この記事は2008年12月に掲載されたものです。
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精華小劇場の貸館開始を問う

カテゴリー: fringeのトピック以前 | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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大阪市の精華小劇場は、これまで主催事業のみを開催してきましたが、[トピック]でお伝えしたとおり、空き期間を「提携公演期間」として貸館を実施することを発表しました。09年度の締切は当初10月31日でしたが、その後12月26日に延長されました。しかし、いまだ公式サイトにはその理由や必要性が明確に書かれていません。

劇場の稼働率向上や地域住民・他ジャンルへの開放が目的なら、そのことをはっきり書いたほうが理解を得られやすいと思いますし、精華演劇祭があるにも関わらず現代演劇を貸館の対象にすることについては、さらに説得力ある説明が欲しいと思います。精華小劇場活用実行委員会の見解を問いたいです。

同劇場のコンセプトには、次のように書かれています。

昨今の長引く市況の低迷から、演劇を取り巻く状況は劇場自体が相次いで閉鎖するなど、非常に厳しいものがある。
このような中、大阪をはじめ関西には劇団数が500団体を超えるなどレベルの高い演劇活動の集積があるにもかかわらず、基本的に「ライブ」である演劇表現は大量生産や再生が出来ないために収益性がなく、民業ベースでは劇場は成り立ちにくい面を持つ。また、地域に大阪の演劇活動の優秀さや劇場を持つことの誇りを伝達できず、芸術家と地域の交流が成立していないという現状がある。

精華演劇祭のような劇場費無料の事業は、民間劇場では文化庁の芸術拠点形成事業などに採択されない限り、実現は極めて困難です。その意味でこのコンセプトは妥当性があると考えていましたが、今回貸館を始めるのは大きなポリシー変更です。普通に考えれば、公共ホールが好条件で貸館すること自体が民業圧迫になります。

東京のように上演団体の数が圧倒的に多い地域では、まだ公共ホールが参入する余地もあると思いますが(それでもdie pratzeの真壁茂夫オーナーは、東京の公共ホール新設ラッシュを厳しく批判しています)、関西はそのような需要がなく、公共ホールの貸館については慎重に是非が問われるべきだと考えます。

コンセプトには「劇団数が500団体を超える」とありますが、これは劇団内ユニットやプロデュースも含めた数で、制作母体となる実際のカンパニー数は限られます。まだまだ週末だけの公演が目立ち、稼働率の低い劇場経営となっている関西で、なぜ新たな貸館が必要なのでしょうか。

2003年の扇町ミュージアムスクエア閉館以来、その低迷が叫ばれて久しい関西小劇場界ですが、実際には04年に新劇場の開館ラッシュとなり、芸術面で評価を重ねるカンパニーも輩出しています。いま求められているのは劇場の問題より、個々のカンパニーの制作面の努力ではないでしょうか。「劇場は成り立ちにくい」から行政が劇場を提供するのではなく、カンパニー側も公演日程を伸ばして稼働率を上げ、新たな観客を生み出すことが必要です。その上で、公共ホールと民間劇場がそれぞれの機能に応じた役割分担(棲み分け)をすべきだと思います。

無理に公演日程を伸ばすことは、カンパニーを疲弊させるとの指摘もありますが、それではいつまで経っても状況は変わりません。週末だけの公演から1週間単位の公演への移行は、関西でも20年前から課題とされてきたことです。優秀な制作者が劇場に偏り、カンパニー側に育ってこなかったことも含め、関西は演劇制作を真摯に見つめ直す時期だと思います。

精華小劇場のコンセプトは、私には民間劇場のポテンシャルを過小評価しているように思えますし、これまで小劇場界を支えてくれた先達の民間諸劇場に対するリスペクトが感じられません。大阪の「拠点劇場」は自分たちにしか出来ないという思い込みが先行しているようで、そこに現代演劇の貸館が加わることに私は強い違和感を覚えます。

主催事業の精華演劇祭も、リハーサル期間は充分に取れるようですが、まだ創作段階から劇場側が携わることは少なく、参加カンパニーにとっては「無料の貸館公演」という意識があるようです。ようやく初の自主製作が発表されましたが、本当に「拠点劇場」を目指すのなら、芸術拠点形成事業に採択されているAI・HALLのように演劇人と共同製作するなど、現代演劇の貸館の前にまだまだすべきことはあると思います。

カンパニー側も劇場の話となると、つい目先の会場確保ばかりに目が行きがちですが、関西小劇場界に欠けているものはなにかを、長期的な視点で考えてほしいと思います。

(参考)
なぜ、そんなに行政に頼るのか