この記事は2016年1月に掲載されたものです。
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舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)に貸館中心の民間劇場制作者も積極的に参加し、「意思のある貸館」が果たしてきた役割を共有してほしい

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)は「会員一覧」を公式サイトに掲載しているが、これを見て気づくのは貸館中心の民間劇場制作者がとても少ないということだ。

2014年4月24日現在の一覧では、カンパニーの持ち小屋ではない貸館中心の民間劇場と言えるのは、スペースベン(青森県八戸市)の田中勉氏、王子小劇場(東京・王子)の玉山悟氏、シアターKASSAI(東京・池袋)の森久憲生氏、Art Theater dB KOBE(神戸・新長田)の横堀ふみ氏ぐらいではないか。このうち玉山氏は東京都北区の公共稽古場施設「ココキタ」に転職したので、本当に少数だと思う。

これは私の持論だが、日本の小劇場演劇を育んできたのは民間の小劇場であって、その多くは自主制作ではなく貸館中心だが、貸館=ブッキングという行為を通じて演劇をプロデュースしてきたと思う。有望な若手には劇場使用料を減免したり、支払いを猶予するなど、貸館であっても金銭リスクを共有してきた例も多い。

公共ホールが自主制作に取り組んで成果を上げるようになったのは、ここ20年のことだ。まだ歴史は浅い。演劇界全体を見渡したとき、貸館中心の民間劇場が果たす役割は依然として大きく、その制作者がON-PAMにほとんど参加していないことに、私は違和感を感じる。もっと積極的に参加してもらい、日本の演劇シーンを反映した会員構成になってもらいたい。

素朴な疑問だが、ON-PAMに参加しているカンパニーや制作会社の制作者は、貸館中心の民間劇場制作者を同じ制作者として正しく認知しているだろうか。公共ホールによる自主制作が増え、劇場で創作活動に携わる狭義の制作者だけが「制作者」として映り、貸館担当を「劇場の人」のように思っていないだろうか。前者がプロダクションマネージャーなら、後者はブッキングマネージャーである。共に演劇制作に欠かせない存在だ。

放送局では、番組制作を担当する制作部門に対し、番組表を決定する編成部門が「頭脳」と言われている。編成部門に新人が配属されることは稀で、制作部門などで経験を積んだ上で、どの時間帯にどんな番組を放送するかを企画している。民間劇場の貸館もこれと同じで、劇場側が見込んだカンパニーをブッキングすることで、カンパニーを競わせ、作品のクオリティを向上させてきた。

先着順ではない劇場側の意思が反映された貸館業務は、非常にクリエイティブな行為だ。劇場の個性が色濃く反映されたラインナップは、その劇場の世界観と客層を形成し、劇場文化そのものだと思う。演劇の創客を考えるときも、観客との接点になるのは劇場であり、作品以前に劇場に親しみを持ってもらうことが重要である。民間劇場のスタッフは「劇場の人」ではなく、同じクリエイションの現場にいる「制作者」なのだ。

貸館中心の民間劇場が果たす役割、意思を持った貸館の可能性については、ON-PAMで共有してほしいテーマの一つでもある。2015年度の年間テーマ「『あたらしい制作者』像を考える」で扱ってほしいくらいだ。貸館以外にも、ON-PAM会員には広報宣伝、票券、営業、学芸などをメインに担当している制作者もいるだろう。アーティストと向き合うことだけが制作者の仕事ではなく、こうした領域にもスポットを当て、制作業務全般について意見交換してほしいと思う。