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劇場に足を運びやすくする方法の一つに、開演時間の多様化があると思います。様々なワークスタイル、家庭の事情などに合わせ、平日にレイトショーやマチネを設けるのです。最近は平日マチネが定着したと感じますが、逆に平日ソワレを極端に間引いたタイムテーブルが新劇系を中心に散見され、残念に感じています。現在の客層に合わせてマチネしか設けないのでは、ジリ貧になるだけではないでしょうか。創客とは真逆で、新劇系の制作者には再考していただきたいと思います。
新宿シアター・ミラクル(東京・歌舞伎町)では、今年から劇場の退出時間を正式に遅らせ、22時30分にしました。これに伴い平日20時開演を推奨し、それに合わせたパック料金も設けました。新宿という立地で、終電は余裕があると思います。私自身、平日20時の回があると観劇のハードルが大きく下がります。「だったら行ってみようか」という気になります。もちろん、19時開演で終演後に食事を楽しみたい場合もあり、すべて20時にすべきとは思いませんが、選択肢のある多様なタイムテーブルがあればいいと思います。
【シアター・ミラクルの退館時間変更のお知らせ】実験的に2017年中より22:30までのご利用とさせていただいてましたが、この度より正式に22:30までご利用いただけるようになりました。シアター・ミラクルは平日20時開演を推奨します。https://t.co/dAp8DYx0g4
— 池田智哉(feblabo) (@feblabo) 2018年8月28日
平日20時開演で忘れてはならないのは、1997年から続いている「もりげき八時の芝居小屋」です。盛岡劇場タウンホール(盛岡市)で、現在は年間6公演ほどが行なわれています。この開演時間は仕事帰りの観劇を可能にすると同時に、仕事を持つ地元演劇人の平日公演も可能にしています。仕事が終わってから小屋入り出来るわけです。2009年に100回公演を迎えたときの岩手日報特集記事で、その理念が紹介されています。
「市民が仕事を終わってからでもゆっくり鑑賞でき、演じる側も仕事後に公演できるような舞台をつくれないだろうか」。演劇関係者が話し合い、立ち上げたのが「八時の芝居小屋」だ。「1時間程度の良質な小品提供」が理念だ。
モデルとなったのは、東京の劇場「渋谷ジアンジアン」の「金曜10時劇場」。夜10時から1時間程度の芝居を上演していた。盛岡の場合、交通機関の事情などを考えれば午後10時は難しいが、8時開演ならどうだろう―。
初代制作委員長を務めた坂田裕一さん(56)=県演劇協会長=は「芝居は土、日曜に集中する。平日に上演することも大きな柱とした。観光客や出張で訪れた人にも表現活動を鑑賞してもらえる。また、夫婦で足を運んでもらいたいと考えた」と振り返る。
夜8時という遅い開演時刻は劇場職員の管理上の負担を増すことになるが、当時の館長が協力姿勢を強く打ち出して始動した。
岩手日報2009年6月12日付朝刊
これを演劇が盛んな街のレアケースとは思わず、全国で普通に平日20時公演があってほしいと考えます。ここでネックになるのが、引用の最後に出てくる「劇場職員の管理上の負担」です。退出時間が伸びれば夜間勤務が増えるわけで、このケアが必要になります。具体的には、勤務手当や深夜帰宅のタクシー代が発生すると思いますが、民間劇場ではこうした対応が経営を圧迫する恐れがあります。
公益財団法人セゾン文化財団の現代演劇・舞踊対象公募プログラムでは、16年度から創設した「創造環境イノベーション」の「課題解決支援」で、「舞台芸術の観客拡大策」を4年連続募集しています。毎年続けることで、このテーマがいかに難問で、短期では解決出来ない課題であるかを物語っています。
この助成金を活用し、観客拡大策として平日レイトショーはどれだけ効果があるのか、年間を通じて実証実験したらどうでしょう。平日20時開演、東京・大阪などの大都市はもっと遅くてもいいかも知れません。週1回レイトショーを設け、劇場職員の手当や交通費に充てるのです。1回2万円必要だとして、100万円助成されたら50回分の原資となり、年間を通じてレイトショーが継続出来ます。
こうして季節や曜日による変動も踏まえたレイトショーの効果測定を行ない、演劇界で共有してタイムテーブルづくりに役立てるのです。この劇場を使う団体には、週1回のレイトショーが義務づけられるわけですが、それも話題づくりになると思います。
私は映画館にもよく足を運びますが、その習慣を支えるのがシネコンのレイトショーです。平日21時台に上映開始し、23時台に終わるタイムテーブル。もちろん近場の観客しか行けませんが、この存在があるからこそ、好きな映画が観られるのだと思っています。劇場だって、週に1回ぐらいレイトショーがあっていいと思いませんか。
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