この記事は2015年7月に掲載されたものです。
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演劇の創客について考える/(2)演劇を全く観ない人には「今月本当に観るべき1本」を厳選し、それを全身全霊でオススメする

カテゴリー: 演劇の創客について考える | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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●分割掲載です。初めての方は(予告)から順にご覧ください。

ネットで偶然見つけたオススメ文を見て、演劇を観始めたころの初心を思い出しました。今回も急遽予定を変更し、別のことを書きたいと思います。

とある公共スポーツ施設を拠点にしたサークル内に小劇場好きの方がいて、観劇部をつくっています。活動のメインはもちろんスポーツですが、それとは別に演劇もいかがですかという感じで、月に1本オススメの作品を選んで観劇会を開催されています。

最近のラインナップは下記のとおりで、7月が2本になったのは「全世界の全俳優の中で一番大好きな女優さん」2名が重なってしまったからだそうです*1

6月 こゆび侍『やぶれた虹のなおしかた』(駅前劇場)
7月 DACTparty『Curtain Call』(APOCシアター)
   ベッド&メイキングス『墓場、女子高生』(東京芸術劇場シアターイースト)
8月 劇団☆新感線『五右衛門vs轟天』(赤坂ACTシアター)

演劇とは無関係のサークルなのに、こうしたラインナップが組めているのは、周囲に少しずつ演劇の魅力を伝え、劇場・作品の幅を広げていったからではないかと推察します。

観劇会の告知では、渾身のオススメ文を書かれています。特に熱い、こゆび侍の文章から引用させていただきます。

観劇部部長の私を、何年も前まだあまり演劇を見ていなかった頃の私を、観劇の世界に演劇の世界に引き込んでくれた、その魅力をおしえてくれた、こんなに演劇を好きになるきっかけをくれた、「この人の作品に出会ってなかったら観劇家としての今の私は無い」というくらい大きな影響を与えてくれた、特別重要な大きな大きな存在。
私にとってそんな特別な存在の演劇人が何人かいます。

そんな数少ない特別な人の中でも特に大きな存在、劇作家で演出家の成島秀和さん。成島さんが主宰の劇団「こゆび侍」
初めて観たときからずっと毎公演いっつも素晴らしく素敵な作品を見せてくれるんです。

大っ好きなんです。
観劇部の皆さんと一緒に見たいんです。
バスケ部バド部の皆さんにも知ってもらいたいんです。
なのでオススメしたいんです。

ここまで書くなら一度観てみようか、と思いませんか。演劇好きな人が身近にいて、その人がここまで力説するのなら、足を運んでみようと思いませんか。これだけ激賞するということは、不評なら相当の反動があると思います。もしかしたら、観劇部の存続が危ぶまれるかも知れません。そのリスクを負ってまでオススメすることが、他者の心を揺さぶるのだと思います。

マスコミなどのプレビュー記事は情報量や写真が充実し、文章として完成されていると思いますが、その多くはすでに演劇を観る習慣のある人に向けて書かれています。最初から演劇に関心のある層に向けた記事なのです。そもそも演劇を観ない人の心をどうしたら動かせるのか、それは本当に自信を持ってオススメ出来る作品が上演されるとき、自分の全観劇経験を懸けて全身全霊でオススメすることではないかと、この観劇部部長さんの文章を読んで思いました。

演劇に接すれば接するほど、オススメしたい作品は増えていくものですが、反対に演劇を全く観ない人にとっては、月1本でも大変なことなのです。演劇を全く観ない人は「今月の10本」や「今月の3本」ではなく、「今月本当に観るべき1本」を知りたいのです。

演劇関係者には、昔の『ぴあ』本誌のような網羅的な公演情報を望む人が多いようですが、それはすでに演劇を観る習慣がある人向けの情報です。集客には意味があっても、創客にはつながらないでしょう。創客に必要なのは、演劇を全く観ない人向けに「今月本当に観るべき1本」を全身全霊でオススメすることだと思います。

全身全霊でオススメしたい作品が毎月あるとは限りませんから、そのときは「今月はありません」でいいと思います。だって事実だもの。逆に2本重なってしまったら、観劇部部長さんのように理由を書いて、スペースを倍にして紹介したらいいと思います。最初からスペースや記事本数が決まっていて、それに合わせてプレビューする作品数が決まるというのは、予定調和すぎて〈演劇的ではない行為〉のように思えます。

今月のオススメは、マスコミだけでなく個人サイトでも書く方がいると思います。「今月の10本」や「今月の3本」は演劇ファン向けにして、それとは別に「今月本当に観るべき1本」をもっと熱く語りませんか。その熱い思いこそが、他者を動かすエンジンだと思います。

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