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Twitterで公演の宣伝を繰り返しても集客には結び付かない。むしろ逆効果――という意見が最近目立ちます。私も全く同感です。
そもそもTwitterのフォロワーは、その団体やアーティストに関心があるからフォローしているわけで、その時点ですでに観客または観客予備軍です。もっと期待を高めてくれるツイートを聞きたいのに、同じ宣伝文のコピペを何度も書かれては、単に「うざい」としか思わないでしょう。観客を増やすどころか失う結果になってしまいます。動員が伸びない焦りもあるのでしょうが、こうした例が目立ちますので、演劇人はTwitterでの宣伝を見直すべきだと思います。
TwitterはSNSの一種であり、マイクロブログでもありますが、日常の行動を記録するという面ではライフログの機能も持っています。つまり、アーティスト個人のタイムラインを見れば、その人の行動や考え方が自然と伝わってくるものです。しかもリアルタイムに発信されるものなので、公演準備に打ち込むアーティストに寄り添う感覚にさせるのが、演劇人が意図すべきTwitterの使い方ではないでしょうか。
そうしたタイムラインが流れていれば、フォロワーは「次回公演をぜひ観たい」と思うはずですし、初めてアカウントを覗いた人もフォロワーになって観客予備軍となり、新たな観客になってくれるかも知れません。そう考えると、Twitterでの日常のツイートこそが重要で、それが創客につながっていくのではないかと思います。
自分のライフログを見せることで、自分の作品に興味を持ってもらうこと。これはアーティストがドキュメンタリー番組で紹介されるのと似ています。番組はアーティストの日常を追い、視聴者はそれを見ることで関心を持ちます。番組はそのアーティストのファン以外も目にするわけですから、そこからファンになる可能性があります。それと同じことだと思います。
アーティストは、自分がドキュメンタリー番組に密着取材されている心境でツイートすればいいのです。撮影されるのではなく、自分自身でツイートするわけですが、どちらも自分の言葉が伝わっていくわけです。Twitterという放送局に、自分の言葉が〈収録〉されている意識を持ちましょう。アーティストの登場も多いMBS系「情熱大陸」に密着取材されている自分をイメージすれば、わかりやすいのではないでしょうか。
公演に関する周知はもちろん必要ですが、その場合も自分ではツイートせず、団体の公式アカウントをリツイートするのです。公式アカウントは、制作者がオフィシャルな文体で公演情報を書けばいいと思います。それを時折リツイートすることで、番組にナレーションが流れるような効果が生まれ、タイムライン全体がドキュメンタリー番組のような構成になります。公式アカウントでは、公演情報を必ず最上部に固定(ピン留め)しておきましょう。
もし「情熱大陸」の中で、登場している本人が何度も宣伝をしたら異様に思われるでしょう。イベントが近いことは、描かれている映像そのもので伝わります。Twitterも同じです。アーティスト本人が何度も露骨な宣伝をするのは、決して得策ではありません。
お手本となる具体例を、谷賢一氏(DULL-COLORED POP主宰)がゴーチ・ブラザーズと組んだユニット、テアトル・ド・アナール『従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“――およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか?という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語』の再々演で行なった、一連のツイートから紹介させていただきます。
この作品は2015年10月~11月に東京・仙台で再演したものを、16年3月に東京・新潟で再々演したもので、東京では4か月しか間隔が空いていません。こまばアゴラ劇場(東京・駒場)で17ステージ上演してから日が浅いため、どうやってSPACE雑遊(東京・新宿)の8ステージに集客するかが課題だったと思います。
