演劇の創客について考える/(8)劇場の劣悪な客席を敬遠する観客を呼び戻す切り札として、映画館での「上演」を真剣に考えよう

カテゴリー: 演劇の創客について考える | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

Pocket

●分割掲載です。初めての方は(予告)から順にご覧ください。

演劇の創客で障壁の一つとなっているのが、劇場の劣悪な客席です。新しい劇場では改善されたところもありますが、多くの劇場がパイプイス程度の客席ではないかと思います。小劇場だけではなく、中劇場以上でも古いところはイス自体が小さく、最近のシネマコンプレックスと比べると非常に見劣りします。学生時代から小劇場に慣れ親しんできた私でさえ、中年以後は窮屈な姿勢を続けていると苦痛を感じるようになりました。初めて行った劇場がそんな状態では、どんなに作品が優れていても再度行きたいと思わないのではないでしょうか。

そうした苦痛も含め、演劇を構成する要素の一つという考え方がありますが、それは上演側の言い訳に過ぎません。演劇は劇場空間に身を委ね、作品世界と同じ時空を過ごすものですが、それが客席のクオリティを下げる理由にはなりません。身動き出来ない超満員の桟敷で目撃した舞台の数々は、確かに鮮烈な思い出ですが、だからと言って超満員の桟敷を礼賛される方は、もはやベテラン演劇人でもいないでしょう。劣悪な環境を楽しめる若いうちはいいですが、中年の観客が久しぶりに訪れてみると愕然とする――これが現在の実態ではないでしょうか。

客席の改善が一筋縄では行かないことは百も承知です。座り心地のよいイスは高額ですから、客席分揃えるのは大きな投資となります。イスの幅や前後の間隔も広げる必要があるため、本気で取り組むと定員が減少します。キャパシティで考えると劇場としての価値が下がることになり、貸館や劇場使用料に影響が出るでしょう。しかし、定員が多いこと=価値があるのかという点も含め、劇場設備に関して劇場経営者も再考すべき時期に来ていると思います。

民間劇場のイス交換に対しては、公的助成があるべきです。シネコンを想像すればわかるとおり、イスがよくなれば観劇のハードルは下がり、創客につながります。観客に直結するサービスであることを考えると、芸術団体より民間劇場に対する設備投資の補助金が優先されるべきではないかと思うくらいです。この点について、2006年に提言をまとめていますので、ぜひお読みください。

fringe「舞台芸術のために国や自治体は民間劇場向けのイス設置奨励補助金を」

チーム夜営『タイトルはご自由に。』

チーム夜営『タイトルはご自由に。』再演

劇場のイスが改善されるのを待つだけでは、時間が過ぎてしまいます。ならば、もっとよい環境で上演する方法を模索しましょう。このお手本となる公演が、10月11日に恵比寿ガーデンシネマCINEMA1(東京・恵比寿)で「上演」されたチーム夜営『タイトルはご自由に。』です。

10月10日~12日に恵比寿ガーデンプレイス全体で開催された「恵比寿文化祭2015」の一環で、演劇関係ではスイッチ総研「恵比寿文化祭スイッチ」も行なわれました。恵比寿ガーデンシネマでは、映像制作会社ROBOTが映画館を使った日替わり企画を実施し、6月に新宿眼科画廊スペース地下(東京・新宿)で上演された同作品を、1回限りの再演としたのです。次のYouTubeは初演のダイジェストです。

未来の宇宙船を舞台にした二人芝居で、プロジェクターやモニターによる画像が多用されます。恵比寿ガーデンシネマでは、これを大スクリーンで表現しました。映画館なのでステージに奥行はありませんが、客席前方3列を潰してアクティングエリアとし、通路も花道代わりに使いながら、とても印象深い作品に仕上げていました。

ミニシアターなので、イスは感動的なほど快適でした。劇場でこれ以上快適なイスはないでしょう。187席あるCINEMA1を144席に減らしての贅沢な「上演」でしたが、灯体や舞台装置は最小限に抑えられ、これを他の映画館の空き時間に「上演」することは可能ではないかと感じました。

シネコンも毎回全スクリーンが満席になっているわけではなく、都心でもガラガラの回がよくあります。そうしたスクリーンを狙った演劇の「出張上演」が出来れば、映画館という足を運びやすい場所での観劇体験につながります。映画料金と比較されないかについては、東京なら「IMAX 3D」や「4DX」が3,000円前後ですから、生身の俳優が演じる作品なら3,000円以上でも全く問題ないと思います。

ステージに奥行はありませんが、元々スクリーンが見切れない高さにありますので、座って演技するシーンでも前の観客が邪魔になることはありませんでした。この意外な見やすさも映画館の魅力です。多人数の作品は工夫が必要ですが、少人数の作品なら映画館での「上演」は成立すると確信しました。

そしてなんと言っても、映画館の魅力は大スクリーンが使えること。そして音響設備が充実していることです。プロジェクターを使う作品はもちろんですが、工夫しだいで効果的な舞台美術が生み出せるのではないでしょうか。今回は宇宙船というふさわしい設定でしたが、どんな作品にも応用出来ると思います。

これまで演劇における映画館の活用は、舞台収録作品の上映または中継が注目され、映画館自体を劇場として使用することは、イベント公演的なものに限られていたと思います。しかし、シネコンやミニシアターのラグジュアリーな空間を、劇場から遠ざかってしまった世代を呼び戻す切り札として、映画館での「上演」を劇場と同じレベルで検討してもよいのではないでしょうか。

前の記事 演劇の創客について考える/(7)ポーラ美術館のような劇場自体のイントロダクションムービーを各劇場につくってほしい
次の記事 演劇の創客について考える/(9)「わたしがさくらプラザに行かない理由」への回答