「新刊『都市の舞台俳優たち―アーバニズムの下位文化理論の検証に向かって―』が検証、東京は小劇場の観劇人口が多いのではなく、チケットノルマを抱えた俳優15,000名が互いに観合っているだけ」が反響を呼んでいるようだ。確かに小劇場演劇の実態は本書の検証に近いと思われるが、だからといって本書がすべてを物語っているわけではない。
制作者が本書で注目すべきなのは、調査対象で中劇場へ進出した5カンパニーすべてが、それを機にチケットノルマを撤廃したという事実だ。中劇場へ進出するには最低でも2,000名を目安とする動員が必要で、それはノルマだけで集客出来る数を超えているとした。中堅俳優の見解として、次のように紹介している。
小劇場の劇団が一回の公演で「ノルマ」だけを頼りに集客可能な客数は最大でも千人程度に止まるとしつつ、二千人という数字は当該劇団が最低でも知り合いに匹敵する数の知り合い以外の集客に成功している証と概括する。小劇場の劇団に所属する舞台俳優が、公演への参加に際し「ノルマ」との決別を図るためには、少なくとも劇団全体で知り合い以外の観客が客席の半数以上を埋める状態に達することが不可欠というわけだ。
田村公人著『都市の舞台俳優たち―アーバニズムの下位文化理論の検証に向かって―』(ハーベスト社、2015年)(p.196)
この点をわかりやすく説明したのが、fringe[ナレッジ]の「身内客から一般客へ移行するためのロードマップ」だ。小劇場から中劇場への進出は、第2フェーズから第3フェーズへの移行に重なる。
本書の検証に照らすと、小劇場で上演しているカンパニーは第1フェーズ、あるいは身内客に偏った第2フェーズということになる。中劇場へ進出したカンパニーは、一般客をそれ以上に取り込んで第3フェーズまで拡大したわけで、ここで重要なのは、第2フェーズの段階でいかに「コアな演劇ファン」に届けるかということだ。本書では次のように書かれている。
小劇場の演劇を専門とする雑誌メディアに大きく掲載されるといった劇団としての新たな展開を必要とし、
田村公人著『都市の舞台俳優たち―アーバニズムの下位文化理論の検証に向かって―』(ハーベスト社、2015年)(p.43)
これ以外にも、第2フェーズでやるべきことは多数ある。その具体的な戦術をまとめたのが、fringe[ナレッジ]で連載中の「カンパニーを進化させ集客へと導く具体的な方法」である。
ノルマは、例えるなら自転車の補助輪のようなものだ。自転車に乗れるようになるまでは補助輪が必要だが、乗れた瞬間から不要になる。カンパニーの創生期には必要かも知れないが(最初から自転車に乗れる人もいる)、補助輪が不可欠と思い込んでいると、いつまでも補助輪に頼って自立出来ない。自転車に乗りたければ、あるタイミングで勇気を出して補助輪を取るしかない。
いつ補助輪を取れるかは、走行中に補助輪が地面に触れていないかを親が見極めるはずだ。制作者も同じで、第2フェーズで一般客の比率を高めながら、ノルマを廃止出来るかどうかを見極めていくのだ。
私自身は、チケットノルマがある公演に関わったことは一度もない。俳優へ客演のオファーがあったときも、「ノルマがあるような公演には客演するな」と言い続けてきた。惑星ピスタチオのプロデューサーだった登紀子氏(アイビス・プラネット、旧アプリコットバス)もこうツイートしている。
小劇場の役者のチケットノルマについて常々話題だけれど、少なくとも今年関わった全団体、ノルマはなかった。「観に来て欲しい」と言う=ノルマを頑張っている・・・という図式ではない。SNSが非常に盛んになって、知人以外にもアピールし、自分で自分をプロモーション出来る世の中である
— 登紀子(アイビス・プラネット) (@aptokiko) June 30, 2015
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