演劇の創客について考える/(29)ART COMPLEX 1928のコンテンツファンドの経験に学ぶ

カテゴリー: 演劇の創客について考える | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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●分割掲載です。初めての方は(予告)から順にご覧ください。

演劇公演が外部から資金調達する場合、助成金や購入型クラウドファンディングが主流になっていますが、出資という手段があることをご存知でしょうか。例えば、ブロードウェイの無期限ロングランは投資家による「エンジェルシステム」と呼ばれる資金調達で支えられてきた歴史があり、日本でも商業演劇は製作委員会方式が導入されるようになりました。

規模が限られる小劇場演劇で、寄付ではなく出資による資金調達は可能なのでしょうか。私が知る限り、ART COMPLEX 1928(京都・三条御幸町)を運営するリッジクリエイティブ株式会社が、過去に2回個人向けの小口ファンドで資金調達した実例があります。同劇場で2003年に上演されたKyupi Kyupi『CABAROTICA』は12%、04年に上演された電視游戲科学舘『惑星組曲』は8%という高配当を上げています。

ただし、日本では50人以上に勧誘する場合は出資法の対象となり、こうした契約は「匿名組合契約」として金融商品取引法の規制を受けます。具体的には第二種金融商品取引業の登録が必要で、リッジクリエイティブはこのために特別目的会社を設立しましたが、「煩雑さと作業に要するコストが、ファンドを用いた公演を続けていくための大きな障害になった」*1 と述懐されており、これがスキームが続かなかった要因でした。

現在は購入型クラウドファンディングが普及し、資金調達だけなら小劇場演劇でも可能になりました。一方で、ART COMPLEX 1928が残してくれたコンテンツファンドの経験からは、購入型クラウドファンディングにはない創客の条件が2点伝わってくると思います。

  1. 出資者自身が周囲に本気で宣伝する

    購入型クラウドファンディングの場合、支援額以上の見返りはなく、「特典付き前売券の購入」と同義になっているものがほとんどです。出資の場合は、動員が採算分岐点を上回れば配当として利益になるので、出資者も周囲に懸命に宣伝します。単なる資金調達ではなく、出資者も一緒に作品を広めていく点が強みでした。

  2. トライアウトで出資者の意見を訊く

    『CABAROTICA』『惑星組曲』には間に合いませんでしたが、次の出資対象に予定されていた06年の電視游戲科学舘『ISANA-勇魚-』(大阪・black chamber)では、出資者へのプレゼンテーションを兼ねた本格的なトライアウト公演が行なわれました。小劇場演劇で規模を大きくするにはロングランしかないと考え、それが可能な作品かどうかを見極めるためにトライアウトが必要だったのです。この挑戦が、現在の『ギア-GEAR-』無期限ロングランへとつながっていったのです。

出資法、金融商品取引法により、小劇場系カンパニーが配当の付いたファンドを設けることは非常に困難ですが、その思想を受け継いだ工夫をすることなら可能です。例えば、票券管理システムで取扱者別URLを発行しているのなら、希望する観客にもURLを発行し、チケット販売額に応じたバックマージンを払えばいいのです。出資者が周囲に宣伝したように、演劇の場合も観客自身が周囲に宣伝したくなる動機づけが重要だと思います。これはウェブ広告のアフィリエイトと同じで、本連載でも提言しています。

演劇の創客について考える/(18)票券管理システムで取扱者別URLを発行出来るのなら、観客にも開放してアフィリエイトすればいい

トライアウトで作品のクオリティを高める工夫も同じです。出資者によるトライアウトへの感想では、忌憚のない意見が出たはずです。ワークインプログレスやトライアウト自体は増えていますが、観客の意識が「稽古や試演を観せてもらう」にとどまっており、観客自身も加わって「よい作品にしたい」というところまでは至っていないと思います。作品を世の中に送り出すことを観客の「自分事」にしてもらえるかどうかが、創客につなげていくポイントではないでしょうか。観客自身も創作過程に加われば、「自分事」として周囲に広めてくれるはずです。

ART COMPLEX 1928によるコンテンツファンドについては、ART COMPLEXグループサイトに過去のメディア記事がまとめられているので、ぜひご覧ください。

ART COMPLEXグループサイト/メディア情報「投資関連(エンジェルシステム)」

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  1. 小原啓渡「寄付的投資のすすめ」『メセナnote』61号(企業メセナ協議会、2009年) []