朝日新聞東京本社版10月16日付朝刊の「文化変調 芸術とカネずさん」という特集記事はちょっとひどい。
国からの文化助成金・補助金に不正が相次ぎ、制度そのものが見直しを迫られているという趣旨で、舞台芸術と発掘調査の分野でそれぞれ具体的事例を挙げている。これ自体は間違いではないが、見出しや記事のトーンから現在の助成制度すべてが悪いように感じられ、これを読んだ一般読者の多くが「不況なのに芸術文化への助成なんて必要なのか」と思うはずだ。見出しがすごいので、ぜひ実際の紙面(3面)を見ていただきたい(ブログ「WIND MESSAGE」が画像をアップしている)。
演劇制作会社 国の助成金欲しさに出演料水増し
助成制度「無法地帯のよう」
収支報告書を水増しした会社があったのは事実だ。しかし、それで舞台芸術全体が不正の温床のように書かれるのは心外だし、そもそも公演助成が赤字補填を前提にしているという制度自体の矛盾について、この記事は全く触れていない。
芸術団体を維持するためには、公演以外の間接経費も必要で、本来は黒字公演でないと常勤スタッフの給与や事務所費用が出せない。ところが助成制度が赤字公演しか対象にしていないので、芸術団体はどうしても赤字になるような報告にせざるを得ないのだ。こうした問題の本質を掘り下げようとせず、表層的な部分だけを大きく書きたてる記者の資質を疑う。東京本社文化部がチームで取材している記事だが、こうした一方的な視点は部内で議論にならなかったのかと思うほどだ。
舞台芸術と発掘調査を並べて一つの記事にしているのも疑問。民間の芸術団体と自治体の埋蔵文化財とでは、記事が問題にしている不正の内容も全く異なる。不正を並べて読者を恣意的にミスリードさせようとしているのではないか。調査報道ではなく、記者が最初に考えたストーリーに添って記事を構成しているように感じられる。
今回の記事は看過出来ない内容となっており、芸術団体の統括団体は朝日新聞社に対して抗議するなり、反論の声明を出すべきだと思う。芸団協もこういうときは「もっと文化を!」のコラムに直ちに反論を掲載すべきだ。
(参考)
劇場法(仮称)に対する私の考え
劇場法(仮称)と新たな助成制度
任意団体はいまこそ非営利法人格取得を真剣に考えるべき