この記事は2015年6月に掲載されたものです。
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私が目にした舞台芸術のチラシ3万枚から選んだ「記憶に残る10枚」

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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私が目にした舞台芸術関連のチラシは、観劇歴を考えるとおよそ3万枚になると思う。気になったものは保存しているが、その中から特に「記憶に残る10枚」を選んだ。基準はチラシ自体の魅力で、作品内容とは直接関係ない。掲載は上演順。「CoRich舞台芸術!」にチラシ画像がある場合は、そちらへのリンクも掲載した。

いまは印刷代も安価になり、様々な判型や特殊加工も自由に出来るようになったが、それが逆に表現を散漫にしていないだろうか。厳しい制約の下、ギリギリの表現を訴求した1990年代のチラシが多くなったのはそのためだ。選んでから気づいたのは、人物のアップが多いこと。私自身の好みもあると思うが、最後は人間の表情に魅せられる。

68/71黒色テント『三文オペラ』

68/71黒色テント『三文オペラ』(1990年)[B5判]
劇団黒テントに改名する直前、「ブレヒト・ルネッサンス」第1弾として全国30都市縦断公演を敢行した作品。タイポグラフィを全面に押し出した2色印刷は現在もよく見かけるが、その頂点にあるチラシではないだろうか。この隙のなさを、タブロイド判のチラシなどは見習ってほしい。宣伝美術は日下潤一氏。クレジットはないが、題字は平野甲賀氏だろう。

ミヤギサトシショー『純愛伝』

ミヤギサトシショー『純愛伝』(1990年)[B5判変形]
宮城聰氏を世に知らしめた山口哲一氏のプロデュース。関西初公演時のもの。この表情だけで「絶対観なければならない」と思わせたチラシ。一人芝居の概念を完全に打ち破り、新しい表現への期待感を一気に高めた。片面2色(裏は白紙)だが、必要な情報は網羅されている。

時空劇場『雪がふる』

時空劇場『雪がふる』(1991年)[B5判]
高価なトレーシングペーパーを使用。スミ色の写真は裏面に印刷し、透かして見せる技法。旗揚げ間もないカンパニーが、こんな凝ったチラシをつくれるのかと驚愕した。宣伝美術「ねこまたや」は、立命館大学を中心に京都の小劇場演劇を手掛けた。シルクスクリーンで小部数ポスターも刷ってくれた。モデルは内田淳子氏。

劇団夢の遊眠社『贋作・桜の森の満開の下』

劇団夢の遊眠社『贋作・桜の森の満開の下』(1992年)[B5判]
92年の再演チラシ。私は関西在住で、89年の京都・南座での歴史的初演はチケットが入手出来なかった。「きいちのぬりえ」を使った印象的なデザインで、和紙のような風合いのファインペーパーが使用されている。遊眠社のチラシでいちばん華があると思う。宣伝美術は後藤徹氏

舞台芸術チラシのA4判化が急激に進んだのは93年から。B5判と混在する中、これが折り込まれた。

ロマンチカ『メデイア』

ロマンチカ『メデイア』(1994年)[A4判]
俳優の写真を加工する発想がなかった90年代前半、こんなものがチラシ束に入っていたらどう思うだろう。束をめくる観客の手がここで止まった。こんな宣伝写真はそれまでなかった。まさにチラシをアートに昇華させた作品。宣伝美術は小田善久氏、宣伝写真は萩原美寛氏、フォトエフェクトとして八谷和彦氏がクレジットされている。

惑星ピスタチオ『熱闘!!飛龍小学校☆パワード』(1997年)[A2判縦1/2=配布時は二つ折り]
惑星ピスタチオ『熱闘!!飛龍小学校☆パワード』(表面)惑星ピスタチオ『熱闘!!飛龍小学校☆パワード』(裏面)1 | 2

1 表面
2 裏面

中劇場ロングランに挑んだ記念碑的作品。複数のチラシが作成されたが、前売開始後に投入されたこれが決定版。二つ折りなので結果的にA4判4ページと同じだが、当時は超弩級だった。改訂再演を重ねた、裏面の詳しすぎるキャラクター図鑑が完成度の証明。宣伝美術は黒田武志氏。宣伝写真は磯井美和氏。本日(2015年6月20日)は平和堂ミラノ(田嶋ミラノ)さんの十三回忌である。

ポカリン記憶舎『畳屋の女たち』

ポカリン記憶舎『畳屋の女たち』(2002年)[A4判]
伝説の旗揚げ作品を、こまばアゴラ劇場「夏のサミット」で再演したチラシ。残した余白が絶対の自信を伝え、裏面をめくって詳細を知りたくなる。社会人に「これなら久しぶりに小劇場に行ってみようか」と思わせる、再演の力を見せつけるチラシだ。宣伝美術は森田麻由良氏、宣伝写真は松本典子氏

庭劇団ペニノ『黒いOL』

庭劇団ペニノ『黒いOL』(2004年)[A4判]
西新宿の広大な特設会場での野外公演。表面にはタイトルの一部「OL」しか書かれていない。インパクトがありすぎ、一度見たら絶対に忘れられない。これ一枚でペニノの名前は東京に知れ渡った。確信犯のデザインだが、ここまで振り切ったチラシはなかなか見ない。宣伝美術は渡辺太郎氏。

表現・さわやか『そこそこ黒の男』(2006年)[A4判変形]
表現・さわやか『そこそこ黒の男』(右端を折った状態)表現・さわやか『そこそこ黒の男』(右端を折っていない状態)1 | 2

1 右端を折った状態
2 右端を折っていない状態

「クラブ愛本店」での撮影もすごいが、特筆すべきは「金太郎マーク」の処理。財団法人地域創造助成でジャンボ宝くじが財源になっている場合に義務づけられたものを、長辺を伸ばした部分に印刷し、それを裏に折り込んで配布した。デザインを台無しにする「金太郎マーク」への徹底抗戦を貫いた。宣伝美術はATG unlimited

(参考)
金太郎マーク対策

黒沢美香&ダンサーズ『なんという寛容な肉』

黒沢美香&ダンサーズ『なんという寛容な肉』(2007年)[A4判]
コンテンポラリーダンスから1枚。10日間に渡って開催したプライベートフェスティバルのチラシ。デザインは2パターンあるが、こちらが圧倒的によい。写真とタイトルのバランスが絶妙。裏面は文字ぎっしりだが、重要部分に黄色のマーカーが入り見やすい。宣伝美術は立花和政氏、宣伝写真は久保田由利子氏。

(番外)

安田里美『人間ポンプ』

安田里美『人間ポンプ』(1990年)[B5判]
大道芸の劇場公演だが、強烈な印象が忘れられない。京都のアートスペース無門館(現・アトリエ劇研)が招聘し、あまりのインパクトに観客が殺到。私は小劇場で初めて当日券が買えなかった。1年後にアンコール上演を実施。スーパーのような1色チラシでも、人は動くことを実感した。

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