私が2007年に書いたfringe blog「都市部に貸館中心の公共ホールは要らない」に対して、そらいろくらげさん(@kurage_suzuki)が、ご自身の運営するサイト「xSTAGE」で論考を書かれたので、それに対して応答したいと思います。論考は下記の2本になります。
xSTAGE「首都圏の公共ホールは、民間劇場の経営を圧迫しているのか」
xSTAGE「公共ホールでロングラン公演はできるのか」
まず、私が「都市部に貸館中心の公共ホールは要らない」で紹介した「麻布die pratzeの閉館について」ですが、こちらも07年に書かれたもので、現在の状況とは大きく異なると思います。ただし、私の知る1990年代~2000年代前半は、真壁茂夫さんの書かれているような風潮は少なからずあったと思います。私も同様に感じた部分はありました。いじめたほうは覚えていないけれど、いじめられたほうは一生忘れないのと同じで、過去にそういう時代があったことは知っていただきたいと思います。
もちろん、現在勤務されている職員の方とは関係なく、これを読んで気分を害された職員の方もいるかも知れません。過去を忘れないことが、同じ過ちを繰り返さないことになるのではないかと思い、これまで繰り返し紹介してきましたが、今回初めて読まれたとしたら、反論したくなる気持ちはわからないでもありません。そのため、この応答を書くことにしました。
現在の状況については、そらいろくらげさんの書かれているとおりだと思います。指定管理者制度が導入され、予算はたいへん厳しいと思います。全国公立文化施設協会が今年6月にまとめた「劇場、⾳楽堂等における指定管理者制度運⽤への提⾔(案)」には、制度に対する積年の恨みがこもっていると思います。監視カメラも、現在の感覚ではむしろあったほうが安心だと思います。
「役人」の下りも、一般的にはそのとおりでしょう。ただ、この文章が書かれた07年は、吉祥寺シアター(05年開館)、あうるすぽっと(07年開館)、座・高円寺(09年開館)と、舞台芸術を専門とする公共ホールの開館・建設のニュースが続いていた時代で、真壁さんの気持ちもわかるのです。例えば、専属劇団を併設するとか、人材育成に力を入れるとか、公共しか出来ない事業と同時に進めるのならわかりますが、公演だけを打ち出されたら、民業圧迫と映っても仕方なかったと思います。
次に、私が公共ホールと書いているのは、あくまで舞台芸術を専門にしている国や地方自治体などの劇場を想定しています。劇場法(劇場、音楽堂等の活性化に関する法律)第2条に定義されている「劇場、音楽堂等」です。それ以外の多目的ホールや公民館などは含んでいません。そらいろくらげさんとはこの前提が異なるので、意見が噛み合わないのだと思います。私も日本の習い事文化、発表会の重要性は理解しています。そうした裾野の広さが、日本独特の芸術文化を育んできたのであり、その会場として多目的ホールや公民館があるのだと思います。その存在を否定したことは一度もありません。
この法律において「劇場、音楽堂等」とは、文化芸術に関する活動を行うための施設及びその施設の運営に係る人的体制により構成されるもののうち、その有する創意と知見をもって実演芸術の公演を企画し、又は行うこと等により、これを一般公衆に鑑賞させることを目的とするもの
誤解のないように書きますが、劇場法が定める「劇場、音楽堂等」が、多目的ホールや公民館より上とも思っていません。どんな施設にも存在意義や管理運営の苦労があると思います。私が言いたいのは、それぞれの施設には役割があり、それに対してなにをすべきかということです。
なぜ、民間の小劇場だけが赤字になるのか。公共ホールを目の敵にする前に、まず自分たちで原因を探ることと、何を変えていけるのかを考えていくべきではないでしょうか。
真壁さんの文章は07年当時のものですし、それを紹介した「都市部に貸館中心の公共ホールは要らない」も、決して公共ホールを目の敵にはしていません。私の言うところの公共ホールは、都内なら新国立劇場、東京芸術劇場、世田谷パブリックシアター、吉祥寺シアター、あうるすぽっと、座・高円寺などですが、これらの公共ホールは前述の人材育成や学芸事業に力を入れたり、ツイートにも書いた本来のプロデュース公演、民間では実現出来ないロングランなどを実際に手掛けています。その意味で、タイトルの「都市部に貸館中心の公共ホールは要らない」は、いま実現しているのではないでしょうか。
xSTAGE「公共ホールでロングラン公演はできるのか」は、具体的に公共ホールでロングラン公演が可能かを検証されていますが、これも私と公共ホールの定義が違います。ロングラン公演をしてほしいと願っているのは、あくまで舞台芸術を専門とする公共ホールに対してで、すでに書かれている条件はクリアしていると思います。ツイートだけを読むと、公立文化施設全体への提言と思われるのかも知れませんが、そうではなく、劇場法に定義されている「劇場、音楽堂等」に対しての提言なのです。