この記事は2011年5月に掲載されたものです。
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払い戻しではなく次回公演への振り替えに出来ないか

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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震災時の公演の可否について考えてきたが、今回のような大震災では、公演を続行しても「こんなときに観劇する気持ちになれない」「余震や停電が心配で外出したくない」という人が多数いる。公演が続行されると前売券の払い戻しはないため、こういう人にとっては「なぜ公演するのか」という心境だろう。このようなケースでは、他ステージへの振り替えで対応することが多いが、短期間では状況が変わらないかも知れない。結果的に「あのカンパニーは払い戻しをしたくないために公演した」と思われ、お互いしこりを残すことになる。残念なことだと思う。

どの業界でもそうだが、決済後の払い戻しは大きな痛手となる。演劇の場合、ほとんどのカンパニーが自転車操業で、ギリギリのキャッシュフローで演劇製作をしている。公演中止でも多額の支払いが待っている。そこで観客に払い戻しすると、プレイガイドへの手数料も上乗せされ、カンパニーの存続自体が危うくなる。

小劇場系では最大手の演劇集団キャラメルボックスでさえ、3月11日~13日に中止した4ステージと、大規模停電が予告された17日のキャンセル希望に対応したため、「劇団史上最大の赤字」という経営危機に陥った。このため緊急公演を急遽2本企画し、以前の経営危機でも発行したプリペイドチケットを再び売り出す事態となっている。

払い戻しについては、「CoRich舞台芸術!」が「支払い済みのチケット代で芸術団体を支援しませんか?」という提案を3月22日に行なった。観客が払戻請求を放棄する内容で、つくり手にとってはありがたい提案だが、後ろめたい気持ちが残るのも事実だ。これに対し、ネビュラエクストラサポート(Next)の郡山幹生氏が「強い違和感を抱いています」というコラムを3月24日に発表した。そこまでの支援は、つくり手と観客の一線を超えてしまうという思いからだろう。

私はこうした大規模災害下では、公演続行・中止に関わらず、払い戻しではなく次回公演への振り替えで対応出来ないかと思う。キャラメルボックスの考え方と似ているが、未使用チケットを次回公演に振り替えるというものだ。公演続行の場合でも、観客が躊躇する妥当性がある回には適用する。今回だと3月11日~17日が対象になるだろう。これにより、自宅待機したいという観客の希望にも応えられるのではないか。カンパニーにとっても、払い戻しよりはずっとマシなはずだ。

こんな制度をつくると、上演しても劇場がガラガラになるかも知れないが、観客が一人でもいれば上演するのが演劇人の志なら、それでいいではないか。大切なのは、「こんな状況下だからこそ演劇を観たい人」「こんな状況下では演劇を観たくない人」のどちらにも選択肢を用意することだと思う。どちらか一方にしてしまうのは、選択肢そのものを奪うことになる。私も台風とぶつかって、交通機関が運休している状態で公演を強行したことが何回かある。来場出来なかった観客には他ステージへの振り替えで対応したが、こうした制度を整備しておけば、もう少しゆとりのある判断が出来たのではないかと思う。

他業界で似たルールを採用しているものとして、プロ野球の日本シリーズがある。中止の場合は順延扱いとし、日程変更による払い戻しは行なっていない。次の試合を必ず見るという前提になっているわけだが、演劇も観客とつくり手のあいだに、これぐらいの合意形成があってもいいのではないだろうか。

払い戻しによって、カンパニーが倒産・解散したら元も子もない。今回、キャラメルボックスが普段なら絶対やらない「千秋楽のあとの追加公演」を入れたことからも、その深刻さが窺える。このときの加藤昌史プロデューサーの考え方も筋が通っており、千秋楽のチケットを買ったファンも納得したと思う。

キャラメルボックスについては、加藤氏が震災後の動きを一覧出来るページをつくられたので、参考にしてほしい。特に、なぜこんなときに演劇をするのかという質問に正面から答えた3月14日付の記事は、とかく精神論になりがちな演劇人が多い中、きちんと経済の観点から回答していて説得力がある。

記事を読んでもわかるが、今回開演可否の判断が最も難しかったのが、大規模停電の記者会見があった3月17日夕方だった。停電の不安以上に、降雨で放射線量が増えることが予想され、原発事故の進展が見えない中、自宅待機になった大企業もあった。こんな日は二度と訪れてほしくないが、そんなときにも次回公演への振り替えが制度化されていれば、純粋に観客の安全面に絞った判断が出来るのではないだろうか。

(参考)
東京で上演し続けることの意味
自粛からはなにも生まれない
専門誌が伝える演劇界と映画界の動き