この記事は2008年8月に掲載されたものです。
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劇評ブログはもっと厳しくていい

カテゴリー: fringeのトピック以前 | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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多くの観客がブログで劇評(感想と言われる方が多いようですが)を記すようになった現在、その影響度は無視出来ない存在になっています。特に多数の作品をご覧になっている小劇場フリークの方のブログは注目度も高く、クチコミ形成の大きな要因になっていると言えるでしょう。

個人ブログですから、本来なにをどのように書こうと自由ですが、小劇場を愛する方なら、その根底には「観劇人口を増やしたい」「演劇の間口を広げたい」という思いが必ずあると信じています。その前提でお願いしたいのですが、つまらない作品、時間をロスしたと思える作品に出会ったとき、もっと厳しい書き方にしていただけないでしょうか。率直に言って、表現がやさしすぎる方が多すぎるのではないでしょうか。

宮崎駿監督の近著『折り返し点』に、こんな一文があります。

映画の一番いいところは、映画館で観た人がつまらないって腹を立てることなんです。テレビは消してしまえば終わりですし、マンガや小説にしても嫌だったら読むのをやめてしまえばいい。でも映画はたいていの人が最後まで観るんです。だから面白い時は面白いけど、腹が立つ時は腹が立つ。つまり評論がまだ存在し得るんです。評論家が腹を立てることが出来るわけです。それが僕は映画の最大の可能性だと思っています。

『折り返し点』(岩波書店、2008年)

演劇も同じでしょう。絶賛しているブログはよく見かけますが、激怒しているブログというのは、なかなかお目にかかりません。それどころか、「集中力が続かなかった」「途中で寝てしまった」などのように、どちらに責任があるか曖昧な書き方にしてしまう。それって結局、つまらなかったってことじゃないですか。だったらはっきり「つまらなかった」と書きましょうよ。可能性を過大評価して、当たり障りのない劇評を書くことは、批評対象になっている演劇人にとっても勘違いの元だと私は思います。

小劇場フリークの方は、一般の方よりはるかに多数の作品をご覧になっています。月15本観る方にとって、そのうち数本がハズレでも大したことないし、観劇自体がすでに生活習慣に組み込まれているわけですから、ハズレでも怒りを感じないでしょう。私も経験がありますが、観劇が日常化すると、たとえ出来が悪い作品でもなにかしら長所を見つけ(俳優、スタッフワークなど)、それで観劇に意義を見出すことが出来ます。

けれど、それは月15本観ているからこその感情であって、月1本しか観ない方が作品を選ぶときの参考になるでしょうか。小劇場界にいま必要なのは、普段芝居を観ない/これから観たいと思っている方へのアドバイスであって、そのためには「今月1本観るとしたら」という観点で批評することが求められているのではないでしょうか。

月15本観ている方にとっては、どれもが可能性を感じる原石のような作品かも知れません。しかし、小劇場に最初の一歩を踏み入れようとしている方にとって必要なのは、原石ではなく、すでに輝いているダイヤモンドなのです。小劇場フリークの方なら、きっとそのダイヤモンドを示してくれるだろうと思って、みんなアクセスしているのです。最初の1本で、芝居嫌いになるかどうかがかかっているのです。

小劇場フリークの方は、演劇人にも知人が出来てしまい、それが筆を鈍らせているのかも知れません。けれど原点に立ち返り、小劇場ファンを増やすためにはどうしたらいいかを考えていただきたい。まずはハズレではなく、これならと思える作品を紹介することでしょう。その差が明確にわかりにくいブログが多いのではないかと思うのです。点数をつけている方もいますが、そもそもの基準が甘すぎる気がします。

「しのぶの演劇レビュー」メールマガジンを発行するようになったのも、友人の方から「じゃあ、結局いまどれを観たらいいの」という質問がきっかけだったと聞いています。私も今年は多忙で観劇本数が激減し、選んで観る一本の重みを噛み締めています。作品を発掘することが小劇場の楽しみだとは思いますが、社会人に観劇を薦めようと考えた場合、明確な評価というものが情報として必要だと感じるのです。もちろん、個人間で評価が分かれるのは大歓迎です。それでこそ芸術ですから。

最後に以前もお願いしましたが、演劇人と飲み会や打ち上げに行ったことは極力書かないでいただきたい。演劇の間口を広げるためには、〈身内客〉ばかりの狭い世界と思われたくないでしょう。

折り返し点―1997~2008
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劇評ブログはもっと厳しくていい」への2件のフィードバック

  1. ただのみるひとのただのかんそうぶん。

    私が(札幌の小)演劇を見なくなった理由

    お久しぶりでございます。
    って見てくださる方がいらっしゃるのかどうかわかりませんが。
    なかなか舞台を見る機会がなかったもので、更新もストップしていました。
    時間が合わなくてやむなく見ることができなかった、ということもありますが、
    (特にチェルフィッチュ…

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