『従軍中のウィトゲンシュタイン(略)』劇場下見&打ち合わせ終えて、舞台監督竹井と制作小野塚をムリヤリ誘って一杯飲んだ。いや私は三杯飲んだ、日本酒を。気心知れた、気の置けない仲間であるゆえ、図面広げつつあれこれ語り合い、後は雑談したがそれも楽しい。
— 谷賢一 (@playnote) 2016年2月20日
劇場下見後の一杯。演劇への情熱が伝わります。
「従軍中のウィトゲンシュタインが(略)」凱旋公演、まだどのお日にちもご予約頂けます。ご予約はお早めに!!https://t.co/VZ0IL3OFxB pic.twitter.com/LUxb14C3PM
— テアトル・ド・アナール (@Annalesinfo) 2016年2月21日
しかし、まだチケットは残っています。それは自分で書かずに、公式アカウントをリツイート。
『ウィトゲンシュタイン』、古河は、目の飛び出るほど上手い。本折もそう。ワンアンドオンリーの感情を持ち込んでくれる小沢、的確に私の世界を体現してくれる大原。そして我が神・榊原と、強い布陣だ。小劇場最強と言っていい。
— 谷賢一 (@playnote) 2016年2月24日
残念なことに小劇場界隈では技術より「いかにアクが強いか」「いかにイケメンか」ばかり評価されてしまう。しかしこの座組は強い。数多の現場を観てきた私が言うのだから信用してほしいが、こいつらは技術を持ってる。それを堪能して欲しい。ウィトゲンシュタイン。
— 谷賢一 (@playnote) 2016年2月24日
稽古中に俳優をベタ褒めするツイートは少ないと思います。けれど、演出家がそう思うのなら、そうつぶやけばいい。単なる公演案内より、演出家が本音を語るほうが、観客に伝わるものは遥かに多いと感じます。
『従軍中のウィトゲンシュタイン(略)』、本日の通しランタイムは、1時間49分でした。
— 谷賢一 (@playnote) 2016年2月26日
今回好評だったのが、通し稽古の時間を逐一公表したこと。前回公演から間がなく、すぐに通せたことも要因ですが、観客の参考になると思います。上演時間が不明のまま、この長い哲学的なタイトルだと、敬遠する観客がいたかも知れません。
通し稽古を終えて『従軍中のウィトゲンシュタイン(略)』出演者らと1時間だけ飲みに行き各々の最近の演劇・人生に関する問いと考えを聞く。皆それぞれの人生の深い闇と晴天に困惑しつつ「いい演劇とは何か」問うている。今日の通しはそのままお客さんに見せたい完成度のものであった。
— 谷賢一 (@playnote) 2016年2月26日
ここまで書かれると、この座組を観逃すのは〈人生の損失〉と思えてきませんか。
日本人は「再演文化を根付かさねば」と口の上では言いつつも見に来ねえんだよなあ。その新しもの好きの感覚が日本に再演文化を根付かせない最大の敵。実は、観客の心根が演劇界の形を作っている。何故って今時、観客の顔色伺わないプロデューサーなんていないからね。
— 谷賢一 (@playnote) 2016年2月26日
小劇場では再演の人気が薄いことへの一家言。このあとメンションでのやりとりもありましたが、こうした問題提起が出来ることが、谷氏の見識を裏打ちしているのだと思います。
このあたりで私は「情熱大陸」を見ているような感覚に襲われ、谷氏のタイムラインを見ていると、画面から葉加瀬太郎の曲が流れてくるようでした。公演へのカウントダウンと重ね合わせた、自分自身の言葉の積み重ねこそが、集客そして創客へつながっていくと確信した瞬間でした。
最後に輝くのは俳優であって欲しいし、そのためにスタッフは頑張っている。そんな縁の下の力持ちに全力を尽くし、人生を賭している奴らがいる。私もそんな、立派な「いちスタッフ」になりたい。
— 谷賢一 (@playnote) 2016年3月1日
このツイートで仕込みが終わり、再々演は初日を迎えました。SPACE雑遊には初日から当日客が押し寄せ、新潟も満員だったと聞きます。本当に「情熱大陸」を見ているような日々でした。
谷氏の場合、複数の現場を同時進行しているから派手に見えるという部分はあるでしょう。けれど、一つの作品に没頭している場合でも、演劇をミクロとマクロの両面から常に思考し、それについての信念を吐露し、その公演でなにを追い求めるかは書けるはずです。谷氏のツイートに、露骨なチケット購入のお願いは一つもありませんでした。
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