●分割掲載です。初めての方は(予告)から順にご覧ください。
日本のミュージアムの入場者数で、ベスト5に東京以外で唯一毎年ランキングされている金沢21世紀美術館*1 。展示だけでなく、その建築自体に惹かれて足を運ぶ人も多い魅力的な施設です。私も、この美術館を訪れるためだけに金沢へ足を運んでいます。
金沢21世紀美術館にはシアター21という小劇場(キャパ156名)があり、演劇公演にも使われていますが、2019年から始まった「劇的!バスツアー」では、高校生(15~18歳のユースを含む。以下同じ)をシアター21や金沢市内の公演で無料または格安にするのに加え、県外のこれはと思う公演に日帰りバスツアーを企画しています。昨年度までは観劇代・高速バス代無料で、食事代だけ自己負担でした。今年度はバス代を若干含みますが、それでも格安です(昼食代・貸切バス代で1,500円)。
初年度の概要を引用します。
カンゲキする人生は、もっとおもしろい。
劇場という空間にあるのは、もうひとつの世界。そこでは、あらゆるアーティストのあらゆる表現が、生まれ、弾け、人々の心を動かしています。そんなパフォーミングアーツの世界にまだ触れたことのない高校生の皆さんのために、金沢21世紀美術館が特別なツアーチケットを用意しました。舞台作品の鑑賞はもちろん、バックステージの見学やアーティスト・専門家による移動中のトークなど、劇場の魅力を存分に体験できる日帰りツアーです。
費用は無料(食事代はご負担いただきます)、行き先はパフォーミングアーツという楽しみのある人生。あなたがまだ知らない「劇的」な体験を、この機会にぜひどうぞ。
これのなにがすごいかと言うと、公演の主催者が新しい人に観てもらうため、招待したり高速バスを出すのは前例があります。東京在住の方なら、SPACが公演シーズンに合わせて実施する「観劇バス」を思い浮かべるでしょう(以前は無料でしたが、最近は往復2,000円になりました)。首都圏から福島県いわき市のスパリゾートハワイアンズに無料送迎バス(宿泊者限定)が出ているのも有名です。しかし金沢21世紀美術館の場合は、主催でもなんでもない他県の劇場に出向いて、クオリティの高い公演を体験させるのです。金沢21世紀美術館自体に直接的なメリットはなく、そこにあるのは高校生に「劇的な」体験をさせることだけ。
これまでバスツアーを実施した公演と今年度の予定は次のとおりです。
- 2019年度 ⇒詳細
9/22(日) 鈴木忠志『世界の果てからこんにちは』富山県利賀芸術公園
11/16(土) コンドルズ『Don’t Stop Me Now』兵庫県立芸術文化センター
12/15(日) Noism1『Farben』『シネマトダンス―3つの小品』りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館 - 2020年度 ⇒詳細
12/ 6(日) タニノクロウ×オール富山『笑顔の砦 ’20帰郷』オーバード・ホール - 2021年度 ⇒詳細
※市内の公演のみで、バスツアーはなし。 - 2022年度 ⇒詳細
9/17(土) ノイマルクト劇場+市原佐都子/Q『Madama Butterfly』ロームシアター京都ノースホール
12/24(土) 市民劇『雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた』福井市にぎわい交流施設ハピリンホール
初年度がとにかく素晴らしい。その後はコロナ禍で思いどおりに進んでいないと思いますが、制約がある中で工夫したラインナップだと思います。早朝出発で神戸や京都の劇場にも日帰りし、担当者の熱意を感じます。ツアーには添乗員以外に舞台芸術に詳しいナビゲーターが同行し、移動中のトークや現地でのバックステージツアーがあります。
美術館自身の施設を使った舞台芸術の上演やワークショップ、企画展や収蔵品に着想を得た演劇とのコラボレーション企画は、全国で多数の前例を知っています。けれど、他劇場の公演に触れてほしいという目的で、全く関係ない他県の美術館がバスツアーを組んで高校生に体験させるというのは、私はちょっと記憶にありません。舞台芸術が専門ではない美術館が、こんな形で舞台芸術に触れるきっかけを提供していることに感動すると共に、目に見える成果がすぐに出るわけではない事業を認めている金沢21世紀美術館に敬意を表します。全国ベスト5の入場者を誇る人気館だからこそ出来る事業なのかも知れませんが、この柔軟な発想があるからこそ、いまの人気が継続しているのだと思います。
20年のページには、この年のツアー同行記がマンガで掲載されています。タニノクロウ×オール富山『笑顔の砦 ’20帰郷』、そしてシアター21で上映されたナショナル・シアター・ライブ『リーマン・トリロジー』もありますので、ぜひご覧ください。
金沢21世紀美術館/WHAT’S ON「高校生限定 劇的!バスツアー」「『劇的!マンガ同行記』を公開しました!」
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