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本連載の「(11)Twitterは宣伝ツールではなくライフログだ、アーティストは『情熱大陸』に密着取材されている心境でつぶやこう」では、谷賢一氏(DULL-COLORED POP主宰)のツイートがいかに魅力的かを書きました。谷氏のタイムラインを見ていると、まさに画面から葉加瀬太郎の曲が流れてくるようでした。
作・演出を務めているワタナベエンターテインメント+ゴーチ・ブラザーズ『光より前に~夜明けの走者たち~』公演を前に、これぞ「情熱大陸」と思えるタイムラインになってきましたので、再度紹介したいと思います。
断わっておきますが、私は別に谷氏の熱狂的ファンではないし、谷氏の発言すべてに賛同しているわけでもありません。考えが異なる部分も当然ありますし、評価はあくまで作品単位です。逆に谷氏もfringeを同様に評しています。それでも演劇とはなにかを真摯に考え、それを行動に移し、相手が誰であっても胸襟を開こうとする姿勢は、一人の人間として魅了されます。歳上の人々から信頼を得ているのも、そのためでしょう。このツイートの紹介も、アーティストのTwitterの活用方法として優れていると思えるからです。
谷氏が特別だとも思っていません。このツイートを見た他のアーティストが、「これは谷賢一だから出来るのであり、自分には無理」と思った時点で、勝負はついているのではないでしょうか。東京在住でなくても、大手プロダクションの仕事でなくても、アーティストとして「こういうツイートをする人の作品なら観てみたい」と思わせる発言は出来ると思います。そんなタイムラインがあれば教えてください。今度はそれを紹介したいと思います。
人生は短い。チャラチャラと、その場しのぎで、チヤホヤされることをやってる奴は、死ぬ前に後悔するぞ。死ぬぞ。すぐ。自分が本当に何を欲しているのか、少なくともそれがわからないまま表現の舞台にいる連中が多すぎる。承認欲求の満たし合いのために活用される舞台・ステージのなんと多いことか。
— 谷賢一 (@playnote) 2018年9月14日
執筆時期のツイート。同じことを感じている演劇人は多いはずですが、こうして感情を吐露することは少ないでしょう。
『光より前に』顔合わせ、読み合わせ終了。3年越しの企画。ようやく音になる言葉たち。何とも言葉にし難い感慨。いい声が沢山聞けた。噴出する熱量、ぶつかり合う熱源、そういう芝居になるだろう。どこまで走れるか、体力勝負になりそうな1ヶ月。稽古前に取材、稽古後に打ち合わせありへとへと。
— 谷賢一 (@playnote) 2018年10月10日
稽古初日のツイート。短いセンテンスを重ねたテンポのよい文章です。こんな文章は自分には書けないって? じっくり推敲すればいいじゃないですか。SNSであっても、世の中に発表する文章に変わりはありません。表現に携わる者なら推敲を重ね、永遠にネットの海に残ることを覚悟して投稿すべきだと思います。最近の炎上や論争を見ると、文章を仕事にしているのに脊髄反射で投稿してしまう人が多すぎるのではないかと感じます。
この現場で「良い現場だなあ」と思う瞬間がある。自分の出ていないシーンを共演者の俳優がじっと観ていて、「こうしたらもっと良くなるんじゃないか」「こういうやり方もある」等と意見をくれたりする。劇団なら当たり前だが、プロデュース公演でやるのはとても難しいんだよ、これ。『光より前に』。
— 谷賢一 (@playnote) 2018年11月2日
共演者や演出家に意見するのは、プロデュース公演では大変リスキー。今のように劇団が続々潰れ、プロデュース公演ばかりになっていけば、芸の継承は途絶えるんだ。みんな一期一会、一回こっきりだから、当たり障りなく現場をやり過ごすことが大事になってしまうからね。
— 谷賢一 (@playnote) 2018年11月2日
稽古中はプロデュース公演の本質に関するツイートが飛び出します。
「速く行きたいのなら一人で。遠くまで行きたいのならみんなで」という格言があるが、演劇にとても良く当てはまる。演出家やプロデューサーが決めるべきことは速度優先、独断専行でバシバシ決める。しかし基本的に演劇作りはマラソンなので、全員でシェアしないと遠くまでは走れない。
— 谷賢一 (@playnote) 2018年11月4日
マラソンが題材なので、それに関係するツイートが多くなるのは当然ですが、単なる内容紹介ではなく自分たちの状況をマラソンに例えています。こうした表現が出来る演出家を私はあまり知りません。
母と久々に電話する。母にはいつまでも元気でいて欲しい。僕は悪さもたくさんしたし、酒も煙草も呑み過ぎたから早く死んでも仕方がないが、お袋のようにまじめに優しく正直に生きてきた人は、たっぷり長生きしてくれなくちゃいけない。散々老後を楽しんで、いつまでも元気にいてくれなきゃいけない。
— 谷賢一 (@playnote) 2018年11月4日
ライフログなので、私生活も織り込みます。このあと両親への感謝を味わいある言葉で語り、母親をモチーフにした代表作『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』の再演について、嫌味なく話題をつなげます。これは職人芸だと思いました。
私は私で勝手に真実を深堀りします。5年後の人気や名声に興味はない。ただ真実を目指すだけです。そこにだけ貢献したい。もう世の中の物見遊山は終えて良い。俺は自由だ。中3の夏からずっと、俺は自由でい続けて来た。これからもそうさせてもらう。
— 谷賢一 (@playnote) 2018年11月8日
画面から葉加瀬太郎の曲が流れ始めました。
ジャズとは何か。問う奴にジャズはわからねえとサッチモは言った。じゃあロックとは何か。同じく問う奴にはわからねえだろう。そういうことも今回の『光より前に』には間接的に盛り込んである。あと人が痛ましく死ぬどうしようもなく暗い暗黒の話です。その中に光を見つけられるかは、観客次第だ。
— 谷賢一 (@playnote) 2018年11月8日
公演が近づき、集客のために確信犯でつぶやている部分もあると思いますが、宣材や記事の文章とは違う次元で書かれた、アーティスト自身の魂の叫びがここにあります。こうした演出家の言葉があればこそ、観客は動くのだと思います。
真っ暗闇に見つかる光が、一番明るいのではないかね。
— 谷賢一 (@playnote) 2018年11月8日
そうきたか。
“なんで『光より前に』なのか – PLAYNOTE” https://t.co/Vi2mwvQMkO
— 谷賢一 (@playnote) 2018年11月10日
今回は集客に苦戦しているのでしょう。ブログに谷氏個人レベルの企画意図が赤裸々に公開されました。「そこまで書くか」という内容まで綴られています。「情熱大陸」でも、ここまでアーティストの本音を引き出せたら大成功でしょう。それをセルフプロデュースしているわけです。もちろん、露骨なチケット購入のお願いはありません。
私自身、観劇予定に入れていなかった作品ですが、まだまだ残席があるようなので、今回は谷氏のTwitterだけで観ることにしました。「観てもいいな」と思ったのは、もちろん上記の葉加瀬太郎の曲が流れたツイートを目にしたからです。こういうことは、年に1回あるかないかです。
繰り返しになりますが、谷氏のツイートが特別だとは思っていません。地域で少ない観客を相手に上演している人でも、Twitterを宣伝ツールではなく、アーティストとしての矜持とセンスを伝えるライフログに出来るはずです。そんな魅力あるツイートが増えることで、演劇を見る周囲の目も変わってくるでしょう。
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