「演劇を続けていくには」を考えるための表

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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どうすれば演劇を続けていけるのかは、当然ながら私自身も20代のころから考え続けている永遠の課題である。芸術なのだから、人の数だけ道があり、運が左右している面も大きいが、この問いをより複雑にしているのは、演劇が個人ではなく、様々な職能が集まった総合芸術だからという面がとても大きいと思う。特に公演ごとに集まるプロデュース公演、個人ユニットではなく、カンパニーとして集団を組織している場合に、この問題は重くのしかかる。

同じく集団による総合芸術の映画では、学生時代の映画サークルがそのまま製作プロダクションになった事例をあまり聞かないのに対し、演劇は学生時代のサークルがそのまま劇団化することが圧倒的に多い。実演芸術である演劇の特徴だと思うが、これが個人の話なら、その人がどのように演劇と関わっていくのかという個人のキャリアパスの話になると思うので、比較的わかりやすい。演劇はそれが集団での話になるため、個人と組織の立場が絡み合い、とても複雑になっていると感じる。「演劇を続けていくには」というのは、「集団で演劇を続けていくには」と同義だと思う*1

集団で演劇を続けていく、つまりカンパニーという組織単位で続けていく形態を表にしてみた。これまで、演劇をどのようにマネタイズしていくか(あるいはしないのか)という観点でのまとめは示されてきたと思うが、年間を通して集団のメンバーがどう演劇と関わっていくのかという観点で可視化してみた。

「演劇を続けていくには」を考えるための表

どの形態・パターンがよいというわけではなく、それぞれの集団の考え方で、どの形態・パターンもあり得ると思うし、実際にすべての形態・パターンに当てはまる具体例がある。この表と、自分たちの公演のマネタイズをどのように位置づけるのかを合わせて考えることで、自分たちの立ち位置や目指すべき姿が見えてくるのではないだろうか。

公演のマネタイズについては、冨坂友氏(アガリスクエンターテイメント主宰)がとてもわかりやすい例えをしている。

もちろん「生業」にした場合でも、公演だけで食べていく(第3形態・パターンB①)には、専用劇場を持って毎日公演したり、学校公演で全国を巡演する必要があり、多くのカンパニーは稽古・公演をしていない時期の過ごし方を考える必要があるだろう。

若いカンパニーの場合、マスコミ出演を含む第3形態・パターンB②を目指したいと思うだろうが、東京以外はマスコミ関連の仕事が少ないため、演劇の職能を活かした仕事も限られ、第2形態・パターンB②になることが多い。地域で「集団で演劇を続けていくには」必要な考え方だと思うし、演劇以外の収入の柱を持つことで、より自由な表現活動が出来るメリットもある。第3形態・パターンB②を目指す場合でも、一気に移行することは困難で、段階的に進んでいくのが普通である。どのように進むのか、自分たちがいまどこにいるのかを確認し合うのにも、この表を使ってもらいたい。

学生時代からそのままフリーランスで演劇を続ける人以外に、常勤の仕事を持ちながら演劇を続ける人の立場、この表でいうパターンAの視点も失ってはならないと思う。勤務先の環境によって大きく異なるが、理解や制度の整った職場なら、充実した演劇活動との両立も夢ではないし、他の世界を経験することで得られる知見が、演劇にもきっと役立つだろう。その意味で、本当に物理的に両立が出来ない状況になるまでは、兼業を続けたらよいと思う。

小劇場演劇の場合、先がどうなるかわからないこともあって、任意団体として第1形態で公演を続けるケースが圧倒的に多いが、助成金・補助金の要件として法人格を求められることが増え、2008年の公益法人制度改革で一般社団法人が生まれ、非営利の法人格が登記のみで取得出来るようになった。堅い勤務先でも公益法人で無報酬の活動ならハードルは大きく下がっている。第2形態パターンAは、そうしたメンバーもプロボノとして参加する姿をイメージしている。今後、副業が一般的な社会になると、さらに状況は変わっていくだろう。

これまでは、「集団で演劇を続けていくには」こんな一つの道しかないと思われていたが、

「演劇を続けていくには」を考えるための表(一本道)

いまはこういう多様な道があると思う。

「演劇を続けていくには」を考えるための表(多様な道)

大学でアートマネジメントを学び、そのまま「業」としての制作者を志す人が増えたのは喜ばしい一方で、カンパニー付き制作者として集団と共に歩んでいる人をもっと応援したいと思うし、そうした人をサポートする場が必要なのではないかとも思う。

  1. 個人でなら、中断を経て再開することも可能だし、実際に長年のブランクを経て復帰する事例もめずらしくない。 []