助成金等の前払いを望む声を耳にします。
こういう要望を持っている人は、前払いに伴う義務に対する意識の高い方で、基本的に大丈夫だと思うのですが、一律に前払いが制度化されることには一抹の不安も感じます。
芸術団体にも会計や財務がしっかりした団体と、アバウトな団体があるでしょう。前者は前払いになったとしても適正な会計処理をするでしょうが、後者はちょっと危ない面があるかも知れません。
まず思いつくのは、助成金をもらった後に、その事業ができませんでした・・・
ということがあげられます。
助成の申請を出す時点では事業の実施に対し不確定な要素があるでしょう。真にやむを得ない理由で事業が中止になることもあるかも知れません。この時、申請団体の財政状況が逼迫していれば、すでにもらっている助成金を返還できないことにもなり得ます。
助成を出す方からみれば、善意・無償の助成に対しそんな仕打ちをされては助成事情自体がどうなのか、という議論になるのも当然でしょう。
最悪、助成事業を辞めるということもあるかもしれません。
基本的に助成制度が後払いから始まったものだとすると、それを前払いにしてもらわないと財務が回らない、ということは、裏を返せばその芸術団体の財務状況が悪化していることだとも考えられます。
助成団体も財政状況への審査はしていると思いますが、財務の専門家がはいっていることは少ないでしょうし、芸術団体の財務状況を正確に把握するのはかなり困難でしょう。
とある芸術団体は、助成金を担保にして銀行から資金繰りをしたと聞きます。私はこのようなやり方を前向きに評価したいと思います。銀行の審査は、助成団体の審査よりもより適正に行うことができ、リスクを適正に判断できると思います。
このリスクは助成団体が背負うよりも、銀行のようなそれを適切に判断できる組織が背負うことがよさそうです。
(こういうこともあるので、助成金の支払いが遅れるのはたいへんまずいことです。)
事業を行うための資金と資金繰りのための資金は分けて考えて、前者は助成団体から、後者は銀行や芸術団体のストックから手当てする。という形がいいのではないかと考えています。
前払いの制度を導入する場合も、前払いを希望するときは、さらに必要な資料を提出してもらって、財務の専門家にみてもらうということもいいかもしれません。
とある芸術団体が助成金を適切に処理してないということがあり、ほどなくいくつかの助成事業の決算事務が厳格化したということがあります。因果関係ははっきりしませんが、一つ示唆深いことだと思います。
この厳格化のために、他の多くの財務を適切に処理している団体が、どれほど迷惑を被っていることか。
繰り返しますが、前払いを要望するようなところは、信頼性が高い芸術団体だろうと思います。しかし、財務的にちょっと問題がある芸術団体にも一律に前払いが適用されるのは、長い目で見ると、日本の助成制度を弱くしてしまうような気がします。