この記事は2017年5月に掲載されたものです。
状況が変わったり、リンク先が変わっている可能性があります。



「Daily Fringe Guide Osaka」が個人による更新終了を発表、その功績を振り返る――観客と関西小劇場界にとって、単なる公演情報ではなく明日を探す地図のような存在

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

Pocket

関西を中心とした公演情報サイト「Daily Fringe Guide Osaka」を運営している山本篤史氏が、6月30日をもって個人での更新を終了することを5月13日発表した。サイト本体だけでなく、毎朝5時55分からTwitter(@DFG_Osaka)で配信している当日の公演情報も終了する。

同サイトは、情報誌の演劇欄縮小に危機感を抱いた音響スタッフの山本氏が、2007年に週刊演劇スケジュール「Weekly GUIDE!」(発行部数200部)を大阪市内12劇場に無料で置いたのが始まり。その後mixiのコミュニティを経て、10年5月13日からTwitterで配信開始。同年8月から公演情報サイト「関西の小演劇スケジュール」(管理人・#10氏)の更新終了を継承する形で、ウェブサイトも立ち上げた。公演情報のフォーマットが非常に見やすく、Twitterの早朝配信はリマインダ―の役割を果たし、関西以外の演劇ファンにも絶大な信頼を得てきた。

fringe「大阪で個人発行の週刊演劇スケジュール『Weekly GUIDE!』が話題に」

驚くべきことに、これらの更新・配信はすべて山本氏の手作業で行なわれており、自動化されていない。変則的な形態も多い公演情報を同一フォーマットに収容するには、Adobe Illustratorでの微調整が「使い勝手が良い」とのこと。Twitterへの配信も山本氏が毎朝5時半に起床して実施している。これを7年間継続したわけで、個人による完全なボランタリーベースだった。

13年からは書店で配布するしおりを宣伝媒体にした「演劇のしおり」を開始し、現在は京阪神を中心とした感性の高い書店約40店舗に設置している。チラシを置ける店舗が限られる中、本と演劇の親和性に着目した「演劇のしおり」は、定着することが少ない演劇の宣伝ツールとして、近年を代表する成功例と言える。

関西を代表するもう一つの演劇情報サイトとして、インタビューサイト「頭を下げれば大丈夫」がある。こちらも高橋良明氏による個人運営だが、この二人がなぜ労力をかけて情報発信を続けるのか。15年に開催された大阪の舞台芸術サロン「ざろんさろん」第12回で、その理由が伝わるコメントがあるので、同サロン実行委員長・筒井潤氏(公演芸術集団dracom代表)によるリポートから引用する。

【タカハシ】よく東京に比べてどうのこうのという発言を聞くが、決して引けを取らないどころか、こっちの状況のほうが断然おもしろいと思う。環境の差もあると思うが、演技の品質からして違う。東京の様子をうかがうことなく、独自の進化をすればいい。

【山本】作品を他の地域に持っていくばかりではなく、こっちに観に来てもらうようにする努力もするべきだと思う。LCCとかで昔よりは遠くから気軽に来れるようになったので、もっともっと外にアピールすればいいのに、まだその点が弱い気がする。

Facebook「ざろんさろん」<筒井リポート>

関西では観劇人口が減少し、小劇場演劇というジャンル自体の元気がないとも言われるが、この二人は関西の演劇シーンに自信を持っており、だからこそ現状をもっと多くの人々に知らせたいのだろう。そのために人材の魅力や、手掛かりとなる網羅的な情報の発信を継続しているのだ。「Daily Fringe Guide Osaka」は、外見上はデータが羅列された公演情報サイトだが、観客と関西小劇場界にとっては、明日を探す地図のような存在だったのではないか。

7月以降の「Daily Fringe Guide Osaka」だが、更新継続が困難な個人ではなく、組織としての引き継ぎ先をTwitterで公募し、現在のサイトとTwitterを維持する形で希望者と調整中とのこと。関西に定着した「演劇のしおり」が今後どうなるかは注目したい。

更新だけではなく、過去の公演情報のアーカイブも重要だ。早稲田大学演劇博物館「演劇上演記録データベース」も近年は収録が全く追いついていないし、日本演劇協会『演劇年鑑』も関西分の収録は一部劇場に限られる。関西小劇場界のテン年代の上演データは、「Daily Fringe Guide Osaka」と「CoRich舞台芸術!」を補完して確認するしかない。この重要性に鑑み、アーカイブの引き継ぎ先が決まらなかった場合は、fringe自身が責任もって保存することを山本氏に申し出ていることを付記しておく。

最後に、公演情報は特別なものではなく、誰もが気軽に接することが理想だ。それがジャンル自体の縮小から、小劇場演劇に関してはニッチな見つけにくいものになっている。山本氏自身もツイートしているが、本来は「Daily Fringe Guide Osaka」以外の様々なメディアがあるべきで、関西の演劇人は「Daily Fringe Guide Osaka」だけを頼るのではなく、どうやって演劇を身近な存在にしていけるかを常に考えてほしい。「Daily Fringe Guide Osaka」の運営体制変更が、それを考える契機になってほしい。

(2017年5月22日追記)

「演劇のしおり」は、山本氏が引き続き管理していくことを発表した。専用サイトの作成も予定しているようだ。