業界では普通のペン売り場で試し書き自由な入門用万年筆を展開しました。道行く人々に内部を見せる工夫は、気軽に立ち寄るための第一歩です。

私の自宅近くには、夜間休日も診察している動物病院があり、待合室や診察室が道に面してガラス張りになっているため、内部の様子がよく見えます。ペットを飼っていない私は前を通るだけですが、たとえ自分に関係がなくても、こうした施設があることは街にとって素敵なことだと感じます。もしこれが内部の見えない病院なら、ここまでの印象は持たないでしょう。

前の記事 演劇の創客について考える/(16)2015年の演劇公演回数は横ばいながら市場規模は大きな伸び