文化庁「ARTS for the future!」などの申請を通じて、チラシには主催のクレジットを入れることや、公演期間は月日だけでなく年を入れることが浸透してきた。つくり手から見たら上演団体=主催者が当たり前でも、第三者から見たら主催なのか、買取公演なのか、制作だけ請け負っているのか、クレジットがないと判別がつかないのだ。開催年も同様で、過去の実績を示す場合にいつ開催されたのかがわからない。
こうした主催者への支援以外に、コロナ禍では劇場への直接支援も行なわれている。今後の文化政策や助成制度の見直しによって、劇場への支援は強化されていくのではないかと思う(そうあってほしい)。その場合の劇場の定義として、行政は劇場法(劇場、音楽堂等の活性化に関する法律)第2条第1項を根拠にすることが多く、
第二条 この法律において「劇場、音楽堂等」とは、文化芸術に関する活動を行うための施設及びその施設の運営に係る人的体制により構成されるもののうち、その有する創意と知見をもって実演芸術の公演を企画し、又は行うこと等により、これを一般公衆に鑑賞させることを目的とするもの(他の施設と一体的に設置されている場合を含み、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)第二条第一項に規定する風俗営業又は同条第五項に規定する性風俗関連特殊営業を行うものを除く。)をいう。
とあることから、一般的に「貸館のみ」を行なう施設は対象外とされる。この点を緩くすると、あらゆる貸し施設が対象になってしまう恐れがあり、そうした線引きは必要だとは思うが、この条文だけで外形的に判断されると、「貸館のみ」で運営されている民間劇場は「劇場法が定める劇場」ではなくなってしまう。そうなると劇場への直接支援、例えば施設の維持や環境整備に対する支援制度があっても対象外にされてしまう。
民間劇場の場合、「貸館のみ」と言っても公共ホールのような先着順や抽選ではなく、利用希望を受けてから審査や日程調整をしているところが多い。劇場側が推したい団体には逆に利用を声掛けしたり、提携公演として劇場費を減額したり、制作協力することもある。演劇とその他で料金体系を分け、演劇で使うこと自体が提携公演と見なせる劇場もある。貸館であっても、公演ラインナップは劇場の意思の賜物であり、これは「劇場法が定める劇場」にふさわしい存在だと私は思う。
文化庁もこの点は理解しているようで、コロナ禍で文化施設向けに創設された2021年度「文化施設の感染拡大予防・活動支援環境整備事業」、2022年度「文化施設の活動継続・発展等支援事業」では、応募要項の補助事業者を「いわゆる『貸館のみ』の施設は対象になりません」としている一方で、応募書類は次のものがあればよいとしている。
(必須)(劇場・音楽堂、文化ホール・文化会館、能楽堂、ライブハウス)施設等で開催された実演芸術の公演、ワークショップ、フェスティバル等に対して、事業者が関与したことが分かるクレジット等の表記(主催、共催、提携、企画、制作(製作)、協力等)のある告知チラシやパンフレット等(いわゆる「貸館」だけではない証明書類)。
Q&Aでも次のとおり明記されている。
11. 当社は貸ホール施設を経営しています。貸ホールでもそこで実演芸術の公演が行われますが、対象にはならないのでしょうか。
いわゆる貸館、場所貸しのみの施設は対象とはなりません。そこで行われる公演やライブ等の実演芸術において、文化施設として関与(主催、共催、提携、企画、制作、協力等)する人的体制を有していれば、本事業の対象施設となります。
この記載には、正直救われる思いがした。「主催、共催」だけでなく、劇場付き制作者などの人的体制があり、劇場として「提携、企画、制作(製作)、協力等」をしていれば、「貸館のみ」ではないと認められるのだ。民間劇場の「意思のある貸館」は、貸館=ブッキングという行為を通したプロデュースだというのが私の長年の主張で、それが反映されたものだと思う。
(参考)fringe blog「舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)に貸館中心の民間劇場制作者も積極的に参加し、『意思のある貸館』が果たしてきた役割を共有してほしい」
別紙「募集案内のポイント」では、さらに噛み砕いた表現で対象施設のページに下記の注釈を記載している。
公演等の事業に施設として主体的に関わることができる人的体制を持つことが必要で、「鍵」管理だけの「貸館」業務施設は対象外です。
今後は第三者から「貸館のみ」に見えている公演でも、劇場として「提携、企画、制作(製作)、協力等」があるというエビデンスが重要で、チラシやパンフレットにクレジットされていることが必須になっていく。会場としてだけではなく、主催クレジットの近くに劇場の関わりを示すクレジットを入れたい。どのようなクレジットにするかは主催者との協議になるが、私は劇場側の審査や調整によって貸館が決まったり、それによって演劇向け料金体系が適用される場合は「提携」だと思う。劇場側から利用の声掛けがあり、創作過程に寄り添って相談に乗ってくれたのであれば「企画」だし、劇場側が宣伝やチケット販売、当日運営を手伝ってくれるのであれば、最低でも「協力」ではないだろうか。
チラシやパンフレットを作成するのは主催者である上演団体なので、クレジットは上演団体の理解と協力が必要になるが、「ARTS for the future!」でエビデンスの重要性は上演団体も痛いほど理解したはずである。今後は民間劇場の継続を支援するために、「貸館のみ」と「意思のある貸館」の違いが第三者にもわかるクレジットを入れていこうではないか。今回の補助金だけではなく、今度に備えてそうしていきたい。これは、上演団体が民間劇場に出来る恩返しだと思う。