演劇の創客について考える/(23)公共ホールのロビー・ホワイエ利用実態調査を読んで

カテゴリー: 演劇の創客について考える | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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●分割掲載です。初めての方は(予告)から順にご覧ください。

本連載の「(17)閉ざされている劇場は、仮囲いで内部が全く見えない建築現場と同じだと思う」では、公演時以外は閉ざされていることが多い劇場ロビーを、少しでも開放出来ないか考えました。物理的な問題から、ロビースペースの常時開放は難しく、その代わりに劇場内部を通行人に見せる方法を提言しましたが、全国公文協(公益社団法人全国公立文化施設協会)が、2017年8月に実施した「ロビー・ホワイエ等の各種利用に関する調査」の結果を今年3月発表しました。

全国劇場・音楽堂等総合情報サイト/調査研究「平成29年度『ロビー・ホワイエ等の各種利用に関する調査』報告」

この調査は、全国公文協のアドバイザーである日本大学理工学部建築学科の本杉省三氏からの申し出で実施されたもので、全国公文協加盟の公立ホール1,287館の636館から回答を得ています。だとすると回答率は49.4%のはずですが、詳細版3ページ(概要版2ページ)では48.4%になっています。タイプミスのままで不安になりますが、全体の傾向は読み解けると思います。以下、詳細版に目を通した感想です。

民間小劇場の場合、そもそもロビー(無料で常時開放している共用エリア)自体がなく、道路や通路に面した扉を開けたらすぐホワイエ(公演時は観客だけが入れるエリア)のところが多いのではないかと思います。公共ホールの利用実態はあまり参考にならないかも知れませんが、使途については参考になるかも知れません。選択肢になかった回答として、落語、会議、ダンス練習などが注目されます。

選択肢にある講演は意外に少なく、もっとカジュアルなトークセッションの開催余地があるのではないかと思いました。客席があるのに、わざわざロビー・ホワイエでトークセッションする機会はないのかも知れませんが、開場前、マチネ・ソワレの間、休演日などに関連するトークセッションはいくらでも企画出来ると思います。

いま、狭い書店でもトークセッションは日常的に開催されています。だったら、スペースがある公共ホールは楽勝のはず。私は、人選を工夫すればトークセッションはいくらでも企画出来ると思いますし、それが出来ないと思っているのなら、担当職員の努力不足だと考えます。本気で取り組めば、トークセッションは毎日開催出来ると思いますし、無償で語り手になる人も必ずいるはずです。

トークセッションはきっかけです。劇場が閉ざされた空間でなくなれば、別になんでもいいのです。空調とソファがあり、普段は自習や飲食に使われていてもいい。そのとき、劇場でこれから上演される作品に関する展示や、仕込み・稽古風景がモニターで見られればよいと思うのです。

今回の調査で残念なのは、無料で常時開放されているエリアに、置きチラシや公演ポスターのスペースがあるかどうかが設問にないことです。それらがロビー・ホワイエのどちらにあるのか、そこは常時開放されているのかこそ、クロス集計で分析してほしかったと思います。映画館なら無料エリアに置きチラシやポスターがあるのが当たり前ですが、劇場の場合、公演時に観客だけが入れるエリアにしか置かれていないことがめずらしくありません。

そもそも、劇場にホワイエは必要なのでしょうか。途中休憩がある公演だと、再入場のチェックを省くために必要かも知れませんが、途中休憩がなければ、入場時のドアもぎりだけで対応可能です。物販もカフェもロビーでやって、観客以外も利用すればいいと思います。映画館や美術館がこの考え方です。

ホワイエは、公演の鑑賞が特別だった時代に、日常との結界として設けられたものかも知れません。現在は毎日なんらかの公演が行なわれ、ロビーの向こうに劇場の扉がある――それでいいんじゃないかと思います。この調査にある、公演来場者と一般利用者を対比させること自体が、私は違和感を覚えました。

今月リニューアルしましたが、場末感がたまらない西友大森店のレストラン街を抜けた先に出現する映画館「キネカ大森」が、私は大好きです。ホワイエなどなく、ドアもぎりで3スクリーンを有する日本最初のシネコンですが、チケット売場と売店と展示スペースが渾然一体となり、映画を観なくてもソファに座り、「名物もぎり嬢」として知られる片桐はいり氏の寄贈したパンフレットを読める場所でした。ここに通うたび、劇場はもっと出来ることがあるだろうと感じます。

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