第3次刊行となった『シアターアーツ』(発行/AICT日本センター、発売/晩成書房)の2号目となる通巻44号が9月に出た。これまでの『シアターアーツ』は演劇専門誌というより学術誌と呼ぶべき内容で、よほどの評論好きしか手に取らないと思っていたが、第3次からは創造環境を巡る時事的・制作的な話題も多く、これまでに比べて近寄りやすくなった。私は演劇評論というものは作品だけを対象にするのではなく、創造環境全体を含めて対象にしないと同時代に語る意味がないと考えているので、今回の編集方針は評価したい。
第3次では毎号時事的な論考に加え、地域からの情報発信にもページを割いている。43号の論考は劇場法と支援制度の見直し、そして柴山麻妃氏(劇評誌『NTR』編集長)が福岡の90年代以降の歩みを概観している。『シアターアーツ』読者層を想定した鋭い分析が読めるので、福岡の演劇人はぜひ目を通すべきだろう。福岡の抱える課題をここまで端的に指摘した文章を、私は読んだことがない。
44号では芸術監督、そして大阪の現状に大きくスポットを当てた。九鬼葉子氏(演劇評論家、大阪芸大短期大学部准教授)の劇評、畑律江氏(毎日新聞大阪本社学芸部編集委員)の論考、7月に精華小劇場で劇団太陽族が上演した『S小学校の眠らない夜』上演台本の掲載、それを作・演出した岩崎正裕氏へのインタビューなど、大阪のいまを知る内容となっている。『S小学校の眠らない夜』は大阪市の売却予定リストに入れられている精華小劇場自身をモチーフにした作品で、私も関心を持って戯曲を読んだ。関西の演劇人なら登場人物やエピソードのモデルは一目瞭然だと思うが、類似の問題は全国でも起こり得ることなので、こうした内容を全国の読者と共有するのは意味があるだろう。
ただし、これが大阪のすべてかと言えば決してそうではなく、民間劇場の奮闘ももっと紹介すべきだと思う。扇町ミュージアムスクエア閉館後に大阪の演劇文化を支えてきたのは、ウイングフィールド、in→dependent theatre、シアトリカル應典院、一心寺シアター倶楽などの民間小劇場である。記事からはウイングフィールド以外の民間劇場への言及がほとんど見られず、まるで大阪市内に他の民間劇場がないかのように思える。岩崎氏自身、この作品を観た観客から「大阪ミナミにはウイングフィールドも應典院もインデペンデントシアターもありますよ。もう大阪市には期待しなくていいんじゃないですか」と言われたという。それだけ評価されている民間劇場に、もっとエールを送ってほしい。DIVEの幹部が大阪市に期待するのは、故中島陸朗氏のサンアンドサテライト構想が根底にあるからかも知れないが、大阪で民間劇場の果たす役割は非常に大きいと思う。
距離的に大阪に近く、関西の小劇場シーンを牽引してきた兵庫県伊丹市の公共ホール、AI・HALLの果たしてきた役割ももっと力説すべきだ。実際この22年間、大阪の舞台芸術を支えてきた公共ホールはAI・HALLではないか。大阪の演劇人は住民税を伊丹市に払いたいぐらいに思ってきたはずだ。それはAI・HALLのディレクターを務める岩崎氏がいちばんわかっているだろう。そして後発ながら、2館体制で話題の公演を次々と送り届けてきたin→dependent theatreの獅子奮迅があったからこそ、いまの大阪があるのではないか。
戯曲やインタビューを読むと、岩崎氏の大阪市芸術創造館の指定管理者選定に対するしこりもまだ根深いように感じる。過去にも書いたが、指定管理者選定で批判すべきは指定管理者制度の対象施設にした行政と、指定管理者を選んだ選定委員会であって、応募してきた指定管理者ではない。そうでないと指定管理者の公募に応じたこと自体が悪いことになってしまう。
ほとんど報じられていないが、今年4月の大阪市芸術創造館指定管理者更新に際し、DIVEは福岡のNPO法人FPAPとの共同事業体で申請した。結果は、選定委員5名全員が現在のLLPアートサポートを選んでいる。館長候補に北村想氏、パートナーにFPAPを選んだことに対し、選定委員から「館長・DIVE・FPAPの三者の活動する地域が離れているという不安要素を補えるだけの提案がなかった」とのコメントがある。前回LLPアートサポートが大阪が進出したとき、京都との関係性が争点となったが、これと同じことのように思えてしまう。
『S小学校の眠らない夜』には劇場法(仮称)への期待もうかがえるが、劇場法(仮称)が制定されたとしても、自分たちが支持する芸術監督が着任するとは限らない。公募で関西とは縁もゆかりもない芸術監督が来るかも知れない。大阪市芸術創造館は、舞台芸術と無縁のビルメンテナンス業者が指定管理者になったのではない。そこが通常の指定管理者制度への批判と異なる、関西ローカルの問題に思える。少なくともあと3年半は現在の体制が続くわけで、禍根は捨ててDIVEとLLPアートサポートは大阪の未来を共に考えていくべき時期ではないだろうか。