この記事は2016年4月に掲載されたものです。
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地域の制作者はもっと広い視野で劇場探しを――いまアーティスティックな若手カンパニーの選択肢に入れるべきなのが、創造型劇場になって存在感急上昇のシアター風姿花伝

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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地域の若手カンパニーが東京公演を検討する際、優遇措置のある劇場として選択肢に挙がるのは、こまばアゴラ劇場(東京・駒場)、王子小劇場(東京・王子)が2大巨頭だと思うが、ここ数年その存在感を急上昇させ、絶対に忘れてはならないのがシアター風姿花伝(東京・中落合)だ。

俳優の那須佐代子氏が、2003年に実家の玩具店「カネモ」を建て替えたカモネビル目白西の2階に設けた小劇場で、3階~7階はワンルームマンションになっている。楽屋は1階、地下には舞台とほぼ同じ大きさの稽古場もある。舞台奥の出っ張りを舞台に活用するため、上手奥が階段状になっているのが特徴だ。

オープンから10年間は貸館中心の運営だったが、10周年を迎えた13年から「演劇に、はぐくむ場を」をスローガンに掲げ、創造型劇場に変貌した。融資返済や減価償却が進み、資金に余裕が出たのだろう。そこから自主プロデュースや提携公演を柱とした積極的な「風姿花伝プロジェクト」を展開し、いまや目を見張る充実した内容となっている。

地域のカンパニーに対しては、宿泊先を含めた東京公演の制作支援を行なう「ツアーサポート」が用意されており、劇団ショウダウン(本拠地・京都市)が14年度、オイスターズ(本拠地・名古屋市)が14年度と15年度に対象となった。16年度は2公演を交渉中としている。

優れた書き下ろし新作への「劇作家支援」プログラムもある。王子小劇場の「筆に覚えあり」が劇場費無料の提携公演なのに対し、シアター風姿花伝は劇場プロデュースと同等のサポートを提示している。発表の場を探している地域の劇作家にとって、戯曲賞募集以外に実力を試せる場ではないだろうか。

シアター風姿花伝が首都圏の演劇ファン・関係者に注目されているのは、若手実力派を次々と劇場プロデュース、レジデンスアーティスト、プロミシングカンパニー(一押しカンパニー)に起用していることだ。レジデンスアーティストには小川絵梨子氏、上村聡史氏(文学座)、1か月ロングランなどを支援するプロミシングカンパニーにはDULL-COLORED POP、空想組曲、アマヤドリ、てがみ座を迎えてきた。このセレクトを見ても、いち早く実力を見抜く劇場であることがわかる。

最寄り駅から少しだけ離れており、利用者が多いJR山手線「目白駅」からはバスになるが、数分間隔で運行されている。池袋経由なら西武池袋線から1駅の「椎名町駅」徒歩8分だ。関西で例えると、立地的には都心から大阪市立芸術創造館へ行く感覚に近いと思う。

一般の演劇ファンが足を運ばないエリアに立地するため、07年には風琴工房が「CoRich舞台芸術まつり!2007春」グランプリ賞金100万円を原資に「シアター風姿花伝への心の距離を縮めて行こうよプロジェクト」を実施するなど、かつては集客の苦労もあったが、創造型劇場になってからは劇場自体の注目度が格段に上がっている。

これに対し、創造型劇場になった13年以降、首都圏以外でシアター風姿花伝で上演したのは、前述の劇団ショウダウン、オイスターズ、そしてトッコ演劇工房(本拠地・栃木県岩舟町)だけだと思う。地域のカンパニーが東京公演する際の選択肢にまだ入っていないように思われるので、こまばアゴラ劇場、王子小劇場などと同等に比較するよう勧めたい。劇場費が安いというわけではないが、ここでアーティスティックな作品を上演することは、きちんとカンパニーの戦略を考えていることが伝わると思う。

東京には数多くの劇場があり、その評価は年々変わっている。自分たちのカンパニーにふさわしい劇場、今後の評価につながる劇場はどこなのか、ツアーを企画する地域の制作者はもっと東京の劇場事情に敏感になり、肌感覚で探してほしい。劇場が限られる地域では、お世話になった劇場を使い続ける傾向があるが、東京では絶えず複数の劇場を取捨選択し、比較すべきだと思う。劇場は下北沢だけではないのだ。