この記事は2011年5月に掲載されたものです。
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専門誌が伝える演劇界と映画界の動き

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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東日本大震災後の演劇界と映画界の動きを、『シアターガイド』6月号と『キネマ旬報』5月上旬号がそれぞれ特集した。

『キネマ旬報』の緊急特集「3月11日以降の映画界」は、第1部「映画界ではなにが起こったか」で映画館の施設被害、作品の公開延期や中止、各社の動きなどをまとめ、阪神・淡路大震災を体験した大森一樹監督の談話を掲載。印象的なコメントを発表した宮崎駿監督にも触れている。第2部「映画作家、ジャーナリストと考える原発、これからのエネルギー問題」は、『ミツバチの羽音と地球の回転』が公開中の鎌仲ひとみ氏が、本橋成一氏、上杉隆氏と突っ込んだ議論をする骨太の企画だ。

中でも注目の記事は、震災直後の3月18日~27日に開催された沖縄国際映画祭の舞台裏だ。開催に対する批判がネットで渦巻く中、どうやって祝祭色を抑えながらチャリティーイベントに衣替えしていったかを紹介している。主催の中心となっている吉本興業は、阪神・淡路大震災で活動自粛を余儀なくされたが、今回は3月15日に実行委員長を務める大崎洋社長が開催をいち早く発表。自粛の風潮が広がった映画界に一石を投じた。

『シアターガイド』の国内特集「劇場に行こう―舞台の力―」は、野田秀樹氏のインタビュー、「劇団、劇場 作り手たちの想い」と題した劇場・カンパニーへの取材、編集部員の声などで構成。震災後の公演可否について、どのような選択をしたかが当事者の考えと共に紹介されている。

掲載されている中で私が最も共感したのは、三越劇場の谷口直人支配人のコメントだ。シーエイティプロデュース『女の人さし指』を3月12日と13日に予定どおり上演、その後も計画停電初日で交通機関が乱れた14日を除いて公演を続行したことについて、こう語っている。

劇場に足を運ぶということは少しでも日常生活を取り戻したいという気持ちが強かったのではないでしょうか。それを求めている人たちに門戸を開いたということに尽きるといえます。演劇、イベントを通して被災地の方々を励ますなどと言うにはまだ時期が早すぎると思います。公演を継続することによって世の中にメッセージを送るというようなことでもありません。支援をしていく私たちが1日でも早く日常を取り戻すということだと思います。
●シーエイティプロデュース『女の人さし指』
3/11(金) 11:00上演 16:00中止
3/12(土) 11:00上演
3/13(日) 11:00上演
3/14(月) 11:00中止
3/15(火) 休演日
3/16(水) 11:00→11:30変更 16:00上演
3/17(木) 11:00→11:30変更
3/18(金) 11:00→11:30変更
3/19(土) 11:00→11:30変更
3/20(日) 11:00→11:30変更
3/21(祝) 11:00→11:30変更

私もこの考えと全く同じだ。公演を続けるのは、それでなにかを主張するのではなく、それが私たちの日常だからだ。演劇は決して特別な存在ではなく、東京では日常の風景だ。被災地ではないのだから、スーパーが営業し、病院が診療を続けるように、劇場も粛々と上演を続ければいい。そもそも、震災時に公演中止にしなければならないほど、演劇は不謹慎な存在なのだろうか。だとしたら、公共ホールはなぜ存在しているのか。演劇人も芸術文化の必要性を語る前に、もっと純粋に日常を維持することの大切さを語ってもいいのではないだろうか。

公共ホールでは、新国立劇場が3月中の休館を3月14日に発表したのと対象的に、東京芸術劇場が元々の休演日をはさんで、中ホールのNODA・MAP『南へ』を15日から、小ホール1の二兎社『シングルマザーズ』を16日から再開し、動向を見守っていた演劇関係者を勇気づけた。ただし、野田秀樹氏は11日も上演するつもりで劇場に向かったと語っているし、永井愛氏は「3月11日はともかく、電車が動き出した12日、13日も『東京都の方針』によって劇場が閉鎖されたことは、今も納得できていません」としている。

●NODA・MAP『南へ』
3/11(金) 19:00中止
3/12(土) 14:00中止 19:00中止
3/13(日) 14:00中止
3/14(月) 休演日
3/15(火) 19:00上演
以後、予定どおり(追加公演1ステ)
●二兎社『シングルマザーズ』
3/11(金) 19:00中止
3/12(土) 14:00中止 19:00中止
3/13(日) 14:00中止
3/14(月) 休演日
3/15(火) 休演日
3/16(水) 14:00上演 19:00上演
以後、予定どおり(追加公演1ステ)

両氏とも、公演中止の損害は小規模な集団では存続に関わる問題だとし、演劇を業とする者として当然の考えを披露している。野田氏は花見の是非にも触れながら、「自粛、不謹慎という感情論でそれらすべてをまとめて否定するのではなく、分けて考えるべき」としている。再開時の野田氏の劇場挨拶「劇場の灯を消してはいけない~この東北関東大震災の事態に上演続行を決定した理由~」と共に、噛み締めるべきだと思う。

今回は自粛の風潮だけでなく、計画停電と原発事故で事態が刻々と変化する厳しい状況だった。阪神・淡路大震災とは全く違う判断を迫られたのも事実だ。公演によって、これだけ対応に差が出たのも前例がないのではないか。あの日々を体験した現場の声として、目を通しておきたい。

シアターガイド 2011年 06月号 [雑誌]
モーニングデスク (2011-05-02)
キネマ旬報 2011年 5/1号 [雑誌]
キネマ旬報社 (2011-04-20)

(参考)
自粛からはなにも生まれない
東京で上演し続けることの意味