『シアターアーツ』「2022AICT会員アンケート」さあ、もう一度、劇場へ

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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4月発行予定のAICT(国際演劇評論家協会)日本センター『シアターアーツ』(晩成書房)67号に掲載される「2022AICT会員アンケート」に参加させていただいた(以下、敬称略)。

今回は「新人アーティスト」のカテゴリーがなくなった。もしそれがあったら、藤田恭輔(劇作家・演出家/かるがも団地)を挙げていたと思う。世間的には加藤拓也になるのかも知れないが、そちらは「優れていたアーティスト」に含めた。評論家が挙げる若手は、すでに中堅であることが少なくない。そうしたギャップが生じないよう、意識した選出を心掛けたいと思う。

「優れていた作品」のMONO『悪いのは私じゃない』は、このカンパニーでもベストワンに近い感慨を覚えた。創生期から観続けてきて、転機になった作品、感動した作品はもちろんあるが、誰もが抱えるハラスメントの可能性を自省の形で表現した、心に沁みる舞台だった。土田英生の消えない心の炎を見た思いだった。

ほろびて『苗をうえる』は、ウクライナ侵攻を反映した『心白』と迷ったが、総合的な完成度で前者を選んだ。細川洋平はいま最も気になる劇作家・演出家の一人だ。serial number『Secret War―ひみつせん―』は、テーマの評価が分かれるかも知れないが、私は詩森ろばを20年以上観続けてきて、なぜ科学をそこまで信じられるのかが、この作品で心の底から理解出来た気がする。年間回顧にも記したが、本当に長年の〈答え合わせ〉のような舞台だった。

あやめ十八番『空蝉』はエンタメの真骨頂。たぶん採算は全く合っていないだろうが、このような贅沢な舞台が、年に一度のお祭り的に上演されることに、日本の舞台芸術の構造的課題を改めて実感する。ブス会*『The VOICE』は、行政に対する住民の声を、決して主語を大きくせずに語ったことが収穫。2020年代の社会派証言劇として、新しいページを開いたのではないかと思う。俳優陣が素晴らしい。

最後に、制作者としては、劇団チョコレートケーキ「生き残った子孫たちへ 戦争六篇」が偉業だったと思う。この企画が無事に完走出来たのは、やはり演劇の神様がいるのだと思う。

■優れていた作品(5本、順位あり)
(1)MONO『悪いのは私じゃない』吉祥寺シアター
(2)ほろびて『苗をうえる』OFF・OFFシアター
(3)serial number『Secret War―ひみつせん―』東京芸術劇場シアターウエスト
(4)あやめ十八番『空蝉』東京芸術劇場シアターウエスト
(5)ブス会*『The VOICE』遊空間がざびぃ

■優れていたアーティスト(3名まで)
○ケラリーノ・サンドロヴィッチ(劇作家・演出家/ナイロン100℃)
○日澤雄介(演出家/劇団チョコレートケーキ)
○加藤拓也(劇作家・演出家/劇団た組)

■年間回顧(400字程度)
 コロナ禍の行動制限が緩和され、回復してきた経済とは裏腹に、陽性者が出れば即中止となる公演。演劇が「業」になり得ない現実を、緊急事態宣言下よりも見せつけられた一年だった。中止に対する支援制度がなくなる二〇二三年を、演劇界は乗り切れるのだろうか。告発が続くハラスメントと共に、大きな試練を迎えている。それを許してきた文化の形成に、外部からは演劇評論家も加担していたと映るだろう。このままでは観客は離れていく。演劇という狭い村社会からアップデートしなければならない。
 ベテランから若手まで、社会の閉塞感に向き合った力作に出会った。ハラスメントという言葉を一切使わず、自省を求める姿勢をエンタメで描き切ったMONO。奪うだけではない、希望の通奏低音が流れ続けたほろびて。人と科学を信じる、作者の長年の答え合わせを観たようなserial number。こうした秀作を自信を持って観客に薦められるよう、私自身も行動したい。さあ、もう一度、劇場へ。

■年間の観劇本数
約70本